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第1章 絡む策略
自分と彼の共通点
しおりを挟む「あいつを…?」
ルカの口から飛び出した名前に、レクトが最初に抱いたのは疑問。
「あいつはオレとキリハ以外で、フールがユアンだと知っている唯一の人物。ユアンが持つカードの中でも、一番の知恵どころと言ってもいい人物だ。お前も、あいつのことはかなり危険視しているんじゃないのか?」
「確かにそうだが……」
ここで虚勢を張っても意味はないので、レクトは素直にルカの指摘を認める。
現在は、ドラゴン殲滅部隊の参謀代表を務めるジョー・レイン。
その前身は、国防軍参謀局第一部隊の筆頭に躍り出るほどの実力者。
敵対する組織に渡りつつも、裏では国防軍とのパスを繋ぎ続け、それ以外にも膨大なネットワークを持ち、それを思いのままに操っている彼。
あのユアンですらも譲歩させて取り込んだジョーの存在は、確かに厄介極まりない。
そんな存在を消してくれると言うならば、こちらとしては大歓迎だが……
「あいつを潰すのは現実的に可能か? 知将には、知将たる所以がある。あいつが簡単に潰されるような甘い人間ではないことくらい、私も知っているぞ。」
気になるのはそこだ。
彼は、触れてはならないパンドラの箱に近い。
これまで多くの手駒を使って彼という人間を見つめてきた結果、自分は彼については黙殺が最適解だと判断した。
彼はやられたらやり返す主義ではあるが、下手にちょっかいを出さない限りはその牙を剥かない。
それ故に、本格的に動き出すための仕込みは、彼がルルアに出向いたことでこの国から消えた時に済ませたのだ。
「ああ、言い方を間違えたな。」
レクトの懸念を聞き、ルカはわざとらしく手を叩いた。
「正確には潰すんじゃなくて、こっち側に引き込むんだよ。」
「引き込む、だと…?」
それこそ可能なのか。
やはり、懐疑的なレクトだったが……
「ん? もしかして、気付いてないのか?」
ルカは少し意外そうだ。
そして彼は、なんでもないことのようにこう告げる。
「あいつ―――オレと同じで、人間が大っ嫌いだぜ?」
それは、レクトにとって完全に想定外の事実だった。
「何…?」
ルカの断言を聞いたレクトの雰囲気が、明らかに変わる。
その反応を眺めるルカは、ターゲットにした彼を思い浮かべて瞳を伏せた。
そう。
以前ジョーに〝自分と同じ目〟と言ったのは、こういう意味だったのだ。
「何がそこまであいつを歪めたのかは知らんが、少なくともあいつが、ほとんどの人間を嫌っているのは確実だ。もしかしたらオレよりもひどくて……人間を恨んですらいるかもしれねぇな。それほどに、あいつの目の奥にある感情は真っ黒だ。」
「うむ……ユアンと手を組んでいるあたり、そうは見えないが……」
自分の見当が外れたことが、いまひとつ納得できないのだろう。
興味を引かれつつも同意はしないレクトに、ルカは独自の視点から見える事実を語る。
「それは単純に、ユアンの手のひらで踊らされるのが気に食わなかっただけだろう。あいつとしては、ユアンが取引を受け入れなければ、ユアンを叩き潰してもよかったはずだぜ。」
「何故そこまで言い切れる。」
「同族には、なんとなく分かるもんがあるんだよ。」
そんなことを呟いたルカは、記憶を手繰る。
違和感を持つきっかけは、なんだっただろう。
彼がやたらと自分に好意的な目を向けてくると、そう気付いてからだろうか。
その目を向けてくるのが今なら、別に気にも留めなかった。
だが、彼が自分に好意的だったのは、自分が宮殿に来た当初―――自分がキリハを認めて変わり始める前からだったのだ。
むしろ自分が周囲への敵意を緩めてからは、少しつまらなそうにしている気がする。
その理由がどこにあるのかを考えた時、真っ先に浮かんだのが……彼が、自分と同じく周りを嫌っている可能性だった。
そんな違和感と推測からジョーを注意深く見るようになって、さらに気付く。
絡んできた敵を蹴散らしてやったと、ディアラントと一緒になって笑う時―――ジョーの笑顔の質が、ディアラントとは全然違うことに。
ディアラントのような、馬鹿正直な明るい笑みじゃない。
それと真逆の、深い闇と愉悦をたたえた恐ろしい笑みだった。
しかし、そう見えたのは自分だけなのだろう。
物事の本質を見抜くのが得意なキリハでさえ、ジョーが腹に抱えている闇に気付いていない。
普段の彼は、それほどまでに精巧な仮面を被っている。
その事実がまた、彼が自分と同じ部類の人間であることを証明しているように思えた。
ルカは肩をすくめる。
「まあ、そういうこった。すぐにとはいかねぇけど、上手く交渉すれば、あいつは嬉々としてこっち側につく。情報という情報を網羅して、裏を掌握しているジョーカーだ。いい感じに、人間を引っ掻き回してくれるはずだぜ? そうなりゃもう、こっちのもんだな。《焔乱舞》と知将を失った人間側に、勝ち目なんかねぇよ。」
「………」
レクトは深く思案。
その末に―――
「分かった。お前の案に、少し期待をしてみよう。そのためにもまずは、お前自身の覚悟を問わせてもらおうか。」
レクトがルカに突きつけた、その覚悟とは―――
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