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第4章 暗闇の中に
近付く限界
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いくつもの液晶画面に並ぶ数字たち。
赤い点が光る地図。
時おりそれらを見やりながら、フールは机いっぱいに広げられた書類の紙面を睨んでいた。
液晶画面に映るのは、ドラゴンに関するこれまでの観測データ。
書類に記されているのはこれらのデータを基に算出された、ドラゴン出現予測に関する報告書だ。
さすがは宮殿直下の情報部と気象部だ。
資料に目を通し始めて数十秒でそんな感想を抱いた。
ドラゴンの出現が近付くにつれて増えた地震の特徴や、人の目には分からない微妙な気象の変化、これまでのドラゴン出現地点。
それらを総合的に見て割り出されたこの予測データは、概ね正しいと思えた。
もちろん多少の誤差は出るだろうが、この予測地点から実際の出現地点が大きく外れることはないだろう。
この予測データを活用してあらかじめ出現地点付近に部隊を待機させることができれば、今の後手後手の状況も少しは改善される。
周辺住民の避難も、より安全に行えるはずだ。
「次の出現予測は一週間後、か……」
小さく報告書の内容をなぞったところで、電話の受話器を戻す音が聞こえてきた。
続いて、疲労をまとわせた重たい溜め息が空気を揺らす。
「お疲れ様、ターニャ。」
フールは書類から顔を上げる。
その視線の先では、ターニャが頭痛をこらえるように額に手を当てていた。
「相変わらず、マスコミには手を焼いてるみたいだね。」
電話の内容は聞こえてきていたので苦笑して言うと、ターニャはまた深く溜め息をついた。
「ええ。キリハが倒れてから、もう一ヶ月半。そろそろ、マスコミを抑えるのも難しくなってきましたね。やはり、最近の討伐に焔が使われていないことが大きいようです。今は生体検査のために焔を使用していないと公表していますが、このままキリハが姿を見せず、焔も使われないとなれば……事態が露見するのは、時間の問題ですね。せめて、別の誰かが焔を使えればよかったのですが……」
安全面の観点から、ドラゴン討伐へのマスコミの参加は禁止されている。
とはいえ、必ずどこかから隠し撮りされているのが現状だ。
最近のドラゴン討伐にキリハがいなかったことは、すでに世間の知るところになっている。
マスコミの追及が厳しくなっている今、キリハの他に《焔乱舞》を扱える人間がいれば、世間の注目をそちらに逸らすこともできるかもしれない。
―――しかし、だ。
フールは、静かに首を横に振る。
「無理だよ。焔が認めたのはキリハだけだ。仮に焔が誰にでも扱える剣だったとしても、今のみんなの精神状態じゃ、あの焔を御せるとは思えないね。」
きっぱりと断言すると、ターニャの表情が少しだけ曇った。
「………あの人がいれば……」
しばしの沈黙の後に聞こえたのは、消え入りそうな弱々しい声。
彼女が頼れるのは彼しかいない。
ずっと彼女を傍で見てきたのだから、それは知っている。
しかし、フールはこれにも首を振るしかなかった。
「ここにいない人のことを考えても仕方ないさ。それに、彼はもう十分重いものを背負ってるよ。これ以上は、さすがに酷なんじゃないかい?」
率直に意見を述べると、今度はターニャの表情が明らかに変化した。
「そうですね…。そのとおりです。」
平坦な口調とは対照的に、その顔は今にも泣き出してしまいそうだ。
(みんな、壁にぶつかってるんだね……)
ふと、そう思う。
こんな姿をしているからか、普段は周囲の空気を気にしている人でも、自分の前では案外簡単に胸の内を語ってくれることが多い。
そうして見てきた宮殿の関係者たちは、程度に差はあれど、多くの人がそれぞれに限界を感じていた。
(キリハ……)
窓の外に広がる青い空を見上げ、これだけの影響力を持っていた人物の名を呼ぶ。
(君は……このまま、覚めない眠りにつくつもりなのかい? こんなみんなを残して……)
赤い点が光る地図。
時おりそれらを見やりながら、フールは机いっぱいに広げられた書類の紙面を睨んでいた。
液晶画面に映るのは、ドラゴンに関するこれまでの観測データ。
書類に記されているのはこれらのデータを基に算出された、ドラゴン出現予測に関する報告書だ。
さすがは宮殿直下の情報部と気象部だ。
資料に目を通し始めて数十秒でそんな感想を抱いた。
ドラゴンの出現が近付くにつれて増えた地震の特徴や、人の目には分からない微妙な気象の変化、これまでのドラゴン出現地点。
それらを総合的に見て割り出されたこの予測データは、概ね正しいと思えた。
もちろん多少の誤差は出るだろうが、この予測地点から実際の出現地点が大きく外れることはないだろう。
この予測データを活用してあらかじめ出現地点付近に部隊を待機させることができれば、今の後手後手の状況も少しは改善される。
周辺住民の避難も、より安全に行えるはずだ。
「次の出現予測は一週間後、か……」
小さく報告書の内容をなぞったところで、電話の受話器を戻す音が聞こえてきた。
続いて、疲労をまとわせた重たい溜め息が空気を揺らす。
「お疲れ様、ターニャ。」
フールは書類から顔を上げる。
その視線の先では、ターニャが頭痛をこらえるように額に手を当てていた。
「相変わらず、マスコミには手を焼いてるみたいだね。」
電話の内容は聞こえてきていたので苦笑して言うと、ターニャはまた深く溜め息をついた。
「ええ。キリハが倒れてから、もう一ヶ月半。そろそろ、マスコミを抑えるのも難しくなってきましたね。やはり、最近の討伐に焔が使われていないことが大きいようです。今は生体検査のために焔を使用していないと公表していますが、このままキリハが姿を見せず、焔も使われないとなれば……事態が露見するのは、時間の問題ですね。せめて、別の誰かが焔を使えればよかったのですが……」
安全面の観点から、ドラゴン討伐へのマスコミの参加は禁止されている。
とはいえ、必ずどこかから隠し撮りされているのが現状だ。
最近のドラゴン討伐にキリハがいなかったことは、すでに世間の知るところになっている。
マスコミの追及が厳しくなっている今、キリハの他に《焔乱舞》を扱える人間がいれば、世間の注目をそちらに逸らすこともできるかもしれない。
―――しかし、だ。
フールは、静かに首を横に振る。
「無理だよ。焔が認めたのはキリハだけだ。仮に焔が誰にでも扱える剣だったとしても、今のみんなの精神状態じゃ、あの焔を御せるとは思えないね。」
きっぱりと断言すると、ターニャの表情が少しだけ曇った。
「………あの人がいれば……」
しばしの沈黙の後に聞こえたのは、消え入りそうな弱々しい声。
彼女が頼れるのは彼しかいない。
ずっと彼女を傍で見てきたのだから、それは知っている。
しかし、フールはこれにも首を振るしかなかった。
「ここにいない人のことを考えても仕方ないさ。それに、彼はもう十分重いものを背負ってるよ。これ以上は、さすがに酷なんじゃないかい?」
率直に意見を述べると、今度はターニャの表情が明らかに変化した。
「そうですね…。そのとおりです。」
平坦な口調とは対照的に、その顔は今にも泣き出してしまいそうだ。
(みんな、壁にぶつかってるんだね……)
ふと、そう思う。
こんな姿をしているからか、普段は周囲の空気を気にしている人でも、自分の前では案外簡単に胸の内を語ってくれることが多い。
そうして見てきた宮殿の関係者たちは、程度に差はあれど、多くの人がそれぞれに限界を感じていた。
(キリハ……)
窓の外に広がる青い空を見上げ、これだけの影響力を持っていた人物の名を呼ぶ。
(君は……このまま、覚めない眠りにつくつもりなのかい? こんなみんなを残して……)
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