竜焔の騎士

時雨青葉

文字の大きさ
171 / 598
第1章 《焔乱舞》の静まり

心は同じであるはずなのに……

しおりを挟む
 無言でキリハに背を向けるアイロス。
 そして彼は、ドアの隣に設置されているカードリーダーに自分のカードをかざした。


 小さな電子音がして、オートロックのドアの鍵が開く音がする。


「あーあ…。ジョーさんに怒られますよ?」


 ネグレが諦めたように肩を落として、渋々といった様子でキリハを解放する。


「あはは…。まあ、その時は俺が胃痛と戦えばいいだけだよ。複雑だけど、あの人の圧迫尋問には慣れっこなんだ。」


 アイロスは苦笑する。


「それに、キリハ君だけを放り込むつもりはないから。万が一の時の責任は取るよ。」
「そうですね。」


 己の腰に下がる剣を握るアイロスとネグレ。


「じゃあ、行くよ。」


 アイロスがドアの開閉ボタンを押す。
 次の瞬間。


 ――――――ッ


 けたたましい絶叫が、鼓膜を突き破る勢いでとどろいた。


「つっ…」


 耳が痛んだが、そんなことは歯牙にもかけず、キリハは地下シェルターの中に飛び込んだ。


 ルカと共に入った時はとてつもなく広く感じたこの地下シェルターも、ドラゴンを二体も収容するといささか手狭に見える。


 予想はしていたが、暴れていたのは小さなドラゴンの方だった。
 必死に翼と体を動かしているが、その足に何重にも巻かれた太い鎖が邪魔をして、上手く身動きが取れないようだ。


 大きいドラゴンの方は、混乱したように暴れる仲間になすすべもないらしく、シェルターの隅で困ったようにか細く鳴いていた。


 ドラゴンが暴れるほどに、塞がっていない傷口から、血が噴き出しては床に落ちる。
 それを見たキリハは大きく顔を歪め、弾かれたようにその場を駆け出していた。


「キリハ君、待って!」


 アイロスの制止の声は、ドラゴンの悲鳴に掻き消される。


(ごめん……でも、やっぱり無理だよ。)


 自分の体を、自分でも止められない。


 居ても立ってもいられなかった。
 こんなにも苦しげなドラゴンの姿なんて、これ以上見ていられない。


 キリハは、無我夢中でドラゴンの首にしがみついた。


「飛ぼうとしちゃだめだよ! 血が止まらない!」


 必死に訴えるも、ドラゴンは落ち着く様子がない。


「大丈夫だから!」


 ドラゴンが身をよじらせる度に振り落とされそうになるが、それでもキリハは意地で食らいついた。


「このままじゃ、死んじゃう…っ」


 噴き出してくる血が全身を濡らす。
 頭から伝ってきたドラゴンの血が唇の端から入り込んで、口の中に鉄臭い味を広げていく。


「お願いだから……大人しくして……」


 ドラゴンの鳴き声が遠くなる。


「お願い…っ」




 もう、胸が―――痛い。




「うっ…」


 感情が臨界点を越えて、目頭にぐっと熱いものがせり上がってきた。


「ごめん…。俺たちのせいで……」


 そうだよ。
 悪いのは自分たちだ。
 この子だって、暴れたくて暴れているわけじゃないはずだ。


「怖いよね……不安だよね………ごめん……ごめんね…っ」


 長い眠りから目覚めた途端に攻撃され、状況もろくに把握できないまま、こうして閉じ込められて拘束されているのだ。
 ドラゴンたちからしたら、理不尽極まりないだろう。
 この状況で、むしろ暴れない方がおかしい。


 人間と並ぶ知性を持っているなら、きっとドラゴンたちだって、人間と同じように心があるはず。
 それならきっと、こんな意味の分からない状況は怖いに決まっている。


「ごめん……」


 もう、謝ることしかできなかった。


 勝手にドラゴンが危険だと決めつけているのは、人間の方。
 何も知らないのに、知ろうともしない内から、彼らのことを敵だと思い込んでいる。
 そんなの、一方的な暴力と何が違うの?


 見た目が違うだけで、心はきっと同じであるはずなのに。
 それなのに……


 ………………


 気がつけば、いつの間にかドラゴンが暴れることをやめていた。


「うっ……ううっ……」


 静かになったシェルターの中に、自分の泣き声がやたらと大きく響く。


 泣いてどうにかなる問題じゃない。
 分かっていても、あふれてくる涙を止めることができなかった。


 もしかしたら、このドラゴンたちは殺されてしまうかもしれない。
 そう思うと、罪悪感で押し潰されてしまいそうだった。


 大人しくなったドラゴンが、こちらの様子を気にする素振りを見せる。
 その頭上から首を伸ばしてきた大きいドラゴンが、まるでなぐさめてくれるように頭をすり寄せてきた。


 その優しさを感じながら、胸は悔しさともどかしさでさらにきしむ。


 助けてあげたい。
 分かり合える余地があるなら、そこに希望を見出だしたい。


 なのに、どうして……


 ドラゴンたちに身を預けて、キリハはしばらく、声を殺して泣いた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良
ファンタジー
 ――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」  魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。  残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。  だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。  ――そして、二十分後。  不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。  シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。 「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」  『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!  哀れな魔王の、明日はどっちだ……? (表紙イラストは、ペケさんから戴きました) *小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...