引きこもり勇者!

白神灼優鈴

文字の大きさ
上 下
12 / 19

第拾壱録 勇者一行完成

しおりを挟む


王都に着き、僕とスフィアは万事屋へ足を運んでいた。
 店内に入ると、武器や防具、回復用の道具に攻撃用の道具、移動用の道具など様々なモノが棚に綺麗に陳列している。
「やはり、冒険に出るのじゃから装備は揃えないことには始まらんからの」
ソフィアが意気揚々と店内を散策する。
 確かにソフィアの言う通りで、丸腰で魔王に相見えるのは、勘弁したい。
 魔王はどうにもならないにしても、道中の魔物が攻撃してきたらそれこそたまったもんじゃない。
 カツン、カツンと甲高い音が聞こえ、そちらに向くと杖をついた老人が、こちらをじっと見ている。
「どんな商品をお探しですかな? 陛下」
 渋い声がソフィアに問いかける。
「魔法剣の類はあるかの?」
 ソフィアが問に答える。
「いや、僕何も言ってないんだけども……」
 老人が、僕を見据えコクリと一度頷いた。
「お前さん、こっちへ来るが良い……お前さんにお似合いの魔法剣があるわい」
 言うと、老人は棚の間にある扉を開け、こちらに手招きをする。
 少し不振に感じたのは否めないが、取り敢えずついて行く。
 扉の中に入ると、外に陳列しているモノとは明らかに雰囲気の違う武器が並んでいる武器庫のようなところに着いた。
「確かここらにあったと思うんじゃがの……」
 老人は剣の収納されている木箱の中身をごそごそといじり出す。
「お、あったあった」
 老人は刃渡り1mくらいのサイズ剣を渡してた。
「お爺さん、これは?」
 僕の手に置かれたのは、風化していてところどころ刃こぼれしている剣だった。
 刀身には2本の溝が彫ってあり、その溝は交わることなく平行に続いている。
「それは魔力をその溝に流し込むことによって、突き刺した魔物に直接自分の魔力を注入できる代物じゃよ。 お前さんは見たところ、魔力の系統が破壊系じゃからその剣がうってつけじゃと思うてな」
「エグいな……」
 老人の言う通り、僕は爆破系統の魔法が得意だったが、もう何年も魔力なんて意識した時がないし、うまくコントロールできるかも分からないんだけどな……。
「とりあえず、魔力を流してみてはどうじゃ? 太我裏」
「んなもん、どうやって流すんだよ……やったことないぞ?」
 ここ何年も魔力なんていじってないからやり方なんて覚えるわかるわけがない。
 確か、最後に魔力操作したの7、8年前だった気が……
 「こうやるんじゃよ……」
 言って老人は、自分の握っておる杖を床から離し、僕を指すように杖を構える。
「まずは、自分の中に流れる魔力をイメージするのじゃ……自分の中に川があり、分岐している。 その分岐先が手足、指先……。 そして、その川を自分の持っているものに延長する。 持っているものも、自分の体の一部だと思い込むんじゃ」
 説明し終え、老人の杖が青白く光りだす。
「ほれ、やってみ」
老人の杖は、輝きを失いまた床につく。
「簡単に言うけど……」
 ものは試し。 眼を閉じ、老人に言われたようにイメージする。
「川……その先を延長……」
「太我裏! 剣が!」
 耳元で興奮するソフィアの声が聞こえ、眼を開ける。
「うおっ……すげぇな」
 持っている剣が自分の鼓動と同じリズムで黄色く点滅しだす。
 時間が経つにつれ点滅は早くなっていく。
「え、これ爆発したりしないよね?」
「ふぉっふぉっふぉ。 大丈夫じゃよ、安心せい」
 老人の言葉が消えると同時に、剣が今までより一層輝きを増し、一瞬強く光った。
「うっ……」
 あまりの眩しさに眼を閉じてしまう。
「やはり、お前さんとこの剣は相性が良いようじゃの」
 老人がすこし嬉しそうな声音で言う。
「なんか、形変わってないか?」
 眼を開け剣を見ると、先ほどまでは古びていた細身の剣が、倍以上の太さになりとてもいかつくなっている。
「サビも取れてるし、なんかでっかくなっているの……」
 ソフィアも驚いている。
 倍以上になった剣は、その見た目からは想像できないほどに軽く、木の枝のような重量で、実はとんでもないポンコツなのではないかと不安が込み上げてくる。
「太我裏、その剣を見せて欲しいのじゃが……いいかの?」
 ソフィアが上目遣いで訪ねてくる。
 そんなたいしたもんじゃなさそうだぞと、手渡す。
「!!ーーーーんっ!」
 剣を受け取ると、ソフィアが剣に引っ張られるかのように地面に剣ごと手をついた。
「おっも!」
 ソフィアが野太い声で叫ぶ。
「そんなに重いか?」
 ソフィアが重そうに引きずっている剣を持ち上げる。
「あ、軽くなった! 太我裏、なんかしたかの?」
 ソフィアが信じがたいと言いたげな顔でこちらを見る。
「いや、何もしていないけれど……」
「男女の筋力の差ではないと思うのじゃが……」
 むむむっ……っとソフィアが唸り声を上げる。
「その剣もお主を選んだようじゃが……どうするかね? 少年」
 老人がふぉっふぉっふぉと笑いながら尋ねてくる。
「太我裏、剣にさしてこだわりがないのならばどうじゃ? これで決定で?」
 ソフィアが少し不安そうな顔をしながら聞いてくる。
 実際使っって見ないとわからないところも多いとは思うが、店内にこの剣よりもかっこいい剣はないので、異論はない。
「じゃあ、この剣にするかな」
「と言うことのようじゃ、いくらじゃ?」
  ソフィアが老人に尋ねる。
「ん? 無料でいいですぞ? 特に商品と言うわけでは無いしのぉ……わしのコレクションのようなものじゃ。 持っていってくださいませ、少年、女王陛下」
 この老人神か⁈ 自分のコレクションを他人に、しかも無償で譲渡するとか……只者ではないな……やはり神か。
 剣を譲ってもらったのち、店内・庫内を回り、僕は防具も一式その店で購入した。
「少しは冒険者っぽくなってるか?」
 購入した装備を身にまとい、ソフィアに感想を聞く。
「う~む……そんな装備で大丈夫かって言いたくなるような装備じゃが、耐久度は実証済みじゃし……いいのではないか?」
 ソフィアが納得のいかない顔で僕を見つめる。
「まぁ、ぶっちゃけ耐久力で選んだしね……」
 あの耐久試験を思い出すだけでゾッとする。
 僕が今つけている装備は全て目の前で耐久テスト(実際に魔族討伐などで使われている砲弾。 大きさは直径30cmほどの球体で、重さは100kg前後。 表面には着弾時に飛散する術式が彫られており、威力は一発で魔族50体を一掃するほど)をやっていただき、その上で選ばれた精鋭装備なのです。
 料金はソフィアが「餞別じゃ」と払ってくれたので、僕財布は痛まなかったが、額的にもこの耐久性に見合ってないほどに安価で、とってもいいお値段だった。
 「さて、太我裏よ。 そろそろ王宮の準備もできておる頃じゃし、王宮に戻るとするかの」
「あぁ。 にしても、王宮に行って何をするんだ? 僕はいっそこのままいくのかなって勢いでいるのだけれど……」
「冒険には仲間が必要不可欠じゃろ? その仲間の選定を王宮で行おうと思うのじゃ。 流石に太我裏1人では行けせられんわ」
 ソフィアが少しムッとして僕に言う。
 ソフィアの言葉に異論はない。
 だってそうだろ? 引きこもりがいきなり外に出て出来ることって言っても孤独死くらいだ。 戦うなんてもってのほかで、いろんな村をめぐるなんて絶対に無理だ、自信を持っていえる。
 「でも、仲間って言ったって誰がいるんだ? 僕の知る限り、戦える人間はみんな各村に配属されているんだろ? 他に誰がいるんだよ?」
 「ふふふ……甘いぞ、甘すぎるぞ太我裏! まだまだ戦える人間はおるのじゃよ! この国内に! その中から、太我裏に同行するメンバーを決めてもらいたいのじゃ」
 なるほどね……強い人がいるなら、それでいいけれど……。
「陛下、お迎えにあがりました」
 と、大通りにぶつかったタイミングで、女執事が馬車を引き連れ迎えに来ていた。
「本当にミラは優秀じゃの。 さすがは妾の執事というところじゃの」
 ソフィアが満足げに言うのを横目に、1人颯爽と馬車に乗り込む。
 少し遅れてソフィアが乗り込むと、馬車はゆっくりと王宮に向け出発していった。

ーーーー

 王宮に着くと、そのまま王座の間に案内された。
 するとソフィアはそのまま王座へ深く腰を下ろした。
「さぁ太我裏。 準備はできておるか?」
 ソフィアが怪しく笑う。
「準備って、なんの準備だよ……」
 ソフィアの不気味な笑みに、少し怯んでしまう。
「ふふふ……では、皆の者、前へ出てくるがよい!」
 ソフィアの号令とともに置くの扉が大きく開かれ、扉の向こうから数人の人影がこちらに近ずいてくる。
「は……? え、どう言う面子よ…………これ……」
 扉の向こうから出てきた人影は全て、出逢い、言葉を交わしたことのある人物だった。
 では、順に名前、職業、あと太我裏に対しての一言を宜しく頼む。 まずはニーチェからじゃな」 
「私の名前は、アマ・ニーチェ・テラスよ。 こんななりでも一応魔導師をやっているわ。 得意系統は火系統よ、これからよろしくね、坊や」
 最初に声を上げたのは初日に昼飯をご馳走してくれた痴女だった。
 あの言葉はこういう事だったのか……。
 痴女の自己紹介が終わったところで、そのなりにいた人影が、僕の背中を叩いてくる。
 毎度、この人は加減ってものを知らないのか、背骨が折れそうなほど強く叩いてくる。
「お! いよいよ冒険ってかっこうになったじゃねかにぃちゃん! やっぱ男はそうでなくっちゃな! おっといけねえ、陛下からの注文をこなさねえとな。 俺の名前はスキン・ヘッディーだ、職業は見ても通り僧侶だ。 よろしく頼むぜ、にぃちゃん」
  スキンさんは例のごとく、自慢の頭をペチっと叩き、大きな声で笑っている。
「どう見てもあなたは僧侶には見えませんよ⁉︎ ……料理は食料を狩るところからだって言ってて、ましてや、その図体じゃ……」
 思わず声に出してしまったが、スキンさんは全く気にもとめず「そうか?」とだけ言って、また笑い出した。 愉快なおっさんだ。
 ーーキンッ
 スキンさんの自己紹介が終わると、なにやら金属音がした。
「名前は姫龍サナ。 ナイトをやっている。 貴様……陛下に行った無礼の数々……その身で償う覚悟はできているのだろうな?」
 さっきの金属音は、美人が剣をぬいた音だったらしく、剣先は完全にこちらを向いている。
 言葉と同程度……いや、それ以上に殺意に満ちた眼光で睨まれる。
 そんなに睨まなくてもいいだろうに……これじゃ魔物に襲われる前に、僕の首が飛んで行ってしまいそうですぜ……。
「姫龍ミラと申します。 お粗末ながら、武闘家をさせていただいております。 太我裏様のお言葉は陛下より賜ったお言葉と同等に承る所存でございますゆえ、何卒宜しくお願い致します」
「ん?」
「何か御用がありましたか、太我裏様?」
「いや、ちょっとした疑問なのだけれど、ミラさんはサナさんと姉妹なんですか?」
 すると、執事は少し微笑みながら答えた。
「えぇ、私とサナは姉妹にございます。 多少癖の強い部分もあるかと思いますが出来の良い妹は……サナは私の自慢の妹でございます」
 さっきの行為も多少の癖で済んでしまうのだろうか? 
 そんな疑問はさて置き、正直、意外でしかない。
  髪色も美人(サナ)の方は栗色なのに対し、執事(ミラ)の方は漆色。 瞳の色も栗色と真紅で違う色だし、顔立ちもカワイイ系とキレイ系で全く違う。
 言われなければ分からないほど似ていない。
「余達が姉妹であることは、貴様には関係の無いはずだ……1度、魂だけの状態からやり直した方がいいのではないか?」
 美人は相当不機嫌なようで、先程から毒しかはかない。 しかも、なかなかヘビーな毒しか……。
「ま、まぁそうだけれど……。 そ、それよりも最後の人がなんでお前なんだ? 僕の見間違いでなければ、お前はここにいないはずだろ?」
「………………。」
 執事のあとに紹介されるはずの人物は、今まで名乗ってくれた人達の中で1番関係の深い人物だった。
「まぁ良いではないか太我裏。 どうしてもと頼まれたので仕方なくじゃ……よほど心配なのであろうよ」
 「だからって、なんでお前なんだよ……愚妹」
 そう、最後の1人は我、愚妹……篭理 凛花、僕の妹だ。
 でもおかしいはずだ。 僕が家を出る時に家族は寝ていたはず……少なくとも、両親は。
「なんであたしが此処に居るのかわからないって顔してるなクソ兄貴」
「なぜ僕の思考が読めるんだよ、お前は!」
 少し動揺する。
 そんな僕の姿を見て愚妹は、片側の口角をつり上げ、僕のことを「単細胞が」と言いながら言葉を紡ぐ。
「よく思い出してみなよ、クソ兄貴。 家を出る直前にあたしの姿を一目でも見たか? どうせパパとママしか確認してないんだろ?」
 図星だ。
 「てかお前、いつ移動したんだよ」
「はぁ~」
「ため息がダダ漏れだぞ……」
 愚妹がやれやれといった感じでため息を漏らす。
「あたしがクソ兄貴の部屋に行って、逃げ出したあと……家を出る時、あたしの部屋の確認もしなかっただろ?  その時に移動したんだよ」
 愚妹の説明で、なぜこの場に愚妹が僕よりも早く、王宮に居たのか、やっと理解ができた。
「でもなんで、お前が僕と一緒に旅に出るんだよ? 自慢じゃないが、僕はお前と仲がいいとは、到底言えるような関係ではないはずだし、お前も僕のことをそんなに好いていないだろう? それがどういう風の吹きまわしでこうなるんだ?」
「たしかにその通り。 あたしとクソ兄貴の仲は、良くない……むしろ、誇れるぐらいに仲が悪いと思ってる」
 そんなところで誇るなよ。 と言いたいのだけれど喉まで出ていたその言葉を強引に飲み込み、愚妹の話の続きを聞く。
「なのになんで此処に居るのかって言うのは、せめて家族であるいじょう、兄貴が動かなくなった時に、笑って……ごめん噛んだ。 せめて骨だけは持って帰ってあげようかなって」
「今僕の死を笑うって言ったな! てか、そもそも僕が天に召されること前提なのかよ!」
「噛んだって言ったじゃんか……。てか、あたしの優しさをそう捉えるなんて……。 第一、引きこもりが外に出て、魔物と戦うなんて自殺に等しい行為ってのがわからないくらい脳みそ退化知っちゃったの? 」
「兄が死ぬことを前提に、しかもその姿を笑おうとしてついて行く行為の何処に優しさがあるんだよ!」
 この愚妹派やはり僕のことを相当嫌っているのだろう。
 もはやその言動は、どこぞの独裁者レベルに理不尽だ。
「まぁ太我裏、そんなに怒ってやるものじゃない。 凛花は太我裏のことが心配で一緒に来たいと自ら志願してきたんじゃ」
「え、なんだっって? 兄の死を嘲笑おうとしてたやつが心配して付いてくるだって? 僕にそんなに兄思いの妹は居ないはずだが?」
「このクソ兄貴が」
「まぁ良いではないか。 太我裏は知らんかもしれんが、凛花は1000年に1人の逸材と謳われるほどの才能の持ち主じゃ。 魔術、幻術、体術共に歴代の記録を次々と塗り替えていっているほどじゃからな」
「は?」
 正直理解ができない。
 僕である愚妹が、そんな多彩な才能を秘めていたなんて、到底理解できない。
 僕も幼少期にはそれなりに才能が認められてはいたものの、そんな記録を塗り替えて行くことなんてしたこともないし、できると思ったこともない。
 そんなすごいことを血族が達成するなんて、僕は兄として鼻が高いし、自慢できる……まぁ、自慢する相手がいないのだが……。
「てか、そんなにすごい才能があるのなら、旅に出すこと自体国にとって不利益でしかないはずなのに、どうして許可が降りたんだ? そこが不思議でしょうがないのだけれど」
「一重に愛じゃよ」
 スフィアが言う。
「妾は凛花のことが好きじゃ。 だから、例えその行為が国にとってどんなに不利益っじゃろうと、妾は凛花の願いを叶えてやりたいのじゃよ」
「そういうこった、クッソ兄貴。 あたしもついて行くからな」
 僕は、愚妹の才能の凄さと、スフィアの愛の深さにただただ理解が及ばず、その場に立ち居尽くしていた。
「このメンバーでどうじゃ太我裏?」
「…………。」
「沈黙は肯定じゃな! よし、これで準備完了じゃ!」
 スフィアが声高らかに宣言する。
 こうして僕は、アマ・ニーチェ・テラス、スキン・ヘッディー、姫龍サナ、姫龍ミラそして篭理凛花を仲間に加え、勇者としての旅の準備は終了したのであった。
 ぶっちゃけ不安しかないのだが……。
しおりを挟む

処理中です...