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第3章 変化がもたらすもの
恨みだって、あなたと共に。
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その日、一部の例外を除いたドラゴン殲滅部隊の全員に、緊急招集がかけられた。
皆が緊張の面持ちで座する会議室。
そこに足を踏み入れたターニャとディアラントは、それぞれやるせない表情で唇を噛む。
「……もう、悪足掻きをする時間はないようです。」
沈黙の重苦しさに拍車をかけるように、ターニャが告げる。
「とある筋から、情報が流れてきました。総督部が、ロイリアの容態についての詳細な情報開示を求める手続きに着手したと。」
それを聞いた皆がざわめく。
ターニャは努めて冷静な口調で、淡々と続けた。
「私の協力者がなんとか時間を稼いでくれていますが、審問会の申請が受理されれば……包み隠さずに、何もかもをお話しするしかありません。当然、ロイリアの殺処分を求められるでしょう。」
その結末は、この場にいる誰もが望まないもの。
しかし、現実はそれ以上に厳しい。
「それだけなら、まだいいです。」
次は、ディアラントが口を開く。
「オレが総督部と仲が悪いのは、皆さんもご存知のとおりです。ロイリアの処分なんて、ただのきっかけです。あいつらはそれを足がかりに、ドラゴン部隊の監督責任を問うでしょう。前回のドラゴン討伐が実質的に最後だという情報が漏れているのであれば、それこそ躊躇う理由はありませんから。」
ディアラントの双眸に、深刻な色が滲む。
「あいつらが最終的に求めるのは、オレの解任およびドラゴン部隊の解散です。オレは確実に宮殿から追放されるでしょうし……その影響が、皆さんにも及ぶ可能性が高いと言えます。」
自分たちは、ロイリアの対処で間違ったことはしていない。
安全に最大限の配慮をした上で、もちろん殺処分も視野に入れながら、彼を救う手立てを探していただけだ。
しかしそんな情など、総督部には関係ない。
彼らは、自分との五年の勝負に負けた。
その雪辱を晴らすためなら、なんだってやるはずだ。
自分が追放されるだけならまだマシ。
だが陰湿な彼らは、確実に五年の勝負にくっついていた隊員への連帯責任を持ち出してくる。
そうなれば、自分の巻き添えで皆も宮殿を追い出されることになる。
彼らが手を回してしまえば、次の就職先もあるかどうか。
顔を青くして、言葉を失う一同。
皆の視線を痛いほどに浴びながら、ディアラントは一度瞑目して腹をくくる。
「皆さん、出動の準備を。総督部が申請を通してしまう前に―――ロイリアを、楽にしてあげましょう。」
隊長からの出動要請。
しかし、それですぐに動き出す者はいない。
「皆さんのお気持ちは分かります。オレを責めてもらって構いません。ですがオレは、まだここを離れるわけにはいかない。皆さんにも、これ以上の苦痛を味わってほしくないんです。」
ロイリアだって、ドラゴン殲滅部隊の皆だって。
自分にとってはかけがえのない仲間。
だが、どうしてもどちらかを切り捨てなければならないのなら、自分は迷いなく多くを救える道を選ぶ。
その決断がたくさんの心を傷つけたとしても、なし崩し的に全員の人生が潰されるくらいなら、自分が恨まれた方がいい。
「ディア……」
毅然としたディアラントの姿に、誰もが目を奪われる。
「―――分かった。」
最初に頷いたのはミゲルだった。
彼が立ち上がって腰の剣を整えると、それに触発されて一人、また一人と、席を立って姿勢を正す。
「ターニャ様。これでいいですね?」
隊員の動きを横目に、ディアラントは最終確認でターニャへ問いかける。
すると。
「……………嫌です。」
まさかの事態で、ターニャが首を横に振った。
「え…?」
「嫌です……嫌なんです……」
戸惑うディアラントとミゲルたち。
彼らの視線の先で何度も首を振っていたターニャは、こらえきれない様子でディアラントにすがりついた。
「私には……私にはできません! これが正しい判断なのだとしても……キリハに、ロイリアを殺したなんて言いたくないんです!!」
その頬を、いくつもの涙が伝う。
眉を下げて訴える彼女は不動の神官ではなく、ただのか弱い女性だった。
「ターニャ様……」
彼女が何を思っているかは、言うまでもなく明らか。
それ故に、ディアラントは深い憐憫をたたえてターニャを見つめる。
「だって……だって……キリハはあなたの―――」
「ターニャ。」
いやいやと頭を振るターニャを止めるように、ディアラントがその頬に手を添える。
涙で潤んだ碧と赤のオッドアイを見つめた彼は、優しく彼女に微笑みかけた。
そして―――慈しむように丁寧な仕草で、彼女の唇に口づけを落とす。
「なああぁぁーっ!?」
「ついにやっちゃったあぁぁーっ!!」
仰天するミゲルと、さっと青ざめるアイロス。
他の皆も、完全に思考停止状態だった。
そんな外野はそっちのけで、唇を離したディアラントはターニャだけを見つめている。
「オレはあなたに誓っただろ? 自分のためでもなく、国のためでもなく、ただあなたのために剣を抜くって。」
「ディア……」
「たとえ天秤に乗るのがキリハだろうと、オレは迷わずにあなたを選ぶ。もし、このことでキリハがあなたを恨むというなら、オレも一緒にその恨みを背負うよ。何があっても、オレはあなたの傍を離れない。」
皆にはずっと秘めていた、五年前の誓い。
長い月日が流れても変わらない想いを込めて、愛する人に改めてそれを伝える。
「―――っ」
大きく顔を歪めたターニャが、弾かれたようにディアラントの胸に飛び込む。
華奢な体をしっかりと抱き留めて、ディアラントはその耳元に口を寄せた。
「大丈夫だ。オレを信じろ。」
五年を共に歩んできた恋人からの力強い言葉に、ターニャは何度も頷く。
それでも止まらない嗚咽と、そこにこもった悲痛な叫びを、ディアラントはただ受け止め続けていた。
(どうしよう…っ)
そんな二人を見つめて、竜騎士隊から唯一会議に出席していたサーシャは、大きく動揺していた。
ターニャが嫌だと言ったから、このままロイリアの処分がなかったことになると思ったのに。
おそらく、恋人の支えを借りて立ち直った彼女は、いつものように冷静な判断を下してロイリアの処分を敢行するだろう。
もう、一刻の猶予もない。
(お願い……お願い。どうか間に合って…。もう少しだから!!)
震える両手で携帯電話を握り締め、サーシャは切に祈った。
皆が緊張の面持ちで座する会議室。
そこに足を踏み入れたターニャとディアラントは、それぞれやるせない表情で唇を噛む。
「……もう、悪足掻きをする時間はないようです。」
沈黙の重苦しさに拍車をかけるように、ターニャが告げる。
「とある筋から、情報が流れてきました。総督部が、ロイリアの容態についての詳細な情報開示を求める手続きに着手したと。」
それを聞いた皆がざわめく。
ターニャは努めて冷静な口調で、淡々と続けた。
「私の協力者がなんとか時間を稼いでくれていますが、審問会の申請が受理されれば……包み隠さずに、何もかもをお話しするしかありません。当然、ロイリアの殺処分を求められるでしょう。」
その結末は、この場にいる誰もが望まないもの。
しかし、現実はそれ以上に厳しい。
「それだけなら、まだいいです。」
次は、ディアラントが口を開く。
「オレが総督部と仲が悪いのは、皆さんもご存知のとおりです。ロイリアの処分なんて、ただのきっかけです。あいつらはそれを足がかりに、ドラゴン部隊の監督責任を問うでしょう。前回のドラゴン討伐が実質的に最後だという情報が漏れているのであれば、それこそ躊躇う理由はありませんから。」
ディアラントの双眸に、深刻な色が滲む。
「あいつらが最終的に求めるのは、オレの解任およびドラゴン部隊の解散です。オレは確実に宮殿から追放されるでしょうし……その影響が、皆さんにも及ぶ可能性が高いと言えます。」
自分たちは、ロイリアの対処で間違ったことはしていない。
安全に最大限の配慮をした上で、もちろん殺処分も視野に入れながら、彼を救う手立てを探していただけだ。
しかしそんな情など、総督部には関係ない。
彼らは、自分との五年の勝負に負けた。
その雪辱を晴らすためなら、なんだってやるはずだ。
自分が追放されるだけならまだマシ。
だが陰湿な彼らは、確実に五年の勝負にくっついていた隊員への連帯責任を持ち出してくる。
そうなれば、自分の巻き添えで皆も宮殿を追い出されることになる。
彼らが手を回してしまえば、次の就職先もあるかどうか。
顔を青くして、言葉を失う一同。
皆の視線を痛いほどに浴びながら、ディアラントは一度瞑目して腹をくくる。
「皆さん、出動の準備を。総督部が申請を通してしまう前に―――ロイリアを、楽にしてあげましょう。」
隊長からの出動要請。
しかし、それですぐに動き出す者はいない。
「皆さんのお気持ちは分かります。オレを責めてもらって構いません。ですがオレは、まだここを離れるわけにはいかない。皆さんにも、これ以上の苦痛を味わってほしくないんです。」
ロイリアだって、ドラゴン殲滅部隊の皆だって。
自分にとってはかけがえのない仲間。
だが、どうしてもどちらかを切り捨てなければならないのなら、自分は迷いなく多くを救える道を選ぶ。
その決断がたくさんの心を傷つけたとしても、なし崩し的に全員の人生が潰されるくらいなら、自分が恨まれた方がいい。
「ディア……」
毅然としたディアラントの姿に、誰もが目を奪われる。
「―――分かった。」
最初に頷いたのはミゲルだった。
彼が立ち上がって腰の剣を整えると、それに触発されて一人、また一人と、席を立って姿勢を正す。
「ターニャ様。これでいいですね?」
隊員の動きを横目に、ディアラントは最終確認でターニャへ問いかける。
すると。
「……………嫌です。」
まさかの事態で、ターニャが首を横に振った。
「え…?」
「嫌です……嫌なんです……」
戸惑うディアラントとミゲルたち。
彼らの視線の先で何度も首を振っていたターニャは、こらえきれない様子でディアラントにすがりついた。
「私には……私にはできません! これが正しい判断なのだとしても……キリハに、ロイリアを殺したなんて言いたくないんです!!」
その頬を、いくつもの涙が伝う。
眉を下げて訴える彼女は不動の神官ではなく、ただのか弱い女性だった。
「ターニャ様……」
彼女が何を思っているかは、言うまでもなく明らか。
それ故に、ディアラントは深い憐憫をたたえてターニャを見つめる。
「だって……だって……キリハはあなたの―――」
「ターニャ。」
いやいやと頭を振るターニャを止めるように、ディアラントがその頬に手を添える。
涙で潤んだ碧と赤のオッドアイを見つめた彼は、優しく彼女に微笑みかけた。
そして―――慈しむように丁寧な仕草で、彼女の唇に口づけを落とす。
「なああぁぁーっ!?」
「ついにやっちゃったあぁぁーっ!!」
仰天するミゲルと、さっと青ざめるアイロス。
他の皆も、完全に思考停止状態だった。
そんな外野はそっちのけで、唇を離したディアラントはターニャだけを見つめている。
「オレはあなたに誓っただろ? 自分のためでもなく、国のためでもなく、ただあなたのために剣を抜くって。」
「ディア……」
「たとえ天秤に乗るのがキリハだろうと、オレは迷わずにあなたを選ぶ。もし、このことでキリハがあなたを恨むというなら、オレも一緒にその恨みを背負うよ。何があっても、オレはあなたの傍を離れない。」
皆にはずっと秘めていた、五年前の誓い。
長い月日が流れても変わらない想いを込めて、愛する人に改めてそれを伝える。
「―――っ」
大きく顔を歪めたターニャが、弾かれたようにディアラントの胸に飛び込む。
華奢な体をしっかりと抱き留めて、ディアラントはその耳元に口を寄せた。
「大丈夫だ。オレを信じろ。」
五年を共に歩んできた恋人からの力強い言葉に、ターニャは何度も頷く。
それでも止まらない嗚咽と、そこにこもった悲痛な叫びを、ディアラントはただ受け止め続けていた。
(どうしよう…っ)
そんな二人を見つめて、竜騎士隊から唯一会議に出席していたサーシャは、大きく動揺していた。
ターニャが嫌だと言ったから、このままロイリアの処分がなかったことになると思ったのに。
おそらく、恋人の支えを借りて立ち直った彼女は、いつものように冷静な判断を下してロイリアの処分を敢行するだろう。
もう、一刻の猶予もない。
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