My heart in your hand.

津秋

文字の大きさ
125 / 192
four.

10

しおりを挟む
「江角くん……後生だ―。接客が嫌なら表に出てくれとは言わない。でも、クラスの衣装は着てほしい。宣伝をお願いします」

俺はこの事態の元凶である川森に、ちらりと視線を投げた。笑いながら愉快なものを見る目で委員長を見ている。それにクラスメイトたちも面白そうにしているのは分かっている。
「文化祭って、」
口を開くと、複数の視線を向けられる。こんなふうに見られて、言葉を待たれるのは居心地が悪いものなのだと初めて知った。

「球技大会のときみたいに特典とかあったっけ」
「結果がはっきりわかるものでは一番になりたい心理」
なんでそこまでという俺の質問の意図が伝わったらしく、同じ姿勢のまま顔だけ上げた委員長は、きりっとした表情で即答した。うんうんと周りも頷いている。
俺はあまりそういうふうに思ったことがないが、そういったものなのだろうか。何か特典があるから張り切っているというわけではなかったようだ。

「そういうものなのか」
「そーだろ! 目標なくやるよりてっぺん目指す方が盛り上がるし。こりゃもうやるしかないっしょ、江角く~ん。大丈夫、大丈夫! 江角はイケメンだから大丈夫!」
他人事だからか軽い調子で笑いながら川森が言う。俺は反射的にいらっとして、横向きに座っている川森の椅子の脚を机の下から蹴った。そこまで力は込めなかったがガッと音がして体が揺れた川森は「ぎゃ!?」と声を上げる。

「え、蹴った!? 足グセ悪ぃ!」
「いい加減その姿勢やめろ委員長。衣装は着るし宣伝とかいうのもやるから」
抗議の声を無視して、委員長に声をかけると彼はそう言われるのを待っていたような勢いで姿勢を正した。直立だ。

「本当か、江角くん!!」
「ん。でも俺になんか期待してるならそれはやめて。応えられないから」
「俺はそうは思わないけど、でも江角くんがそれでやってくれるなら喜んで!」

期待するのはやめます! と拳を握った委員長は俺が今まで見たなかで一番いい笑顔をしている。
皆にちょろいと思われていそうだが、事実簡単に丸め込まれているので否定はできないなとちょっと苦い気持ちになった。


▽▽▽

「―ってことで、表に出ることになりました」

クラスで何をするのか、裏方がいいと言っていたが何の役割か決まったかという問いに対して事の顛末を話し、そう締め括るとキヨ先輩は楽し気に声を上げて笑った。話している最中もニコニコしていたが。
俺は未だになんでこうなったんだろうと思っているけれど、先輩が笑ってくれたならまあいいかと思う。面白い話をしたつもりは全くないということはさて置いて。

「そっか。ハルのクラス、楽しそうだな。仲良くできてるみたいでよかった」
「仲良く……?」
何気なく言われた言葉に目を瞬く。そんなこと思ったこともなかった。
思い返してみれば、確かに話をする人は増えた。岸田や川森たちを筆頭に、他のクラスメイトにも最近は何気ない話を振られたりする。入学したばかりの頃はあまりクラスで口を開くことはなかったのに。

それは仲良くしていると言えるのかもしれない。そう思ったことが、我ながら意外だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

僕を守るのは、イケメン先輩!?

BL
 僕は、なぜか男からモテる。僕は嫌なのに、しつこい男たちから、守ってくれるのは一つ上の先輩。最初怖いと思っていたが、守られているうち先輩に、惹かれていってしまう。僕は、いったいどうしちゃったんだろう?

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

処理中です...