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光の行方
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小学6年生の頃だったと思う。
伝統芸能の全国大会の打ち上げで隣県の海に来ていた。
中学生くらいまで私は太鼓の叩き手であり、その年の県の代表として私の地区が選ばれたのだった。
技術はそこそこあったと思うし、選考で色んな賞を貰ったが、単に順番が回ってきただけだとも思う。
ともかく、その打ち上げとして地区のみんなで海に行った。
ちなみにここだけの話だが、公民館の一室にはいつも宝くじやtotoが山ほど散らばっていて、その年は当たらなかったので予算が少なく海になったのだと思う。
totoの魔の手は家のテレビの上にも伸びていた。
さて、海に行ったのは全国大会に出場したメンバーのS君、私、N君、Gさん(ちーちゃん)、Fさん、Tさん、K君(全員小学生で年齢順)とその家族、OBOGだ。
私たちは少し泳いで遊んだあと、誰かが持ってきたボールでバレーをしていた。
両親も誘ったが、断られた。
海や私たちを眺めるだけで果たして楽しいのだろうか。
私たちは弟妹を含め子供11人でわいわいやっていた。
楽しそうだったのだろう、そのうち近くにいた名前も知らない子供たちも混ざり、15人くらいで3つのボールをトスしあった。
どれほど経っただろう。
最年長のS君が波打ち際からボールを思いっきり蹴り上げると、一瞬強い風が吹いて沖の方に大きくボールが流れた。
20mほどだっただろうか。
私と何人かが走って海に飛び入り、誰がボールをとって戻ってくるか競い合った。
その一部は飛び込んでみたはいいものの、恐怖したのか海に入るなり諦めていた。
私はまず浅瀬を走って追いかけたが、ボールは少しずつ沖に流されてるように見えた。
もうあと5mほどというとき、水深は私の身長近くになっており、私は頭を出すので精一杯だった。
1歩踏み出すと底には段差があって、下はどうやら届かない深さだった。
並走していた知らない子が暗い顔で言う。
「危ねぇぞ...。」
もう少しなのに。
しかしその言葉を引きずり、私はいまひとつ勇気が出せずにいた。
後ろを見ると身長の小さいN君とK君が泳いでこちらに来ていた。
他は諦めたらしい。
私たちが止まっているのを見て、N君とK君が泳ぐのをやめた。
「とらんの?」
K君が立ち泳ぎしながら不思議そうに問いかけた。
「ここからは深い、危ないから戻ろうか。」
急に先輩風を吹かせて私は言った。
N君はどちらでも良さそうだったが、K君はとても不満そうだった。
「あーーーっ!」
近くで急に大声が上がった。
私たちはその子が見ている方を一斉に見た。
すると大きくて黒い影がゆっくりとこちらに近付いていた。
しかも私が1番近いではないか。
私たちは脇目も振らず砂浜に向かって泳いで逃げた。
しかし私たちのなんと遅いことか!
黒い影がもしサメだとしたら、追いつかれて食べられてしまう。
襲われるなら私が先だと思った。
逃げる意味がないことを悟り、覚悟を決めて水中で振り返った。
しかしそこには何もいなかった。
あれ?と思って顔を出すと、雲の影が私たちを通りすぎていった。
「ってこれ雲じゃん!」
私は手で海を大きく叩いた。
海面から見ても黒い影はもういなかった。
しかし雲が避けて明るくなったとき、黒い影はまだ私の近くにいた。
えっ!!!じゃあ何がそこに...。
私はまた水中で確認したが、やはり何もいない。
何なんだ一体。
そう思ってまた海から顔を出すと黒い影は私から離れていった。
胸ほどまで水に浸かりながら、そのままぼーっと黒い影の行方を眺めていた。
そのうち黒い影はゆっくりと沖に向かい、ボールを持っていってしまった。
へえ、きみはボールに興味があったんだ。
私はそんなことを心の中で呟いた。
もう一度水中で見ようと思って潜る。
すると黒い影の通ったところには砂が舞い上がり、太陽の光を受けてキラキラ輝いていた。
ダイヤモンドダストの道が海の中にできたみたいで、綺麗だった。
そのままずっと眺めていたかった。
不意に誰かが私の肩をひっぱる。
「何見てんの、上がろうよ。」
「あ、うん...。」
様子を見て心配になったちーちゃんが、私のところまで来てくれたのだ。
戻ると、解散したのか名前も知らない子供たちはもういなかった。
危ないと教えてくれた子もどこかに行ってしまった。
当然だが、ボールがなくなったことはS君と私のせいになった。
私については、とれたのにとらなかったと子供たちが騒いだ。
おなじみの弁償コールが鳴ったが、大人は私の言うことを理解してくれた。
その日私はもう海に入る気がせず、遠い目で海を背景に子供たちが遊ぶのを眺めていた。
ちーちゃんも私の隣で一緒に見ていた。
大人が見ていた風景は、意外と輝いていたと思う。
伝統芸能の全国大会の打ち上げで隣県の海に来ていた。
中学生くらいまで私は太鼓の叩き手であり、その年の県の代表として私の地区が選ばれたのだった。
技術はそこそこあったと思うし、選考で色んな賞を貰ったが、単に順番が回ってきただけだとも思う。
ともかく、その打ち上げとして地区のみんなで海に行った。
ちなみにここだけの話だが、公民館の一室にはいつも宝くじやtotoが山ほど散らばっていて、その年は当たらなかったので予算が少なく海になったのだと思う。
totoの魔の手は家のテレビの上にも伸びていた。
さて、海に行ったのは全国大会に出場したメンバーのS君、私、N君、Gさん(ちーちゃん)、Fさん、Tさん、K君(全員小学生で年齢順)とその家族、OBOGだ。
私たちは少し泳いで遊んだあと、誰かが持ってきたボールでバレーをしていた。
両親も誘ったが、断られた。
海や私たちを眺めるだけで果たして楽しいのだろうか。
私たちは弟妹を含め子供11人でわいわいやっていた。
楽しそうだったのだろう、そのうち近くにいた名前も知らない子供たちも混ざり、15人くらいで3つのボールをトスしあった。
どれほど経っただろう。
最年長のS君が波打ち際からボールを思いっきり蹴り上げると、一瞬強い風が吹いて沖の方に大きくボールが流れた。
20mほどだっただろうか。
私と何人かが走って海に飛び入り、誰がボールをとって戻ってくるか競い合った。
その一部は飛び込んでみたはいいものの、恐怖したのか海に入るなり諦めていた。
私はまず浅瀬を走って追いかけたが、ボールは少しずつ沖に流されてるように見えた。
もうあと5mほどというとき、水深は私の身長近くになっており、私は頭を出すので精一杯だった。
1歩踏み出すと底には段差があって、下はどうやら届かない深さだった。
並走していた知らない子が暗い顔で言う。
「危ねぇぞ...。」
もう少しなのに。
しかしその言葉を引きずり、私はいまひとつ勇気が出せずにいた。
後ろを見ると身長の小さいN君とK君が泳いでこちらに来ていた。
他は諦めたらしい。
私たちが止まっているのを見て、N君とK君が泳ぐのをやめた。
「とらんの?」
K君が立ち泳ぎしながら不思議そうに問いかけた。
「ここからは深い、危ないから戻ろうか。」
急に先輩風を吹かせて私は言った。
N君はどちらでも良さそうだったが、K君はとても不満そうだった。
「あーーーっ!」
近くで急に大声が上がった。
私たちはその子が見ている方を一斉に見た。
すると大きくて黒い影がゆっくりとこちらに近付いていた。
しかも私が1番近いではないか。
私たちは脇目も振らず砂浜に向かって泳いで逃げた。
しかし私たちのなんと遅いことか!
黒い影がもしサメだとしたら、追いつかれて食べられてしまう。
襲われるなら私が先だと思った。
逃げる意味がないことを悟り、覚悟を決めて水中で振り返った。
しかしそこには何もいなかった。
あれ?と思って顔を出すと、雲の影が私たちを通りすぎていった。
「ってこれ雲じゃん!」
私は手で海を大きく叩いた。
海面から見ても黒い影はもういなかった。
しかし雲が避けて明るくなったとき、黒い影はまだ私の近くにいた。
えっ!!!じゃあ何がそこに...。
私はまた水中で確認したが、やはり何もいない。
何なんだ一体。
そう思ってまた海から顔を出すと黒い影は私から離れていった。
胸ほどまで水に浸かりながら、そのままぼーっと黒い影の行方を眺めていた。
そのうち黒い影はゆっくりと沖に向かい、ボールを持っていってしまった。
へえ、きみはボールに興味があったんだ。
私はそんなことを心の中で呟いた。
もう一度水中で見ようと思って潜る。
すると黒い影の通ったところには砂が舞い上がり、太陽の光を受けてキラキラ輝いていた。
ダイヤモンドダストの道が海の中にできたみたいで、綺麗だった。
そのままずっと眺めていたかった。
不意に誰かが私の肩をひっぱる。
「何見てんの、上がろうよ。」
「あ、うん...。」
様子を見て心配になったちーちゃんが、私のところまで来てくれたのだ。
戻ると、解散したのか名前も知らない子供たちはもういなかった。
危ないと教えてくれた子もどこかに行ってしまった。
当然だが、ボールがなくなったことはS君と私のせいになった。
私については、とれたのにとらなかったと子供たちが騒いだ。
おなじみの弁償コールが鳴ったが、大人は私の言うことを理解してくれた。
その日私はもう海に入る気がせず、遠い目で海を背景に子供たちが遊ぶのを眺めていた。
ちーちゃんも私の隣で一緒に見ていた。
大人が見ていた風景は、意外と輝いていたと思う。
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