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第3章 竜使いであること
キリハの訓練内容
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ドーム内に落ちる暗闇。
その中にぽつりと浮かぶ、〈撃破成功〉の文字。
照明が再び点灯してもその余韻は覚めず、この空間全てを無と表現しても大袈裟ではない静寂で塗り潰していた。
キリハは無言で立ち上がり、剣を左右に一振り。
その後、剣を右手にぶら下げて一人で操作室に戻った。
ラックに剣を片付け、茫然自失といった面々の中で唯一満足そうな笑みを浮かべているフールに向かって肩をすくめてみせる。
「ほら。これでご希望どおりでしょ?」
「にゃはは。さすがキリハ、狙いどおりだよ~♪」
してやったりといった様子のフール。
その明るい声で、この場を凍りつかせていた呪縛が解けた。
「すっ…」
カレンの唇が震える。
「すごいすごい!! どうやったのあれ!? いつの間に覚えたのー!?」
興奮したカレンに一瞬で詰め寄られてしまったキリハは、困ったように視線を右往左往とさせる。
「いや、まあ……とにかく、焔の癖を体に叩き込んだ結果っていうか、なんていうか……」
まさか、こんなに驚かれるとは。
想定外の展開なので、心なしか少し居心地が悪い。
カレンの興味深げな視線による追究は止まらない。
それにキリハが上手い説明を構築できずに言い澱んでいると……
「おーい。みんな、こっちこっち!」
操作盤の側にいたフールが、飛び跳ねながら皆を手で招いた。
皆が操作盤の前に集合すると、彼はシミュレート訓練開始前と同じようにタッチペンを持ち、忙しなく手を動かし始めた。
液晶画面がどんどん切り替わっていき、あるページで止まる。
そこに映るのは、キリハの個人ページだ。
(こいつにパスワードを教えるんじゃなかった。)
効率化のためだったとはいえ、過去の自分の行動が悔やまれる。
キリハ以外の全員が注目する中、フールはさらに画面をタッチしていく。
通常訓練メニューからシングルモード。
個人カスタム訓練。
そして、カスタム詳細設定へ。
「これが、キリハが一人の時にいつもやってる訓練メニューの設定だよ。」
これはシミュレーションなので、設定次第で様々な状況を作り出すことが可能だ。
先ほどの訓練では荒野が舞台となっていたが、それもボタン一つで海辺や森の中へと変えられるのである。
フールが示したのは、キリハが個人的に登録してあったカスタム設定の詳細だった。
「どれどれ……」
興味深げに液晶画面を凝視するカレン。
その表情が、見る見るうちに不可解そうに変化していく。
フィールド:屋内・道場
遮蔽物:人形ランダム出現
《焔乱舞》:有
時間:無制限
そして……
「ドラゴン出現:無?」
設定の中で最も解せない部分を、カレンの唇がなぞる。
そう。
キリハの訓練はドラゴン戦を想定したものではなく、基本的な剣の訓練だったのだ。
その場にいる全員の視線が一点に集まる。
〝一体何故〟という無言の問いに、キリハは頭を掻いた。
「だって、この剣使いにくすぎるんだもん。基本的に受け手に回るのが俺の戦い方だから、まずは焔がどんな物なのかを徹底的に知ろうと思って。それなら、ドラゴンって邪魔じゃん?」
自分の力で無理にねじ伏せて剣を振るうのは性に合わない。
だから一度ドラゴンのことを忘れ、《焔乱舞》だけに集中することにしたのだ。
しかし、こういう精密機械の扱いは理解し難く、どうしたもんかと悩んでいたところにフールが来た。
フールの助言がなければ、自分はカスタム設定の存在すら知らなかったことだろう。
「まあ、焔がただの剣だったら、俺もみんなと同じ訓練をしてたと思うけど。」
今回は、武器が規格外だったのだ。
自分としてもこんな初歩的な訓練を今さらすることになるとは思っていなかったし、それにここまでの時間を費やすことになるなんて、それこそ予想もしていなかった。
「僕も、最初は変わったことするなぁ~って思ってたんだけど、キリハったらぐんぐん焔と馴染んでいくんだもん。これはいけると思って、さっきの技を教えたんだ。」
まるで自分のことのように鼻高々といった様子のフール。
それに、キリハは呆れるしかなかった。
「お前なぁ…。あの感触を覚えるのに、どれだけ苦労したと思ってるのさ。まだ焔の癖にも慣れきってなかったのに、あんな無茶振り―――」
文句は、最後まで言えなかった。
実践場と操作室の間を仕切る自動ドアが開いたからだ。
そこから現れたルカは、悔しさや苛立ちがない交ぜになった複雑な目でキリハを一瞥し、何も言わないままシミュレート室を出ていこうとする。
「ルカ。」
その背に投げかけられる、フールの声。
「別に、僕はキリハだけに目をかけてるわけじゃないよ。たまたま、キリハの流儀が焔と相性がよかったってだけさ。君のやり方が間違ってるわけではないし、僕としても君を否定するつもりはないからね。」
「………」
数秒立ち止まったルカだったが、結局彼は振り返らずにシミュレート室を出ていってしまった。
「あちゃー。焔の技を見せてあげたかっただけなんだけど、こりゃ刺激が強すぎたかな?」
強すぎもなにも最悪だ。
もし本当にこの流れを予測できずにあの技を使わせたのなら、このぬいぐるみには空気を察する能力が致命的に欠如している。
〝お前のせいなんだから、命令を撤回しろ。〟
その言葉が喉の真ん中まで出かかったが、フールはともかく、ターニャがそれを許してくれるとは思わない。
故に、キリハはがっくりと肩を落とすしかなかった。
「俺は、悪くないからね……」
その中にぽつりと浮かぶ、〈撃破成功〉の文字。
照明が再び点灯してもその余韻は覚めず、この空間全てを無と表現しても大袈裟ではない静寂で塗り潰していた。
キリハは無言で立ち上がり、剣を左右に一振り。
その後、剣を右手にぶら下げて一人で操作室に戻った。
ラックに剣を片付け、茫然自失といった面々の中で唯一満足そうな笑みを浮かべているフールに向かって肩をすくめてみせる。
「ほら。これでご希望どおりでしょ?」
「にゃはは。さすがキリハ、狙いどおりだよ~♪」
してやったりといった様子のフール。
その明るい声で、この場を凍りつかせていた呪縛が解けた。
「すっ…」
カレンの唇が震える。
「すごいすごい!! どうやったのあれ!? いつの間に覚えたのー!?」
興奮したカレンに一瞬で詰め寄られてしまったキリハは、困ったように視線を右往左往とさせる。
「いや、まあ……とにかく、焔の癖を体に叩き込んだ結果っていうか、なんていうか……」
まさか、こんなに驚かれるとは。
想定外の展開なので、心なしか少し居心地が悪い。
カレンの興味深げな視線による追究は止まらない。
それにキリハが上手い説明を構築できずに言い澱んでいると……
「おーい。みんな、こっちこっち!」
操作盤の側にいたフールが、飛び跳ねながら皆を手で招いた。
皆が操作盤の前に集合すると、彼はシミュレート訓練開始前と同じようにタッチペンを持ち、忙しなく手を動かし始めた。
液晶画面がどんどん切り替わっていき、あるページで止まる。
そこに映るのは、キリハの個人ページだ。
(こいつにパスワードを教えるんじゃなかった。)
効率化のためだったとはいえ、過去の自分の行動が悔やまれる。
キリハ以外の全員が注目する中、フールはさらに画面をタッチしていく。
通常訓練メニューからシングルモード。
個人カスタム訓練。
そして、カスタム詳細設定へ。
「これが、キリハが一人の時にいつもやってる訓練メニューの設定だよ。」
これはシミュレーションなので、設定次第で様々な状況を作り出すことが可能だ。
先ほどの訓練では荒野が舞台となっていたが、それもボタン一つで海辺や森の中へと変えられるのである。
フールが示したのは、キリハが個人的に登録してあったカスタム設定の詳細だった。
「どれどれ……」
興味深げに液晶画面を凝視するカレン。
その表情が、見る見るうちに不可解そうに変化していく。
フィールド:屋内・道場
遮蔽物:人形ランダム出現
《焔乱舞》:有
時間:無制限
そして……
「ドラゴン出現:無?」
設定の中で最も解せない部分を、カレンの唇がなぞる。
そう。
キリハの訓練はドラゴン戦を想定したものではなく、基本的な剣の訓練だったのだ。
その場にいる全員の視線が一点に集まる。
〝一体何故〟という無言の問いに、キリハは頭を掻いた。
「だって、この剣使いにくすぎるんだもん。基本的に受け手に回るのが俺の戦い方だから、まずは焔がどんな物なのかを徹底的に知ろうと思って。それなら、ドラゴンって邪魔じゃん?」
自分の力で無理にねじ伏せて剣を振るうのは性に合わない。
だから一度ドラゴンのことを忘れ、《焔乱舞》だけに集中することにしたのだ。
しかし、こういう精密機械の扱いは理解し難く、どうしたもんかと悩んでいたところにフールが来た。
フールの助言がなければ、自分はカスタム設定の存在すら知らなかったことだろう。
「まあ、焔がただの剣だったら、俺もみんなと同じ訓練をしてたと思うけど。」
今回は、武器が規格外だったのだ。
自分としてもこんな初歩的な訓練を今さらすることになるとは思っていなかったし、それにここまでの時間を費やすことになるなんて、それこそ予想もしていなかった。
「僕も、最初は変わったことするなぁ~って思ってたんだけど、キリハったらぐんぐん焔と馴染んでいくんだもん。これはいけると思って、さっきの技を教えたんだ。」
まるで自分のことのように鼻高々といった様子のフール。
それに、キリハは呆れるしかなかった。
「お前なぁ…。あの感触を覚えるのに、どれだけ苦労したと思ってるのさ。まだ焔の癖にも慣れきってなかったのに、あんな無茶振り―――」
文句は、最後まで言えなかった。
実践場と操作室の間を仕切る自動ドアが開いたからだ。
そこから現れたルカは、悔しさや苛立ちがない交ぜになった複雑な目でキリハを一瞥し、何も言わないままシミュレート室を出ていこうとする。
「ルカ。」
その背に投げかけられる、フールの声。
「別に、僕はキリハだけに目をかけてるわけじゃないよ。たまたま、キリハの流儀が焔と相性がよかったってだけさ。君のやり方が間違ってるわけではないし、僕としても君を否定するつもりはないからね。」
「………」
数秒立ち止まったルカだったが、結局彼は振り返らずにシミュレート室を出ていってしまった。
「あちゃー。焔の技を見せてあげたかっただけなんだけど、こりゃ刺激が強すぎたかな?」
強すぎもなにも最悪だ。
もし本当にこの流れを予測できずにあの技を使わせたのなら、このぬいぐるみには空気を察する能力が致命的に欠如している。
〝お前のせいなんだから、命令を撤回しろ。〟
その言葉が喉の真ん中まで出かかったが、フールはともかく、ターニャがそれを許してくれるとは思わない。
故に、キリハはがっくりと肩を落とすしかなかった。
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