ホラー短編集

Chaako

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真夏の怪人(異質な訪問者2)

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夏に広がる深い緑も、秋には色褪せ冬には枯れる。

日本で初めて人口減少が指摘されたのは2005年くらいだろうか。

私がかつて通っていた町に1つしかない小学校では、1980年代には既に入学者の減少が指摘されていた。

視聴覚室に各年の入学者数を書いた表が貼ってあったが、私が入学した年は全盛期の半分もいなかった。

衰えは、先に末端に現れていた。

さて、この日がいつだったかは覚えていないが、ここ数年以内のお盆のことだ。

村を襲う盗人が現れ、村中が警戒していた時期だった。

私の故郷の村は古来より戦禍が少なく治安の良い場所だったが、それは村が結束して賢く自治していたからだろう。

しかし結束感が薄れ高齢化した村には大した防御機構もなく、盗人に好き勝手にされてしまう。

あまりにも盗り放題だったので、その盗人は調子に乗ってしまったのか、最期には警戒中の人のいる家にも入ってしまいあえなく御用となった。

悲しいことにその盗人は私たちがいつもお世話になっていた村民だった。

話が逸れたが、その日の夜も村民が警戒を促しながら定時巡回していた。

夜20時頃か。母はLINEを返しながら夕ご飯を作っていた。

仕事終わりに友人とチャットすることが母のささやかな楽しみだったように思う。

退職後、市で1、2番の味を誇る個人経営のカフェで働き始めた母は、クッキーのパッケージに使うリボンの結び方について、同僚と熱烈なやり取りを繰り広げていた。

私はそのとき居間でテレビを見ていたかパソコンで作業していたと思う。

母が煮物を作っていると、台所の窓に人影が現れた。

母は最初、私の祖父(母の父)だと思った。

台所の外にはドクダミが鬱蒼と生い茂っていて足場が非常に悪い。

さらに家の裏側で普通は用のない場所であるため、他家の人がいるのを見たことは私もない。

祖父が稀に草刈りをするぐらいの場所だった。

しかしその人影は、がさがさふらふらと歩き回り、まるで何かを探しているようだった。

モザイク処理のある窓なので髪型も服装も性別さえも分からない。

それでも視力の衰えた祖父が夜に草刈りなどするはずもなかった。

捕まったはずなのに、また泥棒?

母に不審感が募る。

「お父さん、何してるの?」

返事はない。

こちらには気付いたようで、台所の窓に寄ってきた。

祖父と母は同じくらいの身長で、160cm後半くらいだ。

母は、窓の外の人物が自分より10cmほど高かったので、祖父ではなくて私の弟だろうと思った。

弟は180cm近くあるので、その可能性は高いように思われた。

「○○○?」

弟の名前を呼んだ。

否。計算が違う。

絶対的におかしいのだ。

家の1階の床の高さは外の地面よりも50cmほど高かった。

すると、窓の外の人物は230cmほどということになる。

母はそれに気付き、息を飲んで声も出せず、その怪人を見ながら呆気にとられた。

怪人は俯いて静かに立っていた。

「お母さーん、ご飯あと何分くらいになりそうー?」

私は居間から台所に向かって叫んだ。

しかし返事がない。

台所で寝てるかトイレだな、これは。

台所でうとうとしていることもある母だから、寝ているなら起こしに行こうと思った。

私は神棚の横を通り、年季の入った薄暗い廊下を歩いて台所についた。

そこには窓を眺めてぼーっとしている母がいた。

「誰かいるの?」

そう声をかけた。

「○○、なんでもっと早く来なかったの。今凄く怖い人がいたのに。」

「えっ、どこに?去年灯油とられたんだから、すぐ通報しないと。」

「あんたは見てないから。多分お巡りさんも対応できんよ...」

その後、母は外にいた怪人の異様さを教えてくれた。

私は残念ながらその人物を見ることができなかった。

母によれば、廊下を歩く私の音を聞いていなくなったようだ。

それだけ大きな怪人でも複数相手は怖いということだろうか。

怪人が現れたのはその1回だけで、母がその後会ったという話は聞かない。

結局、その日の煮物は焦げていた。

翌朝台所の窓を開け外を確認すると、確かにドクダミの一部が踏み倒されていた。

さて、後日母が町内会(村の総会)で不審人物の報告をしたのだが、何も盗られていないので不問ということになった。

それどころか、お前は俺たちが不審者を見逃したって言うのか、とMさんが母を怒鳴りつけた。

Mさんは目が充血していて、尋常ではない雰囲気だったという。

実は、捕まえた盗人はMさんの家族だった。

家族から泥棒を出してしまったということで自分が火消しをせねばとMさんは思ったのだろう。

定時巡回を提案し、シフトに自分を沢山組み込んでいた。

しかし巡回だって検問ではなし、いくらでも目を掻い潜ることができよう。

まあこの世ならざるものならばなおのことだが。

私が思うに、母が会ったというその怪人は村の衰退の象徴だ。

事実、農業用水の整備や私有林のネグレクトを巡ってその後村内の争いが続いた。

そんなことは互助の範囲内で以前は議論にすらならなかった、と最近になって祖父が私に零した。

こうして怪人が出現した意味を私はある程度落とし込んだが、実際に会った母にとってはもっと奇怪な何かであったろうことは、母が超自然的存在を肯定することからも明白だった。
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