【漫画版公開中】転移先は女子大生の部屋でした‐ある日、美少女姫様とイケメン騎士様が転がり込んできたら‐

原案:トウキ汐・作画:猫倉ありす

文字の大きさ
42 / 56

【漫画付】七月七日③

しおりを挟む
(…もしかして、ヒューズさんが、私の手を握ってる…?)

 知花は何度もその大きな背と、繋がった手を順番に見た。

(本当にヒューズさんと手を繋いでる!!!!)

 途端にまるで酔ってしまったかのように、知花の足元はふわふわとした感覚に陥った。
 目の前は祭りの提灯や屋台の灯りのせいだけではないほどに輝いて、眩暈を引き起こしてしまいそうだった。

 まるで夢の中にいるような感覚だが、ぎゅっと握られた手からヒューズの温度が流れてくる。
 自分の鼓動の速さがそこから伝わらぬよう、ただ祈りながら人混みを掻き分けていく。

 やがて屋台が並ぶ道を抜け、人影がまばらな道を進んでいた最中、空に大きな光の花が咲いた。

「始まったな。急ごう」

 手を繋いだまま、更に道なりに進む。

 お互い何も話さないまま辿り着いた先は、街を見下ろせるちょっとした高台だった。
 ヒューズが手摺の元へ知花の手を引いた瞬間、眼前に一際大きな花火が開いた。

「…う…わぁ!!凄い!!こんなに大きく見える場所、初めてですっ!!」
「そうか…それなら聞いてきた甲斐があった」

 まるで知花の為に聞いてきたような口ぶりだ。
 頬を真っ赤に染め上げた知花は、それ以上熱を上げてしまわぬように、ヒューズから空へと視線を移した。

 繋がれた手はそのままに、ただ時間が過ぎていくことだけでもこんなに幸せなのだと、知花はこの時初めて知った。

「……今日は晴れてるから、織姫様と彦星様、逢えてますね」

 花火の光の粒が落ちていくその後ろに、アルタイルとベガが煌めいていた。

 虫の声、湿り気のある風に混ざる火薬の匂い。
 日本の夏を凝縮したような夜だ。

 花火を眺める振りをしながら、知花はヒューズの顔を盗み見ると、彼の新緑の瞳は、ずっとキラキラと散る花火を映し込んでいた。

(…今なら…言っても気付かれないかな…?)

 濃紺の空に咲く色とりどりの花は、フィナーレへ向けて数を増やしていく。

 知花の耳に響く火薬の弾ける音も休む暇はない。

 一筋の光が夜空へと昇るのを確認した時、知花は一度ぎゅっと唇を結んでから、小さく開いた。


「ヒューズさん…好きです」


 その声は予想通り、大きな花火の音にかき消される。

 ホッとしたような、悲しいような気分で、知花はもう一度空を見上げた。

「なかなか凄いな、こっちの花火も」
「へへ、魔法の花火にも負けませんよ」

 知花が満足気にヒューズに笑いかけると、彼には珍しく甘い笑みを浮かべていた。

「知花」
「…は、はい!!何でしょう、ヒューズさん!!」


「俺も好きだよ」

 その言葉は花火にかき消されることも無く、知花への耳へと届いた。

(――今、俺もって言った…?え?まさか…聞こえてた…?)

 たった一言だったけれど、その言葉が知花の心へ届いた時、呼吸どころか時間すら止まってしまったように感じた。

「君が好きだ。いつも笑顔で接してくれる君も、寂しいのに寂しいとすら言えずに我慢してしまう君も、誰かのために精一杯な君も全部愛しい」

「……ヒューズ…さん…?」

 ヒューズが静かに目を伏せると同時に、最後の花火が空へと散っていく。
 知花達の居る高台は、薄明りの街灯しか残っていない。

「……俺はあの彦星のように一年に一度、君に会いに来ることすら出来ない。けれど、どうしても君に伝えたかった。すまない…」

「…な、何で…何で謝るんですか!?」

 嬉しい筈なのに悲しい。

 だって彼はもうすぐ、この世界から居なくなる。
 彼が今謝っているということは、そういうことなのだ。

 わかっていた。
 どんなに笑う練習をして、笑顔を取り繕ったところで無駄なことも。

 だって、知花が本当に望んでいることは…――

「私も…!私も連れて行ってください!!!!」

 知花が叫んだのは、ずっと言えなかった願いだ。
 ヒューズを困らせるからと、自分自身にすら嘘をついたのに。

 知花はぶつかるようにヒューズの胸へと抱きつき、背中に回したその手で、必死に彼の服を掴む。
 縋るように泣きつく知花の頭を、ヒューズはそっと抱きしめるように触れた。
 なだめるように何度も大きく後頭部を撫でる。

 ずっと抱きつきたかった大きな身体。
 自分に触れて欲しかった手。
 そして『好き』の言葉。
 今この全てがあるのにーー…

「ごめん…知花…」

 共に生きたいという願いだけは絶対に叶うことは、無い。

「ヒューズさん…」

 ヒューズはゆっくりと知花を引き剥がし、その額にキスを落とす。

「君と共に過ごせて、君を好きになれて良かった…ありがとう」

 次の瞬間、彼のぬくもりが残った額へと、硬く冷たいものが当てられた。

 やがて押し当てられている物が去年の夏、知花を襲った男達に使われた小さな宝石に気付いた時、知花は叫んだ。

「やめっ…!!!!」

 絶望と共に脳裏に強い光が見えた時、知花は意識を失いヒューズの腕の中に崩れ落ちた。
 そんな華奢な身体をヒューズはもう一度、強く強く抱きしめる。

「二十歳の誕生日おめでとう。知花、君の…幸せを願っている」

 その言葉は夜空に輝く二つの星に吸い込まれていった。
 ーーーーーーーーーーーーーーー
 おまけ漫画はその後のお話です。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...