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あまりに動揺しすぎたせいか、情けないことだが目の奥が熱くなった。わずかに潤んでしまった目を見て、キヨ先輩が息を飲む。
「、ハル―なんで、泣きそうな顔するの。……嫌だから?」
「……嫌じゃ、ないです。嫌じゃないけど、」
こちらに伸ばされた手は触れる前に止まって、気まずそうに引っ込められた。何もかもに反発して駄々をこねる小さな子供みたいに、そのことにすら苦しいような腹立たしいような気になる。泣いていないと否定する余裕はなかった。
子供みたいと考えたことで自分の心理を理解する。多分、俺は違うと否定されたことが悲しいのだ。先輩が大切で、笑ってくれると嬉しくて、その考え方や言葉の選び方、彼を形作るものを好ましいと感じる気持ちを―俺のなかではきっと上等な部類に入る大切な感情を、それは違うから不要だと言われたみたいで。
そういう意味で言ったわけではないということは分かっているつもりだ。それなのに悲しくてショックを受けて、なんでって逆ギレみたいに思っている。あまりに幼稚だ。格好悪い。
けれど彼自身の言葉が欲しかった。俺の見当違いの悲しさを否定してほしい。そうでないと、俺のぐちゃぐちゃになってしまった頭は先に進めない。
詰めていた息を吐き出して、すっかり離れてしまってさっきは俺に触ることさえ躊躇っていたキヨ先輩の手にこちらから触れてみる。大して強くもない力で中指と薬指を握ると、びくっと小さく震えてから俺が腕を引っ込めるのを恐れるようにとてもゆっくりと手が動いて微かに握り返された。
「……あんたは俺が同じ気持ちは返せないって言ったら、どうするつもりなんですか。気まずくなるから離れんの? それともなかったことにすんの?」
「ハル、」
「俺は、―俺はキヨ先輩が大切だし、卒業して大人になっても、もっと言えば年寄りになっても隣に居られたらいいなって思うくらい、好きです」
何か言いかけた先輩を遮って、話し続ける。一気に話してしまわないと言葉も思考も絡まってしまいそうだったから。
「こういう俺の気持ちは、先輩の気持ちとは違うんですか? キヨ先輩が欲しいものじゃない?」
「っそうじゃない。ごめん、ハル……違う」
端麗な顔が歪む。否定と同時に強く握り込まれた手が、少しだけ痛い。けれど一つも嫌ではなかった。
「ハル、聞いて。俺は友情とか恋愛とか、色んな好意を全部ひっくるめた意味でお前が好きなんだ。だから、恋愛の好きが叶わなくてもハルから離れたいなんて絶対に思わない。ずっと続く関係が欲しいって、俺も思ってる」
常になく急いた話し方からは、まるで彼が思いをそのまま俺に明け渡そうとしているかのような印象を受けた。だから俺は全部受け取るために耳を澄ませて目を見て聞く。
「ハルが俺にそういう気持ちは向けられないって言うなら、そのときはこれからも変わらない関係でいてくれって頼む。ハルが俺の気持ちのせいで苦しくなるくらいなら、仕舞い込む努力だってする。それは隣に居られなくなることより、悲しいことでも辛いことでもない」
一生懸命でまっすぐな、綺麗な目。俺に伝えようと、雄弁と言うわけではない彼が言葉を尽くしているのが分かる。
「、ハル―なんで、泣きそうな顔するの。……嫌だから?」
「……嫌じゃ、ないです。嫌じゃないけど、」
こちらに伸ばされた手は触れる前に止まって、気まずそうに引っ込められた。何もかもに反発して駄々をこねる小さな子供みたいに、そのことにすら苦しいような腹立たしいような気になる。泣いていないと否定する余裕はなかった。
子供みたいと考えたことで自分の心理を理解する。多分、俺は違うと否定されたことが悲しいのだ。先輩が大切で、笑ってくれると嬉しくて、その考え方や言葉の選び方、彼を形作るものを好ましいと感じる気持ちを―俺のなかではきっと上等な部類に入る大切な感情を、それは違うから不要だと言われたみたいで。
そういう意味で言ったわけではないということは分かっているつもりだ。それなのに悲しくてショックを受けて、なんでって逆ギレみたいに思っている。あまりに幼稚だ。格好悪い。
けれど彼自身の言葉が欲しかった。俺の見当違いの悲しさを否定してほしい。そうでないと、俺のぐちゃぐちゃになってしまった頭は先に進めない。
詰めていた息を吐き出して、すっかり離れてしまってさっきは俺に触ることさえ躊躇っていたキヨ先輩の手にこちらから触れてみる。大して強くもない力で中指と薬指を握ると、びくっと小さく震えてから俺が腕を引っ込めるのを恐れるようにとてもゆっくりと手が動いて微かに握り返された。
「……あんたは俺が同じ気持ちは返せないって言ったら、どうするつもりなんですか。気まずくなるから離れんの? それともなかったことにすんの?」
「ハル、」
「俺は、―俺はキヨ先輩が大切だし、卒業して大人になっても、もっと言えば年寄りになっても隣に居られたらいいなって思うくらい、好きです」
何か言いかけた先輩を遮って、話し続ける。一気に話してしまわないと言葉も思考も絡まってしまいそうだったから。
「こういう俺の気持ちは、先輩の気持ちとは違うんですか? キヨ先輩が欲しいものじゃない?」
「っそうじゃない。ごめん、ハル……違う」
端麗な顔が歪む。否定と同時に強く握り込まれた手が、少しだけ痛い。けれど一つも嫌ではなかった。
「ハル、聞いて。俺は友情とか恋愛とか、色んな好意を全部ひっくるめた意味でお前が好きなんだ。だから、恋愛の好きが叶わなくてもハルから離れたいなんて絶対に思わない。ずっと続く関係が欲しいって、俺も思ってる」
常になく急いた話し方からは、まるで彼が思いをそのまま俺に明け渡そうとしているかのような印象を受けた。だから俺は全部受け取るために耳を澄ませて目を見て聞く。
「ハルが俺にそういう気持ちは向けられないって言うなら、そのときはこれからも変わらない関係でいてくれって頼む。ハルが俺の気持ちのせいで苦しくなるくらいなら、仕舞い込む努力だってする。それは隣に居られなくなることより、悲しいことでも辛いことでもない」
一生懸命でまっすぐな、綺麗な目。俺に伝えようと、雄弁と言うわけではない彼が言葉を尽くしているのが分かる。
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