488 / 598
第5章 想いと想いの激突
止めたいなら―――
しおりを挟む「なあ……オレも最初に言ったよな? お前は甘すぎるって。」
そう言い放ったルカが、眉をきつく寄せる。
「人間にはな、誰にでも限度ってものがあるんだよ。」
その眦に浮かぶものが、上から差し込む光をきらりと反射した。
「お前の心の広さには感服するよ。オレには無理だ。兄さんを殺されかけた時点でもう……オレは、限界を越えちまったんだよ。」
「ルカ……」
「一体、いつまで耐えればいい? 何をどれだけ見逃してやればいい? オレにはお前ほどの特別な力も、人を簡単に変えられるだけの影響力もないんだ…っ」
「………」
ルカの心の内を聞くキリハは、悲しげに眉を下げるしかなかった。
ルカだって、これまでの二年で自分を大きく変えてくれた。
知恵を絞ることが得意ではない自分に代わって、様々な角度から物事を見て、向こう見ずな自分の行動を正当化してくれた。
お前はお前らしく進め、と。
いつだって彼は、不器用な優しさを通してそう言ってくれていた。
これは、ルカじゃないとできなかったこと。
今回の事件だって、ルカが先を見越して行動を起こしてくれていなかったら、今頃どんな結末を迎えていたことか。
ルカはルカのやり方で、大きな功績を残している。
しかしそれを伝えるには、彼を覆う闇が分厚すぎる。
今自分がそれを伝えたとしても、ルカには皮肉を言われたようにしか思えないだろう。
菫色と赤色の双眸に宿る、こちらへの強い劣等感。
出会った当初を彷彿とさせるそれが、自分にそう示しているように思えた。
ならば、ここで自分が取るべき態度は……
「だから……レクトと一緒に、人間を潰すの?」
ルカのことを否定せずに、ただ彼の感情に寄り添うことだけだ。
真っ黒な自分の気持ちをそのまま聞いてくれた、アルシードのように……
「ああ、そうだよ! それのどこが悪い!?」
感情を爆発させたルカが、渾身の力で叫んだ。
「これが、オレにとって最初で最後のチャンスかもしれねぇんだぞ!? ここであのくそ野郎を見逃して、また蔑まれる毎日に戻るくらいなら……もう一度ドラゴン大戦を起こしてでも、オレの怒りをあいつらにぶつけて、これまでの行いを後悔させてやりたいんだよ!!」
切羽詰まったルカの声。
自分には、もう後がないんだ。
そんな思いが、ひしひしと伝わってくるようだった。
「そっか……そうだよね。それも、一つの選択だね。俺だって、一度はその選択をしかけたんだもん。気持ちは分かるよ。」
ルカが抱いている怒りも、それをぶつけたくなる衝動も、痛いほどに分かる。
今だって、その気持ちが完全に消えたわけじゃない。
一度目を閉じて、じっくりとルカの気持ちを感じ取る。
その上で、ルカとまっすぐ向き合った。
「だけどね、やっぱり俺は、ルカにそんなことをさせたくない。俺だけじゃなくて……カレンやエリクさんも、そう願ってる。」
「―――っ!!」
ルカが誰よりも大切に思っている二人の名前。
それを聞いたルカが、大きく目を見開いて硬直した。
動揺から生まれたその隙を逃さないように、キリハは続けた。
「嘘じゃないよ。俺は、ここに来られなかった二人の想いも背負って、ここに立ってるんだから。」
「………」
再び黙り込んだルカ。
彼は今、何を思っているだろうか。
もしでたらめだと言われたとしても、自分には根気強く語るしかない。
「………そうか。」
長い沈黙。
それを経て、ルカは小さく笑った。
「いかにも、くそ善人の二人が言いそうなことだな。だけど……オレはもう、この気持ちを止められない。」
彼の瞳の奥に渦巻く、どす黒い闇。
予想はしていたが、それはちょっとやそっとじゃ彼を離してくれないようだ。
これは、この後どう説得したものか。
そう悩んでいると、ふいにルカの手が動きを見せた。
「お前、さっき言ったよな? ロイリアに人を傷つけさせるくらいなら、ロイリアを殺してでもロイリアの心を守るって。」
「………っ!!」
そう言われたキリハは、怯えた表情で一歩退く。
一瞬で分かってしまった。
ルカの言動の意味が。
それを肯定するかのように、ルカが腰に下がる剣を抜き払う。
「本気でオレを止めたいと……カレンや兄さんの願いを叶えたいと思うなら―――オレを殺してでも止めてみろ。」
影を帯びた笑みを浮かべるルカ。
まっすぐに突きつけられた冷たい刃に、躊躇いは一切なかった。
0
あなたにおすすめの小説
雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~
朽縄咲良
ファンタジー
――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」
魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。
残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。
だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。
――そして、二十分後。
不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。
シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。
「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」
『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!
哀れな魔王の、明日はどっちだ……?
(表紙イラストは、ペケさんから戴きました)
*小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~
蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。
情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。
アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。
物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。
それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。
その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。
そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。
それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。
これが、悪役転生ってことか。
特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。
あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。
これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは?
そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。
偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。
一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。
そう思っていたんだけど、俺、弱くない?
希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。
剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。
おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!?
俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。
※カクヨム、なろうでも掲載しています。
【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。
大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。
そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。
しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。
戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。
「面白いじゃん?」
アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる