ホラー短編集

Chaako

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パワー系地縛霊

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今日はこの話を書きたくなった。

他にも書きたい話が沢山あるのに、である。

タイトルにあるパワー系が何を指すかはこの話を読めば理解できると思う。

今年も流行病が蔓延っているせいでお盆休みは帰省できず、近くに住むパートナーの家にお邪魔することになった。

伯母の一家に会えないのはとても残念だ。

まあ長く生きていればこういう事もあるだろう。

先週から非常に激しい雨が降っており、屋根を叩く音はさながら滝のようであった。

昨日、私たちがディスカウントスーパーへ買い物に出かけたのは、それが弱まって霧雨になった夜20時前後であった。

買い物が終わり、夕食の話をしながら横断歩道を渡ると30m先にいつもの大男が見える。

うわあっ、やってしまった。

ディスカウントスーパーの前に団地があるのだが、ディスカウントスーパーとこの団地に囲まれる小さな領域に縛られた地縛霊だ。

いつもはディスカウントスーパー寄りにいるので、ついつい団地沿いを通ってしまう。

引き返して別の道を選ぶこともできるが、意識して不審な動きをすると興味を持たれる可能性があるので、パートナーを予め左に寄せて1列に並び、見えないフリをして通り過ぎることにした。

その大男は生者ならばラグビーか相撲で名を上げるのではと思われるくらいの体躯で、その腕は私の腕を何本も束ねてやっと勝てるくらいの太さである。

不意に腕が私に当たれば致命傷は避けられないほどであるので、近くを通る時は内心かなり怖い。

いつもは怪異に対して強気な私も、明らかに生殺与奪の権が向こうに握られているような状況ではどうやりすごすかを考えるしかない。

大男はいつも同じ黄色の服を着ており、虚空に向かって何かを喋り続けている。

時々ディスカウントスーパーに入ってきて喋り続けていることもあり、店員さんとお客さんは皆知らないフリをする決まりだ。

頼むから団地に入ってくれ...

私は30mほど先の、道路を塞がんとばかりに仁王立ちする大男を見てそう念じていた。

大男が大きな声でこちらを向いて喋っている。

私たちに話しかけている訳ではありませんように。

そう祈るしかなかった。

最初は誰しも、外で通話しているだけの人間ではないか、と思うだろう。

しかしマイクもイヤホンも持っているようには見えず、言葉も支離滅裂だ。

何より大男が喋っている相手の返事がなければ、返事を聞くための間もないので会話とは思えない。

距離がどんどんと近づいていく。

大男は拳を振り上げ、こちらに何かを主張しているようにも見えた。

私たちに興味を持ちませんように、と再び念じながら横を通り過ぎようとした。

何らかの日本語を喋っているようだが、私にはおぞましい呪文にしか聞こえなかった。

大声の中、私たちは横を通り過ぎる。

そう、この大男に害意はないんだ。

それを再確認し、安心して歩いていた。

気が緩んだ、まさにその瞬間だった。

声が急にこちら側を向いた。

遠ざかる声が近づく声になったとき、私たちは喋りかけられていたのだと思った。

気が動転した私は驚いて振り向いてしまう。

パートナーが、

「振り向くな!行くぞ!」

と私の手を握り声を強めたが、遅かった。

いや。振り向いて良かった。

大男は小走りでこちらに駆け出していた。

獲物を見つけたサイか?

「わああ!」

驚愕の声を出し、2人で走って50m先の信号まで逃げた。

そこまで行けば大丈夫だった。

地縛霊ゆえ、特定の領域からは出られないようである。

あんな体躯がどこへ行くのか、境界と思われるゾーンで大男は姿を消してしまった。

害意はなくても怖いものは怖い。

私たちは息を切らしながら後ろを呆然と見ていた。

地縛霊だと分かってはいるのだが、急に目の前に現れたりしないか震えながら帰宅した。

さて、パワー系でなくても、地縛霊は色んなところで見ることができるようである。

私のマンションの近くにも2人いるし、先日は美術館のショップにもいた。

彼らは決まって支離滅裂なことを喋っており、しかも承認欲求が強いのか目を合わせようとしてきたり、無神経に近づいてきたりする者もいる。

生者ならお大事に。死者なら成仏してくれることを祈るばかりである。
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