ホラー短編集

Chaako

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奇跡を騙る悪魔

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信教は自由だ。

信じられないことが沢山ある世の中だから、何か1つ信じるものがあったっていいじゃないか。

だが、信じられないことを素直に信じないと言うのもまたいいだろう。

私が高校生のとき、曾祖母が亡くなった。

曾祖母は子供を産むことができなかったので、昭和の時代には酷い苦労をした。

前夫の家業を手伝い和菓子を作る仕事をしていた曾祖母は、前夫の実家から精神的なものから肉体的なものまで、あらゆる暴力を受けたようだ。

そのうち前夫が次の妻と結婚するため、まず曾祖母を引き取ってくれる人を募集したという。

今の時代の感覚からすれば暴力は犯罪になってもおかしくない話だが、その後の対応は義理を守り曾祖母が生きやすい場所を探したとも見え、溜飲は下げられた。

一方、私の曾祖父は若い頃に妻(私と血の繋がった曾祖母)を病気で亡くしてしまったので、曾祖母を新しい妻として前夫から譲り受けた。

以上の話は曾祖母が亡くなった後に祖父から聞いた事である。

生前の曾祖母はそんな苦難も一切見せず、日々の生活を穏やかに過ごしていた。

私がおばあちゃんと呼ぶと祖母までこちらを見るので、小さい方のおばあちゃん、という意味で曾祖母をちちゃばあちゃんと呼んでいた。

小さい頃は供えたおぼきさん(お仏器飯)をとるのを手伝ったり、一緒に畑の草をむしったりした。

私が小学生のときは母の実家と父の実家の両方にお世話になっていた。

ちなみにこの曾祖母とは、母の父の母である。

私の中学校は父の実家から歩いて15分くらいで近かったので、私が中学生になると生活の中心は父の実家に移ってしまった。

ある日、私は誰にも言わず無断で母の実家に帰った。

小学生のときもしばしばそういうことをしていた。

両親には勝手に帰るなと叱られたが、私は曾祖母と祖母に会いに行っていただけだ。

父や母は私からしてみれば若く、衝突が絶えなかったし、我が身に降りかかる火の粉を避けるためというのもあった。

弟もいたのだが、一番上の私が自然と火の粉を被った。

私は小さくではあるが両親に反発していた。

一方、曾祖母(と祖母)は、私を見るといつも喜んだ。

よく自作の梅酒と白玉団子を出してくれたが、それは今でも両親には秘密だ。

母が栄養管理を頑張っていて、それ以上のものを嫌がったのである。

その日も曾祖母は仏間で白玉をこねていた。

仏様にお供えするためだろう。

居間で転がって私はセーラームーンでも見ていた。

するとファミリーマートでも使われている、あのチャイムが鳴った。

玄関に出ると、背の高い老婆と小さな中年女性がいた。

「〇〇ちゃん?年寄りおばあちゃんいらっしゃる?」

初めて会ったのにどうして私の名前を知ってるんだ?と一瞬思ったが田舎ではよくあることだ。

「ちちゃばあちゃーん?お客さーん。」

そう言うと仏間の襖を開けるガッと言う音に続いて、シイン、シイン、と廊下の曇りガラスの鳴る音がした。

私は役目が終わったと判断してテレビを見続ける。

話は全く聞いていなかったが、なんだか長い話をしているなーと思っていた。

ゴールデンタイムの番組が終わろうとしていたとき、母が私を探して実家にやってくる。

車の音を察すると、何か気まずいことでもあるのか老婆と中年女性はそそくさと帰っていった。

母に叱られその日は終わり。

母も思うところがあるのか、叱る声に迷いがあった。

さて、1、2年ほど経ち、私はまた母の実家に帰った。

当時の恋人の実家と母の実家が近く、学校から一緒に歩いて帰ると自然と母の実家に着いたのだ。

同じ結果なのに両親はむしろ喜んでいた。

しかし私は喜べないものを見てしまった。

また背の高い老婆と小さな中年女性が、今度は夕方には家にいた。

私が音もなく帰宅したので向こうは私に注意を払わなかったのだろう。

「...ということだからお願いしますよ〇〇さん、これで△△さんのご病気が治るんですから。」

あ???

「こんばんはー。」

私は知らないフリをして老婆と中年女性に挨拶した。

すると老婆と中年女性はこれ以上なくぎこちない笑顔で私に挨拶を返した。

私が衣服を洗濯機に入れるとき、2人は曾祖母の手を掴み何かを熱心にお願いしていた。

そして私が洗濯機を回すと、2人はそそくさと帰っていった。

私はその夜、祖父と母に詳しい内容をチクった。

前からそういうことがあったのだろう、祖父は状況を既に理解していた。

祖父は忙しい人で家に居ないことが多かったが、祖父が実家になるべくいるということで話がまとまった。

そしてさらに別の日。1ヶ月後くらいか。

ついに恐ろしいことが起こった。

私が実家に帰ると、また件の2人がいて、曾祖母を車でどこかに連れて行こうとしていた。

「〇〇ちゃん、行ってくるね。」

そう言った曾祖母は聖母のようだったが、どこかに闇を抱えているようでもあった。

曾祖母は後部座席に老婆と乗り、中年女性は運転席に乗った。

曾祖母が外行き用に使っている手押し車を私は畳んで車の後部座席に突っ込んだ。

車が発進する。

黙って見送るしかないのか...そう思ってちらっと敵の顔を見た。

別人だ。

いつもの老婆と中年女性だと思っていたら、そうじゃなかった。

2人の顔は、ふざけて作ったパンのように、曖昧で歪な形をしていた。

誰だよお前ら。

私は一瞬困惑して車が通り過ぎるのを許してしまったが、憤りが一気に込み上げてきて、思い切り走って車を追いかけた。

しかし追いつくはずもなかった。

くそっ、祖父がいない時間を狙われたか。

私は携帯電話を取り出し、仕事中の母に連絡しようとした。

すると、

「〇〇ちゃん、よう帰ってきた。」

曾祖母が車庫の裏の畑から出てきて、私に声をかけた。

「えっ!今ちちゃばあちゃん車に乗ってなかった!?」

「車?来とったかね...。」

曾祖母が車庫の横から私道を覗き込み、不思議そうな顔をする。

私がさっき車に突っ込んだと思った手押し車を曾祖母は押していた。

「あ...?え...?」

私は混乱した。

その後はずっと曾祖母の話相手になっていた。

夜、祖父が帰ってくるなり私にこう言った。

「ちちゃばあちゃんは、△△さんの末期癌を治すために700万出せと〇〇会にずっと脅されておった。
〇〇会に聞いてみたけども、△△さんは他県の人で実在するかも分からん。
仮に話が本当だったとしても、いくらお金を積んだところで末期癌を治すのは難しいじゃろう。
ある程度の歳になったら病気も何も無い、みんな寿命なんじゃ。
〇〇会が言っとるのは、奇跡を餌にお金を集める方便にすぎない。
700万という馬鹿げた数字も、うちの財産の高を計るために姑息に決めたんじゃろ。
今日わしが断って〇〇会とは縁を切ることにした。心配せんで良い。」

祖父はその日〇〇会に交渉に行っていた。

しかも上手く断ることができたようだ。

私は安心したが、車の一件が気にかかった。

しかし祖父には、それは夢でも見たんじゃろうと一蹴されてしまった。

母には、3人で訪問に来てたんじゃないと言われた。

私は高校受験のために勉強に専念し、母の実家からは一旦離れることになった。

その後の話は祖父から電話で聞いている。

祖父によれば縁を切るとのことだったが、残念ながら切れなかったようで、曾祖母は新興系の宗教に取り込まれてしまったらしい。

老婆と中年女性のお願いは、いつの間にか曾祖母のお願いにすり変わっていた。

それが何よりも悲しかった。

だが、祖父がお金の管理をしていたのでどうということもなかったようだ。

高校入学後、曾祖母は不整脈で入院しそのまま老衰で亡くなった。

最期は私のことも分からなくなっていたが、病院ではそれなりに幸せそうだった。

臨終のとき、私が曾祖母の手を掴んでいた。

お願いなんかない。ありがとう、ちちゃばあちゃん。
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