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第拾参録 魔物と人間2
しおりを挟むファングウルフにまたがりながら森を進む。
「にぃちゃん、説明頼むぜ……」
「えーとですね、簡潔に言うと、どうやらファングウルフは思念会話的なことが出来るみたいです……さっきは襲うつもりはなくて、ただご飯が欲しかっただけだったみたいです。 なのでご飯を貰えるなら従うって約束してくれたんです」
スキンさんは自慢の頭をペチンッと叩き笑いながら
「なんだよ!そういうことなら先に行ってくれよな!森で遭難することも想定して飯はいつも持ち歩いんだ、ほれ」
そう言ってスキンさんは腰に巻かれたポーチの中から乾燥した肉を取り出し、ファングウルフの口元に運ぶ。
『何だこの肉!?噛みごたえが……!!』
ファングウルフが驚愕している。
「スキンさん、なんかファングウルフがずっともにゅもにゅしてて、全然飲み込めないみたいなんですけど……」
「ん?あぁ、この乾燥肉は俺のオリジナルなんだよ!フライピッグの肉を調味料に1週間漬け込み、その後3週間かけて乾燥させて出来上がる代物さ! 栄養価、保存期間、味、噛みごたえに優れた最高の逸品だぞ!」
「フライピッグ?! 飛ぶんですか?!」
作り方や、味よりもそちらに興味が行ってしまう。
「いや、飛ばねぇよ?ただのピッグに翼が生えたみたいなもんだ、まぁ入手困難食材ではあるがな……それはそうと、ピッグが飛ぶわきゃねえだろ! ガハハハハ!」
めっちゃ名前裏切るじゃん、フライピッグ……飛べよ……
そんな話をしているうちに、森の終わりが見えて来た。
「おっ、にぃちゃん。そろそろ着くぜ!……ファングウルフこんなにいたら奇襲と思われねえか……にぃちゃん」
「それは……そうですね」
たしかに、こんなに大所帯で村に入ってしまっては村人を恐怖の渦に陥れかねない……先に僕とスキンさんで村長と村人に説明するのが無難か……?
「ひっ……!!ファ、ファングウルフの大群だっ!!みんなにげっ……?!」
「静かにしな、あんちゃん……こいつらに危険はねぇよ、俺が補償する。いいな?」
スキンさんが大声をあげようとしていた村人を捕まえ説得(物理)を行なっている。
見た目は完全に盗賊や悪役のそれである。
不運な村人の恐怖は完全にファングウルフからスキンさんに対する恐怖へと変わっており、涙目でコクコクと頷く。
なんて凄まじい光景なのだろうか……やはりこの人は僧侶とは真反対に位置する武闘家なのではないか?
「よし」
そういうとスキンさんは村人を解放した。
「スキンさん、一番無難な卓を取りましょう。 まず僕ら3人で村に入りファングウルフのことを説明し、こいつらへの食事等の交渉をしてみましょう」
言うとスキンさんは「それがいい」と言いながら村へと歩き出した。
その後ろを僕と村人がついていく。
『では、我々はここらの茂みで身を隠して待ってます。 何かあったら呼んで下さい』
ファングウルフたちは足速に茂みに隠れて行った。
ーーーーーーーー
「おお、よくぞご無事で! 近場でファングウルフの目撃情報があったので何かあったのではと心配しておりました!」
村にはいると村長が胸を安堵した様子で話しかけてきた。
村長から声をかけてくれ流のであれば、都合がいい。
なにせ自分から声をかけるのはしんどいからな……
「村長、少しお話があるのですが……」
こうして僕は、スキンさんに補足を入れてもらいながら、ファングウルフたちのことを説明した。
「なんと、ファングウルフの群れを仲間にされたのですか……さすがは勇者様ですな!」
村長は疑いもせずに、僕ら2人の話を信じてくれた。 普通に考えて意味のわからないことだと思うのだけれど……。
村長に承諾を得ることに成功した僕は、先ほどファングウルフを待機させた場所に呼びに戻り、共に村と入った。
一通りのことを終え、宿に戻り、ベッドにダイブする。
「ふぅ~、疲れた……」
修行のことといい、ファングウルフのことといい、やけに疲れる出来事が重なってしまった。
「夕食まではまだ時間があるし、風呂でも入るか……」
疲れた体を癒そうと、宿に併設されている浴場へ向かうことにした。
部屋を出て、浴場に向かう途中に足湯があったり、マッサージのサービスがあったりと、至れり尽くせりなラインナップを見かけ、寄っていこうかと思ったが、足湯には愚妹とニーチェさん、マッサージにはサナさんとミラさんが先に入っており、とても入れる状況ではなかったため断念。 そのまま浴場へと向かった。
脱衣所で服を脱ぎ、浴室へ入る。
浴室は天井がなく、星空がこちらを覗いている。
浴室内はとても広く、走り回っても誰にも迷惑をかけずに済みそうなほどで、真ん中に円形の浴槽がどんと居座っている。ゆの色も若干琥珀色がかっており、とても効能がありそうだ。
隣は女湯なのであろうか、壁があり向こう側から湯気が立っているのが見える。
そんな浴槽のど真ん中には茶色の卵があり、夕日を浴びて煌々と光っていた。
スキンさんだった。
「お、にぃちゃんも風呂か?ここはお湯が熱めで気持ち良いぞ!疲れた体にもってこいだな!」
スキンさんは湯船に入っていてもいつもと遜色ない元気っぷりだ。風呂なんだからもう少し静かに入っているかと思ったが、全然そんなことはなかった。
スキンさんに手招きされ湯船に入ると、先ほど言っていた通りお湯が熱めでとても気持ちが良い湯だ。
「にぃちゃん、空見上げて見みな……すげぇぞ」
スキンさんに言われ空を見ると夕日が沈み、だんだんと夜の帳が下りていっている。
「綺麗ですね、まさかこんなところでこんなに綺麗な景色を見ながら湯船に浸かれるなんて……」
「いや、にぃちゃん。そこじゃねぇ……あっちの山のてっぺん見てみな」
「山?一体何があるって言うんですか……何あれ」
スキンさんが指差す山の頂上で、大きな何かの影が動いているのが見える。
「ありゃドラゴンだな……ここからじゃちゃんとした種族までは分からねえが、ここからでも見える大きさとなりゃ、ウォール・ドラゴンかそこらだな……厄介なことに、俺らはあの山を越えなきゃなんねぇんだよな」
言いながら、スキンさんは表情を曇らせる。
「ウォール・ドラゴンって凶暴だったりするんですか……?」
「いや、人里を襲うことはないし、滅多に人に関わることもないが縄張り意識が強く、奴の縄張りに入るときは細心の注意を払わなきゃなんねぇ……まあ、俺らはあの山を迂回する形で行くしかねぇわな……しかも、物理攻撃じゃビクともしねぇほど硬い殻に覆われてる」
スキンさんの話を聞く限り、戦闘になったら確実に僕は死ぬだろうと覚悟した。
僕、ほとんど魔法使えないし……。
「……サンダーアロー!!」
壁の向こうから声がしたので見ると、壁の向こう側が紫色に光っており、上空の方には紫雷は迸っている。
「良い感じよ、凛花ちゃん!!あなた、才能あるわね……まさか雷系統の魔法も使えるなんて!私の妹にならない?」
「いや、ニーチェさんの教え方が上手なんですよ!私なんてまだまだです……あ、妹の話はお断りしますね」
どうやら女湯の方では凛花が痴女さんに魔法を教えてもらっているようだ。
そもそも風呂場で雷系魔法とか、頭おかしいと思うが、こちらに被害がないのでそこは目を瞑っておこう。さすが僕、大人な対応だ。
「あ!あんなところにちょうど良い的があるじゃない、凛花ちゃん、あの山の頂上にいるドラゴン見える?」
「はい、あのウォール・ドラゴンですよね?」
2人が不気味な発言をし出しているので、壁に耳を当てこっそり話を聞く。
「なぁ、にぃちゃん……あいつらもしかして」
スキンさんも気になったのか、同じく聞き耳を立てている。
「あのドラゴンは物理攻撃は効かないけど、魔法による攻撃にはめっぽう弱いのよね……」
「なるほど……先生、出力あげますね?」
凛花の声が消えると、先ほどまでとは比べものにならないほど大きな音でバチバチと空気を稲妻が切り裂くような音が響き出す。
「よし!脳天へむかって~~」
「「発射!!!!」」
紫雷がものすごい速度で山の頂上にむかっていき、大きな影が倒れる様が見え、その数秒後に、遠くの方で断末魔が聞こえた。
「よくやったわね凛花ちゃん!!」
「いえ!今回はたまたまですよ!」
そんな呑気な会話が聞こえた後に扉の閉まる音がした。
「あいつら……まじかよ……」
スキンさんの表情から珍しく笑顔が消えている。
この時、スキンさんから笑顔を消し去る程の威力を生み出すあの2人は絶対に敵に回したくないと僕とスキンさんは心に決め、浴場を後にした。
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