325 / 598
第1章 見え隠れする白い影
シアノの父親
しおりを挟む
シアノを追いかけ始めて、数時間。
病院を出た時には空にあった太陽は、とっくのとうに沈んだ。
街をどんどん通り抜けた結果、人はまばらに。
歩く道も綺麗に舗装されていた道路から、砂利道へと変わっている。
しかし、シアノは歩みを止める素振りも見せず、街灯が少ない小路を、さらに闇の方へと進んでいく。
(どこまで行くの…?)
ここに至るまで、どのくらい歩いたのか分からない。
自分ですら足が痛くなってきたというのに、シアノの歩調はしっかりしたものだった。
ものすごい体力と脚力だ。
普段からこの距離を行き来していたんだとしたら、あのすばしっこさにも納得がいく。
「………」
シアノの後を追いながら、キリハはふとポケットに手を入れる。
電源を切ったせいで、一切鳴らない携帯電話。
正確な時間は分からないが、日が沈んでからかなり経つ。
きっと今頃、皆が心配しているだろう。
(みんな、ごめん。でも、今は―――……)
心の中だけで宮殿の人々に謝り、キリハはまた前を向いた。
さらに時間をかけて道を歩くと、周囲の景色が完全に木々で閉ざされた。
そして、地面はそこそこ険しい上り坂へと変わる。
どうやら、山を登っているようだ。
ここまで来ると、道なんてあってないようなもの。
人の姿も全く見えなくなった。
これは、非常に高難度の尾行ミッションだ。
シアノを見失わないように距離を調整しつつ、シアノが物音を立てたタイミングで自分も大きく移動する。
極限まで息を殺し、ありとあらゆるものに注意を向ける。
ある意味、人生で一番緊張している時間だったかもしれない。
山の奥深くへと分け入ること、しばらく。
シアノは山の中腹辺りで、上に登るルートから、斜面に沿って横に移動するようなルートに進行方向を変えた。
それからほどなくして、山の中にぽっかりと開けた平地に出る。
まだシアノに見つかりたくはないので、木々の隙間からシアノの行き先を窺う。
暗くて分かりにくいが、この先に洞窟があるようだ。
シアノは、迷いなく洞窟の中へと入っていく。
その姿が完全に闇に溶けたところで、キリハも森を抜けて洞窟に飛び込んだ。
そこからは月明かりすらも失うことになったので、微かな足音を頼りに進む。
「ただいま、父さん。」
ふと聞こえてきたのは、かなり久しぶりに聞くシアノの声。
それから十数秒くらい経って、前方の曲がり角の奥で仄かな明かりが灯る。
(こんな場所に、お父さんが…?)
脳裏によぎるのは違和感。
確かにこんな山奥の洞窟で暮らしていれば、都会とは無縁の生活になるだろう。
だが、何が理由でこんな場所を住処としたのか。
ここまで来たのだ。
得られる情報は全て得てからじゃないと帰れない。
キリハは唾を飲み込み、岩肌に手を添えて、ゆっくりと曲がり角の向こうを覗き込む。
「―――うそ……」
それ以上、言える言葉がなかった。
柔らかい明かりに照らされ、幸せそうに笑うシアノ。
そんなシアノに身をすり寄せているのは―――大きくて真っ黒なドラゴンだった。
病院を出た時には空にあった太陽は、とっくのとうに沈んだ。
街をどんどん通り抜けた結果、人はまばらに。
歩く道も綺麗に舗装されていた道路から、砂利道へと変わっている。
しかし、シアノは歩みを止める素振りも見せず、街灯が少ない小路を、さらに闇の方へと進んでいく。
(どこまで行くの…?)
ここに至るまで、どのくらい歩いたのか分からない。
自分ですら足が痛くなってきたというのに、シアノの歩調はしっかりしたものだった。
ものすごい体力と脚力だ。
普段からこの距離を行き来していたんだとしたら、あのすばしっこさにも納得がいく。
「………」
シアノの後を追いながら、キリハはふとポケットに手を入れる。
電源を切ったせいで、一切鳴らない携帯電話。
正確な時間は分からないが、日が沈んでからかなり経つ。
きっと今頃、皆が心配しているだろう。
(みんな、ごめん。でも、今は―――……)
心の中だけで宮殿の人々に謝り、キリハはまた前を向いた。
さらに時間をかけて道を歩くと、周囲の景色が完全に木々で閉ざされた。
そして、地面はそこそこ険しい上り坂へと変わる。
どうやら、山を登っているようだ。
ここまで来ると、道なんてあってないようなもの。
人の姿も全く見えなくなった。
これは、非常に高難度の尾行ミッションだ。
シアノを見失わないように距離を調整しつつ、シアノが物音を立てたタイミングで自分も大きく移動する。
極限まで息を殺し、ありとあらゆるものに注意を向ける。
ある意味、人生で一番緊張している時間だったかもしれない。
山の奥深くへと分け入ること、しばらく。
シアノは山の中腹辺りで、上に登るルートから、斜面に沿って横に移動するようなルートに進行方向を変えた。
それからほどなくして、山の中にぽっかりと開けた平地に出る。
まだシアノに見つかりたくはないので、木々の隙間からシアノの行き先を窺う。
暗くて分かりにくいが、この先に洞窟があるようだ。
シアノは、迷いなく洞窟の中へと入っていく。
その姿が完全に闇に溶けたところで、キリハも森を抜けて洞窟に飛び込んだ。
そこからは月明かりすらも失うことになったので、微かな足音を頼りに進む。
「ただいま、父さん。」
ふと聞こえてきたのは、かなり久しぶりに聞くシアノの声。
それから十数秒くらい経って、前方の曲がり角の奥で仄かな明かりが灯る。
(こんな場所に、お父さんが…?)
脳裏によぎるのは違和感。
確かにこんな山奥の洞窟で暮らしていれば、都会とは無縁の生活になるだろう。
だが、何が理由でこんな場所を住処としたのか。
ここまで来たのだ。
得られる情報は全て得てからじゃないと帰れない。
キリハは唾を飲み込み、岩肌に手を添えて、ゆっくりと曲がり角の向こうを覗き込む。
「―――うそ……」
それ以上、言える言葉がなかった。
柔らかい明かりに照らされ、幸せそうに笑うシアノ。
そんなシアノに身をすり寄せているのは―――大きくて真っ黒なドラゴンだった。
0
あなたにおすすめの小説
雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~
朽縄咲良
ファンタジー
――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」
魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。
残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。
だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。
――そして、二十分後。
不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。
シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。
「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」
『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!
哀れな魔王の、明日はどっちだ……?
(表紙イラストは、ペケさんから戴きました)
*小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する
鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。
突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。
しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。
魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。
英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる