137 / 192
four.
22
しおりを挟む
ゆっくりとなんとか各階を回り終えて自分達の教室に戻ってきたところで、意外なほどの盛況ぐあいに驚かされた。用意されたテーブル席はほぼ埋まっている。
「わりと人入ってる」
「なー! てか、俺らが宣伝頑張ったからじゃね!?」
「そうならいいな」
言い交わしながら、一旦教室の隅にある衝立の裏に行く。そこで足を組んで椅子に座っていた金井がこちらを認めて、ひらりと片手を挙げた。
「お疲れ、宣伝係」
「あっ、金井! なあなあ、これって俺らの宣伝効果かな?」
「おー、そうなんじゃね? すげえじゃん、二人共」
「やったぜー!」
「金井は何やってるんだ」
片手に紙、もう片方の手にボールペンを持ち、なにかを書き付けている様子だ。問いかけると金井はくるりとペンを回した。
「ああ、これな。割り箸とかもろもろ、このままだと後半には足りなくなるだろうから、貰いに行かなきゃなあと思って。必要分書き出してんの」
「貰いにって、どこに?」
「実行委員会の本部」
「体育館?」
「おう」
「俺、行ってこようか!」
椅子に腰掛けた川森が、素早く挙手をして主張する。目を瞬いた金井は川森ではなく俺の方を仰ぎ見た。
「行ってくれたら俺は別のこと出来るし助かるけど、でも今日のお前、江角とニコイチだろ?」
「別にずっと一緒にいる必要はないし、行ってくればいいんじゃね。川森はライブが見たいんだろ」
「あ、バレた?」
にへっと幼げに笑う相手に、軽く頷く。先程、二年生の階を歩いている時に、部活の先輩だと言う人から、自分がボーカルをするので見に来てくれと誘われていたのだから、バレるも何もない。
「なんだ、親切心かと思った」
「えへへ。ついで、ついで」
「まあいいや。じゃあ、心置きなく頼もうかな。昼までにこっちに持ってきてくれりゃいいから、間に合うだろ?」
「おう! 先輩の出番、昼前だから」
「よーしよし、じゃあ行ってこい、川森。いいか、ライブにテンション上がって、貰うの忘れて戻ってくるとかやめろよ」
メモを差し出しながらの忠告に、ぴっと敬礼した川森は、跳ねるような足取りで教室を出ていった。
さて、俺はどうしようかと黒板の上にある時計を見上げる。案外、ゆっくりと歩き回っているうちに時間が経っていたようだ。十一時を少し過ぎている。
「江角、今結構人入ってるし、客寄せしなくてもいいんじゃないか」
「やっぱ? でもすることもねえな……」
金井と言葉を交わした後、手が足りないところがあれば手伝いでもしようかと表に顔を覗かせると、ちょうど同じように教室を覗き込んでいる岸田を見つけた。
風紀委員の腕章をして、クラスTシャツと制服のスラックスという格好だ。
「岸田」
「あ、江角」
「お疲れ、一段落したのか?」
「ああ。だから、今のうちになんか食っとこうかと思って、一旦戻ってきたんだ」
「そ」
「江角は?」
「俺は、今やることがない」
「じゃあ、一緒に焼きそば食いに行かないか」
焼きそばというと、岩見のクラスか。もともと行くつもりだったので、「いいよ」と頷く。
一応、委員長に許可を取りに行くと二つ返事で了承されたが、昼過ぎからは教室の前で呼び込みをしてくれと言われた。
クラスメイト達は忙しそうだが、同じくらい楽しそうにしている。俺も貢献すべきだろうし、頑張ろうと思う。
「わりと人入ってる」
「なー! てか、俺らが宣伝頑張ったからじゃね!?」
「そうならいいな」
言い交わしながら、一旦教室の隅にある衝立の裏に行く。そこで足を組んで椅子に座っていた金井がこちらを認めて、ひらりと片手を挙げた。
「お疲れ、宣伝係」
「あっ、金井! なあなあ、これって俺らの宣伝効果かな?」
「おー、そうなんじゃね? すげえじゃん、二人共」
「やったぜー!」
「金井は何やってるんだ」
片手に紙、もう片方の手にボールペンを持ち、なにかを書き付けている様子だ。問いかけると金井はくるりとペンを回した。
「ああ、これな。割り箸とかもろもろ、このままだと後半には足りなくなるだろうから、貰いに行かなきゃなあと思って。必要分書き出してんの」
「貰いにって、どこに?」
「実行委員会の本部」
「体育館?」
「おう」
「俺、行ってこようか!」
椅子に腰掛けた川森が、素早く挙手をして主張する。目を瞬いた金井は川森ではなく俺の方を仰ぎ見た。
「行ってくれたら俺は別のこと出来るし助かるけど、でも今日のお前、江角とニコイチだろ?」
「別にずっと一緒にいる必要はないし、行ってくればいいんじゃね。川森はライブが見たいんだろ」
「あ、バレた?」
にへっと幼げに笑う相手に、軽く頷く。先程、二年生の階を歩いている時に、部活の先輩だと言う人から、自分がボーカルをするので見に来てくれと誘われていたのだから、バレるも何もない。
「なんだ、親切心かと思った」
「えへへ。ついで、ついで」
「まあいいや。じゃあ、心置きなく頼もうかな。昼までにこっちに持ってきてくれりゃいいから、間に合うだろ?」
「おう! 先輩の出番、昼前だから」
「よーしよし、じゃあ行ってこい、川森。いいか、ライブにテンション上がって、貰うの忘れて戻ってくるとかやめろよ」
メモを差し出しながらの忠告に、ぴっと敬礼した川森は、跳ねるような足取りで教室を出ていった。
さて、俺はどうしようかと黒板の上にある時計を見上げる。案外、ゆっくりと歩き回っているうちに時間が経っていたようだ。十一時を少し過ぎている。
「江角、今結構人入ってるし、客寄せしなくてもいいんじゃないか」
「やっぱ? でもすることもねえな……」
金井と言葉を交わした後、手が足りないところがあれば手伝いでもしようかと表に顔を覗かせると、ちょうど同じように教室を覗き込んでいる岸田を見つけた。
風紀委員の腕章をして、クラスTシャツと制服のスラックスという格好だ。
「岸田」
「あ、江角」
「お疲れ、一段落したのか?」
「ああ。だから、今のうちになんか食っとこうかと思って、一旦戻ってきたんだ」
「そ」
「江角は?」
「俺は、今やることがない」
「じゃあ、一緒に焼きそば食いに行かないか」
焼きそばというと、岩見のクラスか。もともと行くつもりだったので、「いいよ」と頷く。
一応、委員長に許可を取りに行くと二つ返事で了承されたが、昼過ぎからは教室の前で呼び込みをしてくれと言われた。
クラスメイト達は忙しそうだが、同じくらい楽しそうにしている。俺も貢献すべきだろうし、頑張ろうと思う。
0
あなたにおすすめの小説
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
僕を守るのは、イケメン先輩!?
刃
BL
僕は、なぜか男からモテる。僕は嫌なのに、しつこい男たちから、守ってくれるのは一つ上の先輩。最初怖いと思っていたが、守られているうち先輩に、惹かれていってしまう。僕は、いったいどうしちゃったんだろう?
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる