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逆理の声
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みなさんは、あと少しで死んでいた、という体験をしたことがあるだろうか。
ない方が本当は良い。
しかし残念ながら現実は厳しい。
私は覚えているだけでも5回ある。
死は唐突に...そして理不尽にやってくるものなのかもしれない。
そんな体験もあった。
そのうちの1つを今から話そう。
まだ学生だった頃の話だ。
私の学校では2年のGWに修学旅行に行き、とある地方を色々と見て回ることになっていた。
そして最終日にX遊園地に行くという予定だった。
子供の頃の私は学校行事の遠足や旅行になるとほぼ必ず熱を出した。
興奮すると高熱が出てしまうのだ。
その年の出発時は奇跡的に熱がなく、私の数少ない修学旅行になった。
しかしそう上手くはいかず、初日の夜にやはり熱を出してしまい、2日目からはずっとホテルで寝ていた。
4泊5日だったと思うが、ほぼ全てだめにした。
最終日を除いては。
そんな最終日の朝、私は37℃強ほどの微熱はあったものの、さすがに可哀想と思った担任の先生が参加を許してくれた。
私は飛び上がるほど嬉しかったが、さらに熱が出ると困るので、できるだけ喜ばないように冷静に振舞った。
最終日は開園から午後の14時までX遊園地で遊び、全員バスで学校に帰ることになっていた。
私は遊園地には興味がなかったが、この際どこでも良かった。
家族や友人ではなく、ちょっと仲が良いくらいの同級生と知らない場所に行ける。
それだけで気分が踊った。
X遊園地でも班行動が基本で、同じ興味をもった色々な班がくっついたり、興味が分かれて離れたりしていた。
普段は話さないような別クラスの人とアトラクションで隣の席になることもありドキドキした。
残念ながら、午前中どんなものに乗ったかほぼ忘れてしまった。
私のことだからアトラクションの中でもずっとお喋りをしていただろう。
正午になり、クラス毎に指定されたレストランで食事をした。
そのとき、クラスの何人かがジェットコースターのFが危なすぎて面白い、と教えてくれた。
私はこのFを生涯忘れることはないだろう。
14時にはX遊園地を出ることになっているので、待ち時間も考えると私たちに残された時間は少なかった。
班のメンバーと相談し、午後の部が始まるとすぐに全員で走ってFに向かうことにした。
食事と点呼を終え、先生が午後の確認事項をみんなに伝える。
12時30分ぐらいだっただろうか。
先生の言葉を聞き終え、私たちはFに向かって走り出した。
着いたとき、待ち時間は30分ほどだったと思うので、そんなに走る必要はなかったかもしれない。
だが後ろにできた同級生による長蛇の列を見て、私たちは確かに安堵した。
私は微熱が元々あったことに加えて、そこで思いっきり走ったこともあって、頭痛と立ちくらみがした。
そんな私にはFが陽炎のようにゆらゆらと揺れてぼやけて見えた。
まるでFだけ隔離された別世界にいるようだ。
熱のせいなのか、はたまた外が暑かったからなのか。
そしてFはゆっくりと私たちを迎え入れた。
もう2組ほどで搭乗というとき、どこからともなく声が聞こえた。
「安全バーを信じよう。」
スタッフが言ったのか、同級生が言ったのか、周りにいた別の客が言ったのか...
もしくは私の口が無意識に動いた可能性すらある。
強い不安が私を襲った。
言葉の内容はごく当たり前のことなので違和感はない。
そんなこと言われなくても安全バーを信じてジェットコースターに乗るさ。
しかしその過度に暗示的なトーンが、逆に私の心を揺さぶったのである。
同級生がFを勧めて来た際に危なすぎると言ったのが気にかかっていた。
そして私たちの番になった。
Fは立ち乗りのジェットコースターだった。
ところどころに老朽化を感じ、私の不安を一層煽った。
私は指定の立ち位置に行き、両肩の安全バーに腕を通した。
確か2列目に乗ったと思う。
隣に乗ることになった同じ班のN君が、不意に言った。
「前に掴まるところはないの?」
肩の安全バーで十分ということだろう。
動き始めて少し経ったころ、恐怖心を振り払うためか、私は
「左手に見えますは地獄!」
と言ってしまった。反省している。
「うっせえ!」
N君が空に向かって言い放った。
私の声が聞こえたのか、前列にいたHさんが
「ようこそ天国へ!」
と両手を投げ出して叫ぶ。すると
「おいで...。」
左下の方から、暗闇に響くラジオみたいなソレが流れた。
下の方にアナウンス用のスピーカーでもあったのかもしれない。
私はソレの場所を見たが、ジェットコースターが始まって気をとられ、何も見つけられなかった。
背筋が凍り付いたが、それは決してジェットコースターへの恐怖心からではなかった。
そして絶叫、足元で激しくぶつかり合う音、内臓の大きな揺さぶり...
途中で何度も席からすっぽ抜けそうになり、その度に私は死んだと思った。
安全バーなんか気休めだ。
いつ投げ出されてもおかしくなかった...そんな気がした。
気付くとゴールにいた。
私は涎を垂らし、ボサボサの髪になって、虚ろな目をしていた。
私の魂が帰ってきたのはスタッフさんに案内されてFから降りた後だった。
二度と乗りたくない、私はそう強く思った。
「さっき左側の足元に変な人がいなかった?」
1番近くにいたであろうN君に聞いてみた。
「それは知らん。けど、足元の音がやけにおかしかった。ぶっ壊れそうだった。」
N君にはソレがむしろそう聞こえたということだろうか?
「○○ちゃんがふざけて何か言ってたんじゃないの?」
一方、Hさんは直前のやりとりは全部N君と私のものだと笑った。
私は天国とは言っていないので、さすがにHさんの冗談だと思うが、ソレについても認識していないようだった。
他の班員はHさんと同様のことを言っていた。
私も微熱があり少しおかしかったので、これに関しては口を噤むことにした。
帰りのバスではFの話になり、乗った人の一部が死の危険を感じたと言っていた。
そもそもジェットコースターはそんな評価なのかもしれない。
しかしN君が感じたように、もっと異様な危険さがFにはあったと思う。
ジェットコースターは安全であることを仮定した上で危険なことを楽しむ乗り物だ。
しかしFに乗ったとき、安全という大前提は崩れていた気がしてならなかった。
当時は嫌な感じだなぁ、ぐらいにしか思っていなかった。
ところがある日を境に一連の流れについて思うことがあった。
ソレはその言葉に反して、私たちをFから...いや特定の場所から遠ざけようとしていたのではないか。
だってそうだろう、そんな怖い声で言われたら乗る気もなくなるじゃないか。
「安全バーを信じよう」という誰かが言った自己暗示が、記憶の中でソレの声と混ざり合う。
ソレは、信じるな、と警告を発していたようにすら思える。
これは都合の良い解釈だろうか?
さて、ある日を境に...と言ったが、この話には最悪な後日譚がある...。
Fが老朽化で大きな事故を起こしてしまい、人が亡くなってしまった。
それこそが本当の理不尽に違いない。
ある日とはこのニュースをテレビで聞いた日だ。
その日は記憶の中でソレが何度も再生された。
私たちは偶然死ななかった...。乗った日がたまたま違うというだけ...。
今でもとてもやるせない気持ちになる。
ご冥福をお祈り申し上げます。
ない方が本当は良い。
しかし残念ながら現実は厳しい。
私は覚えているだけでも5回ある。
死は唐突に...そして理不尽にやってくるものなのかもしれない。
そんな体験もあった。
そのうちの1つを今から話そう。
まだ学生だった頃の話だ。
私の学校では2年のGWに修学旅行に行き、とある地方を色々と見て回ることになっていた。
そして最終日にX遊園地に行くという予定だった。
子供の頃の私は学校行事の遠足や旅行になるとほぼ必ず熱を出した。
興奮すると高熱が出てしまうのだ。
その年の出発時は奇跡的に熱がなく、私の数少ない修学旅行になった。
しかしそう上手くはいかず、初日の夜にやはり熱を出してしまい、2日目からはずっとホテルで寝ていた。
4泊5日だったと思うが、ほぼ全てだめにした。
最終日を除いては。
そんな最終日の朝、私は37℃強ほどの微熱はあったものの、さすがに可哀想と思った担任の先生が参加を許してくれた。
私は飛び上がるほど嬉しかったが、さらに熱が出ると困るので、できるだけ喜ばないように冷静に振舞った。
最終日は開園から午後の14時までX遊園地で遊び、全員バスで学校に帰ることになっていた。
私は遊園地には興味がなかったが、この際どこでも良かった。
家族や友人ではなく、ちょっと仲が良いくらいの同級生と知らない場所に行ける。
それだけで気分が踊った。
X遊園地でも班行動が基本で、同じ興味をもった色々な班がくっついたり、興味が分かれて離れたりしていた。
普段は話さないような別クラスの人とアトラクションで隣の席になることもありドキドキした。
残念ながら、午前中どんなものに乗ったかほぼ忘れてしまった。
私のことだからアトラクションの中でもずっとお喋りをしていただろう。
正午になり、クラス毎に指定されたレストランで食事をした。
そのとき、クラスの何人かがジェットコースターのFが危なすぎて面白い、と教えてくれた。
私はこのFを生涯忘れることはないだろう。
14時にはX遊園地を出ることになっているので、待ち時間も考えると私たちに残された時間は少なかった。
班のメンバーと相談し、午後の部が始まるとすぐに全員で走ってFに向かうことにした。
食事と点呼を終え、先生が午後の確認事項をみんなに伝える。
12時30分ぐらいだっただろうか。
先生の言葉を聞き終え、私たちはFに向かって走り出した。
着いたとき、待ち時間は30分ほどだったと思うので、そんなに走る必要はなかったかもしれない。
だが後ろにできた同級生による長蛇の列を見て、私たちは確かに安堵した。
私は微熱が元々あったことに加えて、そこで思いっきり走ったこともあって、頭痛と立ちくらみがした。
そんな私にはFが陽炎のようにゆらゆらと揺れてぼやけて見えた。
まるでFだけ隔離された別世界にいるようだ。
熱のせいなのか、はたまた外が暑かったからなのか。
そしてFはゆっくりと私たちを迎え入れた。
もう2組ほどで搭乗というとき、どこからともなく声が聞こえた。
「安全バーを信じよう。」
スタッフが言ったのか、同級生が言ったのか、周りにいた別の客が言ったのか...
もしくは私の口が無意識に動いた可能性すらある。
強い不安が私を襲った。
言葉の内容はごく当たり前のことなので違和感はない。
そんなこと言われなくても安全バーを信じてジェットコースターに乗るさ。
しかしその過度に暗示的なトーンが、逆に私の心を揺さぶったのである。
同級生がFを勧めて来た際に危なすぎると言ったのが気にかかっていた。
そして私たちの番になった。
Fは立ち乗りのジェットコースターだった。
ところどころに老朽化を感じ、私の不安を一層煽った。
私は指定の立ち位置に行き、両肩の安全バーに腕を通した。
確か2列目に乗ったと思う。
隣に乗ることになった同じ班のN君が、不意に言った。
「前に掴まるところはないの?」
肩の安全バーで十分ということだろう。
動き始めて少し経ったころ、恐怖心を振り払うためか、私は
「左手に見えますは地獄!」
と言ってしまった。反省している。
「うっせえ!」
N君が空に向かって言い放った。
私の声が聞こえたのか、前列にいたHさんが
「ようこそ天国へ!」
と両手を投げ出して叫ぶ。すると
「おいで...。」
左下の方から、暗闇に響くラジオみたいなソレが流れた。
下の方にアナウンス用のスピーカーでもあったのかもしれない。
私はソレの場所を見たが、ジェットコースターが始まって気をとられ、何も見つけられなかった。
背筋が凍り付いたが、それは決してジェットコースターへの恐怖心からではなかった。
そして絶叫、足元で激しくぶつかり合う音、内臓の大きな揺さぶり...
途中で何度も席からすっぽ抜けそうになり、その度に私は死んだと思った。
安全バーなんか気休めだ。
いつ投げ出されてもおかしくなかった...そんな気がした。
気付くとゴールにいた。
私は涎を垂らし、ボサボサの髪になって、虚ろな目をしていた。
私の魂が帰ってきたのはスタッフさんに案内されてFから降りた後だった。
二度と乗りたくない、私はそう強く思った。
「さっき左側の足元に変な人がいなかった?」
1番近くにいたであろうN君に聞いてみた。
「それは知らん。けど、足元の音がやけにおかしかった。ぶっ壊れそうだった。」
N君にはソレがむしろそう聞こえたということだろうか?
「○○ちゃんがふざけて何か言ってたんじゃないの?」
一方、Hさんは直前のやりとりは全部N君と私のものだと笑った。
私は天国とは言っていないので、さすがにHさんの冗談だと思うが、ソレについても認識していないようだった。
他の班員はHさんと同様のことを言っていた。
私も微熱があり少しおかしかったので、これに関しては口を噤むことにした。
帰りのバスではFの話になり、乗った人の一部が死の危険を感じたと言っていた。
そもそもジェットコースターはそんな評価なのかもしれない。
しかしN君が感じたように、もっと異様な危険さがFにはあったと思う。
ジェットコースターは安全であることを仮定した上で危険なことを楽しむ乗り物だ。
しかしFに乗ったとき、安全という大前提は崩れていた気がしてならなかった。
当時は嫌な感じだなぁ、ぐらいにしか思っていなかった。
ところがある日を境に一連の流れについて思うことがあった。
ソレはその言葉に反して、私たちをFから...いや特定の場所から遠ざけようとしていたのではないか。
だってそうだろう、そんな怖い声で言われたら乗る気もなくなるじゃないか。
「安全バーを信じよう」という誰かが言った自己暗示が、記憶の中でソレの声と混ざり合う。
ソレは、信じるな、と警告を発していたようにすら思える。
これは都合の良い解釈だろうか?
さて、ある日を境に...と言ったが、この話には最悪な後日譚がある...。
Fが老朽化で大きな事故を起こしてしまい、人が亡くなってしまった。
それこそが本当の理不尽に違いない。
ある日とはこのニュースをテレビで聞いた日だ。
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