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第2章 だだ、生きているだけなのに……
研究部の意見
しおりを挟む「ターニャ様。少し、お時間をいただいてもよろしいですかな?」
その日、解散しようとざわめいていた会議室にとある客が訪ねてきた。
「珍しいですね。あなたが直接ここに来るのは。」
声をかけられたターニャは、軽く目を見開く。
そこに現れたのは、宮殿研究部の代表であるオークスだった。
細い体に少しよれた白衣を身につけた初老の彼は、眠たげな目で頭を掻いている。
研究部のオークスいえば、滅多に出会えないことで名が通っている。
基本的には研究部の奥にこもって、昼夜問わず研究に明け暮れているらしい。
研究さえできるなら、誰が政治の実権を握っていようがどうでもいい。
オークスの姿勢がそういう感じなので、ドラゴン殲滅部隊と研究部は、割と友好的な関係を築いているという。
とはいえ研究部からしたら、ドラゴン殲滅部隊も竜騎士隊も、ドラゴンという希少サンプルを手に入れるための大事なコネという扱いかもしれないが。
「なあに、ちょっとした提案を持ってきただけですよ。」
欠伸を一つかき、オークスは眼鏡の奥の目をにやりと歪めた。
「件のドラゴンなんですがね、期間限定で我々に譲ってはくれませんかね?」
「!?」
オークスの発言で、会議室に大きなどよめきが起こった。
オークスとターニャの会話を最前列で聞いてきたキリハは、突然のことについていけずに目をまたたかせる。
「どういうことでしょう?」
ターニャの声にも、固いものが滲んだ。
「カカカ、そんなに気張りなさんな。悪い話ではありませんよ。」
独特な笑い声をあげ、オークスは続けた。
「我々がドラゴンの保護を訴えるのは、貴重な生きたドラゴンを研究したい一心に他なりません。ですが、ドラゴンを保護し続けるのが、国民の不安を長引かせるのも事実。ならば、期間を決めてしまえばいいのです。」
オークスのその意見に、対立できる者はいなかった。
自分の独壇場となった会議室に満足したのか、オークスは上機嫌で自分の提案を述べていく。
「我々がドラゴンの研究をする期間は一ヶ月。その後は、宮殿本部にドラゴンの所有権をお返しします。期間が決まっていれば、一旦は国民の声も落ち着きましょう。これならば少なくとも、あと一ヶ月は議論の結論を先延ばしにできます。」
「………」
そこで、ターニャが少し考える素振りを見せた。
それを見たオークスは、にやりと口の端を吊り上げた。
「なんなら、我々が責任を持って処分のお役目まで買いましょうとも。実験動物同様、安楽死はお約束しましょう。」
実験動物。
分かっているつもりだったが、オークスのその言葉は、キリハに大きな衝撃を与えた。
やはりそうなのだ。
研究部の人々は、ドラゴンをあくまでも研究対象としか見ていない。
少しでも研究ができるなら、最終的にドラゴンがどうなろうとどうでもいいのだ。
会議室の中はより一層ざわめき、ターニャは深く考え込むように視線を落としている。
「そうですね…。考えておきます。」
彼女の答えは、否定でも肯定でもなかった。
嫌だ。
この先の話なんて、聞きたくない。
キリハはぎゅっと目をつぶると、勢いよく席を立って会議室を飛び出した。
「キリハ!」
サーシャが呼び止めるも、キリハの耳にそれは届いていなかった。
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