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第2章 崩壊までのカウントダウン
計画を壊した人
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ハッとして顔を上げる。
パソコンの画面に映るのは、声と同じく自信に満ちた笑顔だった。
「ノア……様……」
「ふふ。一度は死にかけたと聞いたが、案外元気そうだな。キリハだけではなく、ターニャまで泣かせるとは……罪作りな分、しぶとくなくては困るぞ?」
呻くジョーに、ノアはからかうようにそう告げる。
それに不愉快そうに顔をしかめたジョーは、すぐに表情を引き締めて溜め息をついた。
「冗談はよしてください。私一人が死んだところで、悲しむ価値もないでしょうに。」
「ほう? かれこれもう、一年以上の付き合いがあるのだ。私が事実無根の嘘をつかないことくらい、お前はよく知っていると思うが?」
そう言われて、とっさに返せる言葉をなくす。
ざっと記憶を遡った結果、彼女の言葉が否定しようもない事実だったからだ。
「ターニャがな、お前とキリハを無理に引き剥がしたことを思い悩んでいたよ。そうまでしないといけない仲とは……お前、どれだけキリハに入れ込んでいるのだ?」
「………っ」
このくそ大統領が。
カチンときながらも、ジョーはなんとか表情を無で徹底する。
「それこそ冗談。ターニャ様たちが大袈裟に捉えているだけですよ。私は、そんな人間じゃありません。」
「まあ、ジョー・レインはそうなのであろうな。だが私は今、アルシード・レインにそう訊ねているのだが?」
「―――っ!!」
その言葉が脳内に響いた瞬間、心に入っていた大きな亀裂が、さらに広がったような気がした。
「認めたっていいではないか。きっかけはなんであれ、五年以上も守ってきた子なのだ。面識はなくとも、情は湧くものだろう。さらに言えば……天真爛漫に笑って、無自覚で才能を輝かせてしまうキリハが、幼い頃の自分と重なってしまったのではないか?」
「なっ…!?」
「そりゃあ、守りたくもなるだろうさ。かつての自分のように、大好きな道とそれを支える天の才を、理不尽に潰されてほしくないものなぁ。」
「いい加減にしてください!!」
気付けば、ガラにもなく怒鳴ってしまっていた。
「たかだか一年そこらの付き合いで……全てを知ったような口を利かないでいただけます? 僕は……僕は、そんなんじゃ…っ」
違う。
そんなんじゃない。
ノアの言葉を、必死に否定する。
「……では、どうしてキリハの前で、アルシードとしての自分を見せてしまったのだ?」
しばしの沈黙の後、彼女は静かにそう訊ねてきた。
「この十五年、相棒であるターニャやディアラントにも、親友であるミゲルにも、兄の仮面の下にいる自分を見せてこなかっただろう? タイミングが悪かったのだと言い訳をして、自分の心を否定するのは勝手だが……キリハに自ら秘密を明かした時点で、〝ジョー・レイン〟の定義は壊れてしまったぞ?」
「―――っ!?」
その指摘がもたらした衝撃は、まさに壊滅的。
最後の意地も、木っ端微塵に砕かれてしまう。
「………誰の、せいだと思って…っ」
とてつもない不快感と怒り。
それが、全身を震わせる。
「よくもまあ、他人事のように上から目線で言えたもんだな!?」
彼女が目上の人間だという建前も吹き飛んで、怒りが赴くままに言葉を投げつける。
それだけでは足りず、ついテーブルを殴ってしまった。
「そこまで言うなら認めてやるよ! 確かに僕は、キリハ君を守ってあげたくて仕方なかったさ!! だけどそれだけなら、この計画は崩れなかった! その隙につけ込んで僕を揺さぶった挙げ句、計画を真正面からぶち壊したのはあんただろうが!!」
今でも、あの日の出来事を昨日のことのように思い出せる。
『あとはこれだ。―――――アルシード。』
その言葉と共に突きつけられた、幼い頃の兄と自分が写った写真。
〈お前は、ジョー・レインではないな?〉
写真とセットになっていたメモに記された、自分の秘密を暴くメッセージ。
アルシードの情報を消しに消した今、なんのヒントもなしに真実へ辿り着かれるとは想像もしていなかった。
あの写真とメッセージを見せられた自分が、どれだけ動揺したと思っているのだ。
だから、彼女から持ちかけられた取引に乗らざるを得なかった。
どうにかして仕返しをしたかったのもあるが、秘密を知ってしまった彼女を、何がなんでも自分の監視下に置かなければいけなかったから。
だが……今思えば、あれが最大の悪手だったのだろう。
彼女と出会い、裏で繋がり続けてきて一年以上。
彼女は一度も、自分を〝ジョー〟とは呼ばなかった。
殺した亡霊を思い出せ。
そう言わんばかりに、彼女は自分を〝アルシード〟と呼び続けた。
そう呼ばれた時には意地でも返事をしてやらなかったが、洗脳か催眠術のように繰り返されるその名前は、確実に自分の中に亀裂を広げていった。
そしてふいに、気付いてしまった。
キリハを宮殿という闇から遠ざけて、早くレイミヤに帰してしまいたいというこの衝動が―――ジョーとしてではなく、アルシードとしての心から湧き上がってくるものであると。
あの瞬間、忘れていたはずの亡霊が息を吹き返してしまった。
それはこの復讐計画を完遂するにあたって、まさに致命的だったのだ。
「―――悪いか?」
激しい怨嗟を込めて睨んでくるジョーに、ノアはそう告げるだけ。
「私は、魔性の改革王だ。腐敗したルルアを変えたように、憐れなお前を変えたかったのだよ。兄への復讐だと、さも自分のために生きているようで……兄の亡霊に飲み込まれて、兄のために生きているお前をな。」
先ほどまでとは打って変わって、真摯になった彼女の言葉。
それは、今までの自分には微塵もなかった認識だった。
パソコンの画面に映るのは、声と同じく自信に満ちた笑顔だった。
「ノア……様……」
「ふふ。一度は死にかけたと聞いたが、案外元気そうだな。キリハだけではなく、ターニャまで泣かせるとは……罪作りな分、しぶとくなくては困るぞ?」
呻くジョーに、ノアはからかうようにそう告げる。
それに不愉快そうに顔をしかめたジョーは、すぐに表情を引き締めて溜め息をついた。
「冗談はよしてください。私一人が死んだところで、悲しむ価値もないでしょうに。」
「ほう? かれこれもう、一年以上の付き合いがあるのだ。私が事実無根の嘘をつかないことくらい、お前はよく知っていると思うが?」
そう言われて、とっさに返せる言葉をなくす。
ざっと記憶を遡った結果、彼女の言葉が否定しようもない事実だったからだ。
「ターニャがな、お前とキリハを無理に引き剥がしたことを思い悩んでいたよ。そうまでしないといけない仲とは……お前、どれだけキリハに入れ込んでいるのだ?」
「………っ」
このくそ大統領が。
カチンときながらも、ジョーはなんとか表情を無で徹底する。
「それこそ冗談。ターニャ様たちが大袈裟に捉えているだけですよ。私は、そんな人間じゃありません。」
「まあ、ジョー・レインはそうなのであろうな。だが私は今、アルシード・レインにそう訊ねているのだが?」
「―――っ!!」
その言葉が脳内に響いた瞬間、心に入っていた大きな亀裂が、さらに広がったような気がした。
「認めたっていいではないか。きっかけはなんであれ、五年以上も守ってきた子なのだ。面識はなくとも、情は湧くものだろう。さらに言えば……天真爛漫に笑って、無自覚で才能を輝かせてしまうキリハが、幼い頃の自分と重なってしまったのではないか?」
「なっ…!?」
「そりゃあ、守りたくもなるだろうさ。かつての自分のように、大好きな道とそれを支える天の才を、理不尽に潰されてほしくないものなぁ。」
「いい加減にしてください!!」
気付けば、ガラにもなく怒鳴ってしまっていた。
「たかだか一年そこらの付き合いで……全てを知ったような口を利かないでいただけます? 僕は……僕は、そんなんじゃ…っ」
違う。
そんなんじゃない。
ノアの言葉を、必死に否定する。
「……では、どうしてキリハの前で、アルシードとしての自分を見せてしまったのだ?」
しばしの沈黙の後、彼女は静かにそう訊ねてきた。
「この十五年、相棒であるターニャやディアラントにも、親友であるミゲルにも、兄の仮面の下にいる自分を見せてこなかっただろう? タイミングが悪かったのだと言い訳をして、自分の心を否定するのは勝手だが……キリハに自ら秘密を明かした時点で、〝ジョー・レイン〟の定義は壊れてしまったぞ?」
「―――っ!?」
その指摘がもたらした衝撃は、まさに壊滅的。
最後の意地も、木っ端微塵に砕かれてしまう。
「………誰の、せいだと思って…っ」
とてつもない不快感と怒り。
それが、全身を震わせる。
「よくもまあ、他人事のように上から目線で言えたもんだな!?」
彼女が目上の人間だという建前も吹き飛んで、怒りが赴くままに言葉を投げつける。
それだけでは足りず、ついテーブルを殴ってしまった。
「そこまで言うなら認めてやるよ! 確かに僕は、キリハ君を守ってあげたくて仕方なかったさ!! だけどそれだけなら、この計画は崩れなかった! その隙につけ込んで僕を揺さぶった挙げ句、計画を真正面からぶち壊したのはあんただろうが!!」
今でも、あの日の出来事を昨日のことのように思い出せる。
『あとはこれだ。―――――アルシード。』
その言葉と共に突きつけられた、幼い頃の兄と自分が写った写真。
〈お前は、ジョー・レインではないな?〉
写真とセットになっていたメモに記された、自分の秘密を暴くメッセージ。
アルシードの情報を消しに消した今、なんのヒントもなしに真実へ辿り着かれるとは想像もしていなかった。
あの写真とメッセージを見せられた自分が、どれだけ動揺したと思っているのだ。
だから、彼女から持ちかけられた取引に乗らざるを得なかった。
どうにかして仕返しをしたかったのもあるが、秘密を知ってしまった彼女を、何がなんでも自分の監視下に置かなければいけなかったから。
だが……今思えば、あれが最大の悪手だったのだろう。
彼女と出会い、裏で繋がり続けてきて一年以上。
彼女は一度も、自分を〝ジョー〟とは呼ばなかった。
殺した亡霊を思い出せ。
そう言わんばかりに、彼女は自分を〝アルシード〟と呼び続けた。
そう呼ばれた時には意地でも返事をしてやらなかったが、洗脳か催眠術のように繰り返されるその名前は、確実に自分の中に亀裂を広げていった。
そしてふいに、気付いてしまった。
キリハを宮殿という闇から遠ざけて、早くレイミヤに帰してしまいたいというこの衝動が―――ジョーとしてではなく、アルシードとしての心から湧き上がってくるものであると。
あの瞬間、忘れていたはずの亡霊が息を吹き返してしまった。
それはこの復讐計画を完遂するにあたって、まさに致命的だったのだ。
「―――悪いか?」
激しい怨嗟を込めて睨んでくるジョーに、ノアはそう告げるだけ。
「私は、魔性の改革王だ。腐敗したルルアを変えたように、憐れなお前を変えたかったのだよ。兄への復讐だと、さも自分のために生きているようで……兄の亡霊に飲み込まれて、兄のために生きているお前をな。」
先ほどまでとは打って変わって、真摯になった彼女の言葉。
それは、今までの自分には微塵もなかった認識だった。
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