竜焔の騎士

時雨青葉

文字の大きさ
510 / 598
第7章 戦いの終わり

人間とドラゴンの今後

しおりを挟む
 その日は、朝から国中が騒然としていた。
 誰もが時計を気にして、どこのテレビもラジオも定刻が来るのを待ちわびる。




 ―――そして正午きっかり、全てのチャンネルが緊急生中継に切り替わった。




「国民の皆さん。この二年ばかり、不定期に発生するドラゴン討伐においては、ご不安になることも多かったでしょう。特に、先日急きょ行われたドラゴン討伐の際には、突然のことに混乱した方もいらっしゃったかと思います。まずはそのことについて、神官として謝罪申し上げます。」


 レティシアたちを保護していた空軍施設跡地に立つターニャは、カメラに向かって深く丁寧に頭を下げた。


「そして、この場をもって宣言いたします。先にメディアを通して〝これが最後の戦いだ〟と申し上げましたが、そのドラゴン討伐もつつがなく完了いたしました。これで、セレニア山脈から東に眠るドラゴンはゼロとなります。二年以上にわたったドラゴン殲滅作戦は―――これにて完遂です。」


 その宣言に、国中がざわりと沸き立つ。


「これで、いつどこでドラゴンが目覚めるかと怯えることはなくなるでしょう。そして、大切なのはこれからです。」


 ターニャがそう告げた瞬間、いくつもの咆哮ほうこうが上空でとどろいた。
 何事かと狼狽うろたえたメディアの人々が空にカメラを向けて、次に青い顔で息をつまらせる。


 上空には、白銀色の巨大なドラゴンを筆頭に、ざっと十数体のドラゴンが飛び回っていたのだ。


 ターニャが片手を挙げて合図を送る。
 すると、ドラゴンたちはゆっくりと下降を始め、ターニャの後ろに整列して着地した。


 白銀色のドラゴンから降りてきたのはキリハ。
 その隣のドラゴンからは、ディアラントが降りてくる。


 二人はターニャの隣に立つと、カメラに向かって一礼。
 その後、一歩下がってターニャの後ろに控えた。


「最後のドラゴン討伐にて、レティシアとロイリアを除き、討伐しなかったドラゴンがいたことは、すでに周知の事実かと思います。今回は、彼と血を交わしたキリハさん伝手つてに協力を依頼し、その方自身にお越しいただきました。」


 ターニャが言うと、カメラのほとんどが白銀のドラゴンに集中する。


「彼の名は、神竜リュドルフリア。セレニアのドラゴンを統べる王であり―――三百年前のドラゴン大戦を止めるために、自身を犠牲にして東側のドラゴンを封じた方です。」


 大きなどよめきに包まれる敷地内。


 とんでもないゲストの登場に怯えて逃げ出す者。
 表情を変えずにカメラを構え続ける者。


 この場に駆けつけた人の分だけ、反応も様々だった。


 国民という国民がテレビやラジオにかじりつく中、ターニャは淡々と会見を続ける。


「私はキリハさんを仲介役として、リュドルフリアさんと数度にわたる話し合いを行い、今後の相互関係における取り決めを設けました。追って公文書を掲示しますが、代表的な取り決めを三つ、この場で公表いたします。」


 それで、カメラの多くがまたターニャに集中する。
 ターニャは一つ呼吸を置くと、堂々とした態度でカメラと向き合った。


「一つ。最後のドラゴン討伐の際に、リュドルフリアさんが自ら、戦争賛成派だった最後のドラゴンを討ち果たしました。これをもって、ドラゴン大戦の正式な終結を宣言します。」


 ドラゴン大戦の終結。
 それは、永久的になくならないと思われていた問題が解決したことを意味する。


「なんと……」
「まさか、こんな日が来るなんて……」


 呆然と呟いた何人かの手から、マイクやカメラが落ちていった。


「二つ。ドラゴン大戦の終結と同時に、私たち人間と、リュドルフリアさんたちドラゴンは、半永久的な和平条約を締結いたします。今後、人間とドラゴンが理不尽に争うことはないでしょう。」


 もはや、出る言葉もなくなった。
 誰もが皆、ターニャの言葉だけに引き込まれるしかない。


「そして三つ。和平条約を締結したとはいえ、人間とドラゴンの間に生まれてしまった溝は深いものです。そのため、これまでどおり、セレニア山脈から東側を人間の土地、西側をドラゴンの土地として切り分け、不可侵規定を設けます。原則として、私たちは互いに、セレニア山脈を越える行為を禁じられます。」


「………」


 朗々としたターニャの演説を聞きながら、キリハは思わず表情を暗くする。


 ドラゴン大戦にまつわる問題が解決すれば、また昔のように手を取り合っていける。
 当然ながら、そんな夢物語が通用するわけがなかった。


 和平条約を締結したとはいっても、そこで最も重要なのがこの不可侵規定。


 再び争わないためにも、お互いの領域には触れないでいようというのが、この会見で示された今後の関係性だ。


 それはきっと、セレニアのほとんどの人を安心させる決断。
 しかし一部は、切なさを飲み込むしかない結果でもあった。


 浮かない様子のキリハを盗み見て、ディアラントがさりげなく彼の腰を叩く。
 それで顔を上げてきたキリハに、ディライトは優しく笑いかけてやった。


 大丈夫。
 ターニャを信じろ。


 師匠の微笑みがそう語る。


「しかしながら、完全に不可侵としてしまっては、和平条約や不可侵規定の意義や目的が風化してしまいます。そこで、この空軍施設跡地からライザ海岸までの区域を、定期的な会合を行う交遊空間として整備いたします。西側にも同じような区域を作り、その空間でだけは、人間とドラゴンが触れ合ってもよいものとします。」


「………っ」


「ただし、交遊空間に入れる者は、基本的に宮殿関係者および学術研究を目的にした方々に限るつもりです。ドラゴン側でも、リュドルフリアさんやレティシアさんを筆頭に、人間に害意を一切持たない者に限定するとのことです。」


 師匠の微笑みは、こういう意味だったのか。
 キリハは思わず胸元を握る。


 ターニャは、最後の最後で抜け道を用意してくれた。


 もちろん政治的な理由もあっただろうけど、自分がリュドルフリアやレティシアたちと絆を深められる機会を確保してくれたのだ。


「この会見で発表することは以上です。後日聴聞会を開きますので、ご質問やご意見はそこで受け付けます。開催通知をお待ちください。そして、最後に……」


 そこで、ずっとカメラを見つめていたターニャがこちらを見た。


「キリハさん。最後にあなたから、あなたとリュドルフリアさんの気持ちを伝えてあげてください。あなた方の想いが、少しでも多くの方の心に残ることを祈ります。」


 先ほどまでのりんとした姿勢はなく、こちらを見るターニャは穏やかだ。


 どこまで通用するから分からないけれど、何もせずに妥協して飲み込むより、伝えるだけ伝えて、届かなかった悔しさを噛み締める方がいいはずだ。


 ターニャの言葉と態度が、そんな風に自分の背中を押してくれた。


「―――うん。」


 力強く頷いたキリハは、ターニャがいた演説台の真ん中に堂々と立った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良
ファンタジー
 ――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」  魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。  残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。  だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。  ――そして、二十分後。  不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。  シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。 「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」  『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!  哀れな魔王の、明日はどっちだ……? (表紙イラストは、ペケさんから戴きました) *小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

処理中です...