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【漫画付】七月七日③
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(…もしかして、ヒューズさんが、私の手を握ってる…?)
知花は何度もその大きな背と、繋がった手を順番に見た。
(本当にヒューズさんと手を繋いでる!!!!)
途端にまるで酔ってしまったかのように、知花の足元はふわふわとした感覚に陥った。
目の前は祭りの提灯や屋台の灯りのせいだけではないほどに輝いて、眩暈を引き起こしてしまいそうだった。
まるで夢の中にいるような感覚だが、ぎゅっと握られた手からヒューズの温度が流れてくる。
自分の鼓動の速さがそこから伝わらぬよう、ただ祈りながら人混みを掻き分けていく。
やがて屋台が並ぶ道を抜け、人影がまばらな道を進んでいた最中、空に大きな光の花が咲いた。
「始まったな。急ごう」
手を繋いだまま、更に道なりに進む。
お互い何も話さないまま辿り着いた先は、街を見下ろせるちょっとした高台だった。
ヒューズが手摺の元へ知花の手を引いた瞬間、眼前に一際大きな花火が開いた。
「…う…わぁ!!凄い!!こんなに大きく見える場所、初めてですっ!!」
「そうか…それなら聞いてきた甲斐があった」
まるで知花の為に聞いてきたような口ぶりだ。
頬を真っ赤に染め上げた知花は、それ以上熱を上げてしまわぬように、ヒューズから空へと視線を移した。
繋がれた手はそのままに、ただ時間が過ぎていくことだけでもこんなに幸せなのだと、知花はこの時初めて知った。
「……今日は晴れてるから、織姫様と彦星様、逢えてますね」
花火の光の粒が落ちていくその後ろに、アルタイルとベガが煌めいていた。
虫の声、湿り気のある風に混ざる火薬の匂い。
日本の夏を凝縮したような夜だ。
花火を眺める振りをしながら、知花はヒューズの顔を盗み見ると、彼の新緑の瞳は、ずっとキラキラと散る花火を映し込んでいた。
(…今なら…言っても気付かれないかな…?)
濃紺の空に咲く色とりどりの花は、フィナーレへ向けて数を増やしていく。
知花の耳に響く火薬の弾ける音も休む暇はない。
一筋の光が夜空へと昇るのを確認した時、知花は一度ぎゅっと唇を結んでから、小さく開いた。
「ヒューズさん…好きです」
その声は予想通り、大きな花火の音にかき消される。
ホッとしたような、悲しいような気分で、知花はもう一度空を見上げた。
「なかなか凄いな、こっちの花火も」
「へへ、魔法の花火にも負けませんよ」
知花が満足気にヒューズに笑いかけると、彼には珍しく甘い笑みを浮かべていた。
「知花」
「…は、はい!!何でしょう、ヒューズさん!!」
「俺も好きだよ」
その言葉は花火にかき消されることも無く、知花への耳へと届いた。
(――今、俺もって言った…?え?まさか…聞こえてた…?)
たった一言だったけれど、その言葉が知花の心へ届いた時、呼吸どころか時間すら止まってしまったように感じた。
「君が好きだ。いつも笑顔で接してくれる君も、寂しいのに寂しいとすら言えずに我慢してしまう君も、誰かのために精一杯な君も全部愛しい」
「……ヒューズ…さん…?」
ヒューズが静かに目を伏せると同時に、最後の花火が空へと散っていく。
知花達の居る高台は、薄明りの街灯しか残っていない。
「……俺はあの彦星のように一年に一度、君に会いに来ることすら出来ない。けれど、どうしても君に伝えたかった。すまない…」
「…な、何で…何で謝るんですか!?」
嬉しい筈なのに悲しい。
だって彼はもうすぐ、この世界から居なくなる。
彼が今謝っているということは、そういうことなのだ。
わかっていた。
どんなに笑う練習をして、笑顔を取り繕ったところで無駄なことも。
だって、知花が本当に望んでいることは…――
「私も…!私も連れて行ってください!!!!」
知花が叫んだのは、ずっと言えなかった願いだ。
ヒューズを困らせるからと、自分自身にすら嘘をついたのに。
知花はぶつかるようにヒューズの胸へと抱きつき、背中に回したその手で、必死に彼の服を掴む。
縋るように泣きつく知花の頭を、ヒューズはそっと抱きしめるように触れた。
なだめるように何度も大きく後頭部を撫でる。
ずっと抱きつきたかった大きな身体。
自分に触れて欲しかった手。
そして『好き』の言葉。
今この全てがあるのにーー…
「ごめん…知花…」
共に生きたいという願いだけは絶対に叶うことは、無い。
「ヒューズさん…」
ヒューズはゆっくりと知花を引き剥がし、その額にキスを落とす。
「君と共に過ごせて、君を好きになれて良かった…ありがとう」
次の瞬間、彼のぬくもりが残った額へと、硬く冷たいものが当てられた。
やがて押し当てられている物が去年の夏、知花を襲った男達に使われた小さな宝石に気付いた時、知花は叫んだ。
「やめっ…!!!!」
絶望と共に脳裏に強い光が見えた時、知花は意識を失いヒューズの腕の中に崩れ落ちた。
そんな華奢な身体をヒューズはもう一度、強く強く抱きしめる。
「二十歳の誕生日おめでとう。知花、君の…幸せを願っている」
その言葉は夜空に輝く二つの星に吸い込まれていった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
おまけ漫画はその後のお話です。
知花は何度もその大きな背と、繋がった手を順番に見た。
(本当にヒューズさんと手を繋いでる!!!!)
途端にまるで酔ってしまったかのように、知花の足元はふわふわとした感覚に陥った。
目の前は祭りの提灯や屋台の灯りのせいだけではないほどに輝いて、眩暈を引き起こしてしまいそうだった。
まるで夢の中にいるような感覚だが、ぎゅっと握られた手からヒューズの温度が流れてくる。
自分の鼓動の速さがそこから伝わらぬよう、ただ祈りながら人混みを掻き分けていく。
やがて屋台が並ぶ道を抜け、人影がまばらな道を進んでいた最中、空に大きな光の花が咲いた。
「始まったな。急ごう」
手を繋いだまま、更に道なりに進む。
お互い何も話さないまま辿り着いた先は、街を見下ろせるちょっとした高台だった。
ヒューズが手摺の元へ知花の手を引いた瞬間、眼前に一際大きな花火が開いた。
「…う…わぁ!!凄い!!こんなに大きく見える場所、初めてですっ!!」
「そうか…それなら聞いてきた甲斐があった」
まるで知花の為に聞いてきたような口ぶりだ。
頬を真っ赤に染め上げた知花は、それ以上熱を上げてしまわぬように、ヒューズから空へと視線を移した。
繋がれた手はそのままに、ただ時間が過ぎていくことだけでもこんなに幸せなのだと、知花はこの時初めて知った。
「……今日は晴れてるから、織姫様と彦星様、逢えてますね」
花火の光の粒が落ちていくその後ろに、アルタイルとベガが煌めいていた。
虫の声、湿り気のある風に混ざる火薬の匂い。
日本の夏を凝縮したような夜だ。
花火を眺める振りをしながら、知花はヒューズの顔を盗み見ると、彼の新緑の瞳は、ずっとキラキラと散る花火を映し込んでいた。
(…今なら…言っても気付かれないかな…?)
濃紺の空に咲く色とりどりの花は、フィナーレへ向けて数を増やしていく。
知花の耳に響く火薬の弾ける音も休む暇はない。
一筋の光が夜空へと昇るのを確認した時、知花は一度ぎゅっと唇を結んでから、小さく開いた。
「ヒューズさん…好きです」
その声は予想通り、大きな花火の音にかき消される。
ホッとしたような、悲しいような気分で、知花はもう一度空を見上げた。
「なかなか凄いな、こっちの花火も」
「へへ、魔法の花火にも負けませんよ」
知花が満足気にヒューズに笑いかけると、彼には珍しく甘い笑みを浮かべていた。
「知花」
「…は、はい!!何でしょう、ヒューズさん!!」
「俺も好きだよ」
その言葉は花火にかき消されることも無く、知花への耳へと届いた。
(――今、俺もって言った…?え?まさか…聞こえてた…?)
たった一言だったけれど、その言葉が知花の心へ届いた時、呼吸どころか時間すら止まってしまったように感じた。
「君が好きだ。いつも笑顔で接してくれる君も、寂しいのに寂しいとすら言えずに我慢してしまう君も、誰かのために精一杯な君も全部愛しい」
「……ヒューズ…さん…?」
ヒューズが静かに目を伏せると同時に、最後の花火が空へと散っていく。
知花達の居る高台は、薄明りの街灯しか残っていない。
「……俺はあの彦星のように一年に一度、君に会いに来ることすら出来ない。けれど、どうしても君に伝えたかった。すまない…」
「…な、何で…何で謝るんですか!?」
嬉しい筈なのに悲しい。
だって彼はもうすぐ、この世界から居なくなる。
彼が今謝っているということは、そういうことなのだ。
わかっていた。
どんなに笑う練習をして、笑顔を取り繕ったところで無駄なことも。
だって、知花が本当に望んでいることは…――
「私も…!私も連れて行ってください!!!!」
知花が叫んだのは、ずっと言えなかった願いだ。
ヒューズを困らせるからと、自分自身にすら嘘をついたのに。
知花はぶつかるようにヒューズの胸へと抱きつき、背中に回したその手で、必死に彼の服を掴む。
縋るように泣きつく知花の頭を、ヒューズはそっと抱きしめるように触れた。
なだめるように何度も大きく後頭部を撫でる。
ずっと抱きつきたかった大きな身体。
自分に触れて欲しかった手。
そして『好き』の言葉。
今この全てがあるのにーー…
「ごめん…知花…」
共に生きたいという願いだけは絶対に叶うことは、無い。
「ヒューズさん…」
ヒューズはゆっくりと知花を引き剥がし、その額にキスを落とす。
「君と共に過ごせて、君を好きになれて良かった…ありがとう」
次の瞬間、彼のぬくもりが残った額へと、硬く冷たいものが当てられた。
やがて押し当てられている物が去年の夏、知花を襲った男達に使われた小さな宝石に気付いた時、知花は叫んだ。
「やめっ…!!!!」
絶望と共に脳裏に強い光が見えた時、知花は意識を失いヒューズの腕の中に崩れ落ちた。
そんな華奢な身体をヒューズはもう一度、強く強く抱きしめる。
「二十歳の誕生日おめでとう。知花、君の…幸せを願っている」
その言葉は夜空に輝く二つの星に吸い込まれていった。
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おまけ漫画はその後のお話です。
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