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【番外編2】嵐との出会い
第9の嵐 とんでもない会話
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アイロスのあの態度を見る限り、おそらく他人に聞かれるのはまずい話なのだろう。
夏休みとはいえ、この時期は様々な大会が予定されているので、通学している学生も多い。
ルフトとソーヤの騒ぎようを気にするなら、誰かに見聞きされるかもしれない場所での会話は避けるはずだ。
そうなると、考えられるのは代表委員会管轄の倉庫か実習室。
「……ビンゴ。」
人気のない倉庫近くに差しかかったところで、ルフトたちの声が微かに耳を打った。
おれはすぐに息をひそめ、そっと倉庫のドア近くに身を寄せる。
「だから、なんでだめなんですか!?」
割と防音設備がしっかりしているはずの倉庫から、これだけはっきり声が聞こえるのだ。
中では、相当な激論が繰り広げられていると見た。
ここまで熱くなっているのなら立ち聞きしている人間の存在になど気付くはずもないが、念には念を入れて気配を殺すことにする。
「なんでって、それがディアの意志じゃないか。ルフト君もソーヤ君も、ちゃんとディアから聞いたでしょ?」
「聞きましたけど、納得なんてできません! ディアが協力してくれれば、今年の新人戦は優勝確定なのに!!」
……ああ、なるほど。
おれは納得する。
あの二人は、剣術精鋭部の学生だとジョーが言っていた。
剣術の全国大会は二週間後だと聞いているし、そこにディアラントの協力を欲しているのだろう。
何せあの目があれば、対戦相手への対策は完璧にできるのだから。
しかし、それならば何故アイロスはディアラントの協力を阻止しているのだろうか。
対戦相手の研究だけなら他大学にまで名が知れることはないし、教師志望でより多くの剣技を見たがっているディアラントなら、嬉々として食いつきそうな話だと思うが……
「それって、あくまでも部活のためでしょ? ディアのためにはならないよ。」
「そ……そうだとしても! 逆に、先輩はなんで納得できてるんですか!? あいつがちょっと本気を出せば、新人戦の優勝だけじゃなくて、技術賞も作戦賞も総なめにできるんですよ!?」
「それだけじゃないです!!」
ルフトの勢いに乗って、次はソーヤが口を開く。
「あいつの腕は、無差別級でだって軽く優勝できちゃうレベルじゃないですか!! それなのに教師だなんて……宝の持ち腐れもいいとこですよ!? それこそ、あいつのためにならないと思いませんか!?」
「―――っ!?」
その訴えに、おれは今年一番の衝撃を受けた。
ルフトとソーヤは、ディアラントのことを作戦要員としてではなく、大会の出場選手として扱っているのだ。
冗談もほどほどにしてくれ。
新人戦の三大賞を一人が独占なんて話、聞いたことない。
しかも、それをあのディアラントが可能だと?
おれは記憶を手繰り寄せる。
知り合って以来、おれはディアラントの授業風景を度々盗み見てきた。
だが、剣の腕に関しては並みを外れない程度のものだったように思う。
本人も、特別製なのは目だけだと言っていた。
しかし、片やソーヤはディアラントなら無差別級での優勝ですら可能だと言う。
まさか……あいつが化け物染みているのは、目だけじゃないのか?
あいつは、自分の剣の腕を隠している?
おれやジョーの目にも違和感を抱かせないほど、完璧に?
現実を受け入れられずにいるおれの耳に、とうとうアイロスの声が飛び込んできた。
「あのさ……ディアのためになるかどうかは、ディアが決めることじゃないの? そりゃあ俺だって、少しはもったいないと思ってるよ。だけど、ディアは特待推薦枠を蹴って、わざわざ一般入試で入ってきたんだよ? そこまでしてでも教師になりたいってことじゃん。俺に、そこまでの夢を邪魔することはできないよ。」
―――特待推薦枠!?
おれは、息をすることすら忘れた。
特待推薦枠といったら、学校で一人取れれば立派だと言われるほどの超難関枠。
おれだって、この枠をもぎ取るのにかなり苦労した。
書類上の成績だけじゃない。
校長の他に最低五人からの推薦を受けなくてはならず、第三機関による実技試験を突破しないと、推薦を受ける権利を得られないのだ。
「でも…っ」
言い募るルフトとソーヤの言葉は、もうおれの耳に入っていなかった。
おれはほとんど無意識にその場を離れ、ふらふらとある場所に向かっていた。
ルフトやソーヤが騒いでいるだけなら、まだ聞き流すことができた。
しかし、ディアラントのことを一番かばっていたアイロスの口からあんな言葉を聞いてしまえば、否応なしにそれが真実だと理解させられる。
そして、その事実を裏付けるように、ディアラントを初めて知った日の記憶が脳裏を巡る。
『新入生調査対象外に逃げたとはいえ、あのディアラントですよ!?』
そう。
あの日、アイロスは確かに言っていた。
―――逃げた、と。
よく考えてみろ。
新入生調査の対象外に逃げたということは、調査対象となる成績順位も周囲の奴らの実力も把握した上で、自分の成績を調整したということじゃないか。
ディアラントの入試成績は三十八位。
調査対象からは外れつつも、十分に成績優秀者の範囲に入る絶妙なラインだ。
ちょっと目がいいくらいで、どうやったらそこまで正確に入試成績を操作できる?
なんてことだ。
あの日の言葉をよく考えれば、その時点であいつの異常さに気付けたはずなのに。
嘘だろ?
見破れなかった?
おれとジョーが?
信じられない事実が、ぐるぐると世界を回す。
おれたちが全く見破れなかったということは、ディアラントの実力がおれたちのものを超えているということ。
『目立たないように隠れたって、本物にはばれるもんなんですよ。』
おれが目について指摘した時、ディアラントは隠す風でもなく、あっさりと自分の力を認めた。
あの時ディアラントに漂っていた余裕は、どんな処遇でも受け入れる心づもりがあったからだけではなかった。
代表委員に推薦されたとしても、自分の能力を隠していく自信があったということなのか。
どうして、あいつはそこまでできる?
自分の可能性を自分で潰しているのに、どうしてあいつには……
とてつもない質量を持って膨らむ、ディアラントへの劣等感。
それに突き動かされるように、おれは目の前に迫っていたドアを叩き開けた。
「わっ!? びっくりしたぁ…。どうしたの、ミゲル? なんか、ここを出ていく前より殺気立ってない?」
「ジョー。」
驚いた様子のジョーの言葉は、当然ながらおれの脳内に入ってこない。
「ディアラントについて、徹底的に調べろ。」
「へっ?」
唐突なおれの言葉に、ジョーが珍しく目を丸くする。
「……今さら?」
ジョーの口から出たのは、当然といえば当然の返答だった。
それで、ジョーがディアラントについて今は何も知らないことが分かった。
この男は、興味が湧かないと調べない人間だ。
だから、おれの報告で満足したディアラントについては、あれから何も調べていないのだろう。
「今さらでもどうでもいい。お前のことだから、三時間もありゃ調べられんだろ?」
「そりゃあ、できないことはないけど。」
「とにかくすぐ調べろ。」
「……そこまで言うなら。」
怪訝深そうに顔をしかめながらも、ジョーは携帯電話を取り出して何ヵ所かに電話をかけ始めた。
いつもはもう少し渋るのだが、今回はおれの気迫に押されたのか、やけに素直だった。
おれは、苛立ちを抑えながら調査結果が来るのを待つ。
とてもではないが、委員の仕事が手につく状態ではなかった。
夏休みとはいえ、この時期は様々な大会が予定されているので、通学している学生も多い。
ルフトとソーヤの騒ぎようを気にするなら、誰かに見聞きされるかもしれない場所での会話は避けるはずだ。
そうなると、考えられるのは代表委員会管轄の倉庫か実習室。
「……ビンゴ。」
人気のない倉庫近くに差しかかったところで、ルフトたちの声が微かに耳を打った。
おれはすぐに息をひそめ、そっと倉庫のドア近くに身を寄せる。
「だから、なんでだめなんですか!?」
割と防音設備がしっかりしているはずの倉庫から、これだけはっきり声が聞こえるのだ。
中では、相当な激論が繰り広げられていると見た。
ここまで熱くなっているのなら立ち聞きしている人間の存在になど気付くはずもないが、念には念を入れて気配を殺すことにする。
「なんでって、それがディアの意志じゃないか。ルフト君もソーヤ君も、ちゃんとディアから聞いたでしょ?」
「聞きましたけど、納得なんてできません! ディアが協力してくれれば、今年の新人戦は優勝確定なのに!!」
……ああ、なるほど。
おれは納得する。
あの二人は、剣術精鋭部の学生だとジョーが言っていた。
剣術の全国大会は二週間後だと聞いているし、そこにディアラントの協力を欲しているのだろう。
何せあの目があれば、対戦相手への対策は完璧にできるのだから。
しかし、それならば何故アイロスはディアラントの協力を阻止しているのだろうか。
対戦相手の研究だけなら他大学にまで名が知れることはないし、教師志望でより多くの剣技を見たがっているディアラントなら、嬉々として食いつきそうな話だと思うが……
「それって、あくまでも部活のためでしょ? ディアのためにはならないよ。」
「そ……そうだとしても! 逆に、先輩はなんで納得できてるんですか!? あいつがちょっと本気を出せば、新人戦の優勝だけじゃなくて、技術賞も作戦賞も総なめにできるんですよ!?」
「それだけじゃないです!!」
ルフトの勢いに乗って、次はソーヤが口を開く。
「あいつの腕は、無差別級でだって軽く優勝できちゃうレベルじゃないですか!! それなのに教師だなんて……宝の持ち腐れもいいとこですよ!? それこそ、あいつのためにならないと思いませんか!?」
「―――っ!?」
その訴えに、おれは今年一番の衝撃を受けた。
ルフトとソーヤは、ディアラントのことを作戦要員としてではなく、大会の出場選手として扱っているのだ。
冗談もほどほどにしてくれ。
新人戦の三大賞を一人が独占なんて話、聞いたことない。
しかも、それをあのディアラントが可能だと?
おれは記憶を手繰り寄せる。
知り合って以来、おれはディアラントの授業風景を度々盗み見てきた。
だが、剣の腕に関しては並みを外れない程度のものだったように思う。
本人も、特別製なのは目だけだと言っていた。
しかし、片やソーヤはディアラントなら無差別級での優勝ですら可能だと言う。
まさか……あいつが化け物染みているのは、目だけじゃないのか?
あいつは、自分の剣の腕を隠している?
おれやジョーの目にも違和感を抱かせないほど、完璧に?
現実を受け入れられずにいるおれの耳に、とうとうアイロスの声が飛び込んできた。
「あのさ……ディアのためになるかどうかは、ディアが決めることじゃないの? そりゃあ俺だって、少しはもったいないと思ってるよ。だけど、ディアは特待推薦枠を蹴って、わざわざ一般入試で入ってきたんだよ? そこまでしてでも教師になりたいってことじゃん。俺に、そこまでの夢を邪魔することはできないよ。」
―――特待推薦枠!?
おれは、息をすることすら忘れた。
特待推薦枠といったら、学校で一人取れれば立派だと言われるほどの超難関枠。
おれだって、この枠をもぎ取るのにかなり苦労した。
書類上の成績だけじゃない。
校長の他に最低五人からの推薦を受けなくてはならず、第三機関による実技試験を突破しないと、推薦を受ける権利を得られないのだ。
「でも…っ」
言い募るルフトとソーヤの言葉は、もうおれの耳に入っていなかった。
おれはほとんど無意識にその場を離れ、ふらふらとある場所に向かっていた。
ルフトやソーヤが騒いでいるだけなら、まだ聞き流すことができた。
しかし、ディアラントのことを一番かばっていたアイロスの口からあんな言葉を聞いてしまえば、否応なしにそれが真実だと理解させられる。
そして、その事実を裏付けるように、ディアラントを初めて知った日の記憶が脳裏を巡る。
『新入生調査対象外に逃げたとはいえ、あのディアラントですよ!?』
そう。
あの日、アイロスは確かに言っていた。
―――逃げた、と。
よく考えてみろ。
新入生調査の対象外に逃げたということは、調査対象となる成績順位も周囲の奴らの実力も把握した上で、自分の成績を調整したということじゃないか。
ディアラントの入試成績は三十八位。
調査対象からは外れつつも、十分に成績優秀者の範囲に入る絶妙なラインだ。
ちょっと目がいいくらいで、どうやったらそこまで正確に入試成績を操作できる?
なんてことだ。
あの日の言葉をよく考えれば、その時点であいつの異常さに気付けたはずなのに。
嘘だろ?
見破れなかった?
おれとジョーが?
信じられない事実が、ぐるぐると世界を回す。
おれたちが全く見破れなかったということは、ディアラントの実力がおれたちのものを超えているということ。
『目立たないように隠れたって、本物にはばれるもんなんですよ。』
おれが目について指摘した時、ディアラントは隠す風でもなく、あっさりと自分の力を認めた。
あの時ディアラントに漂っていた余裕は、どんな処遇でも受け入れる心づもりがあったからだけではなかった。
代表委員に推薦されたとしても、自分の能力を隠していく自信があったということなのか。
どうして、あいつはそこまでできる?
自分の可能性を自分で潰しているのに、どうしてあいつには……
とてつもない質量を持って膨らむ、ディアラントへの劣等感。
それに突き動かされるように、おれは目の前に迫っていたドアを叩き開けた。
「わっ!? びっくりしたぁ…。どうしたの、ミゲル? なんか、ここを出ていく前より殺気立ってない?」
「ジョー。」
驚いた様子のジョーの言葉は、当然ながらおれの脳内に入ってこない。
「ディアラントについて、徹底的に調べろ。」
「へっ?」
唐突なおれの言葉に、ジョーが珍しく目を丸くする。
「……今さら?」
ジョーの口から出たのは、当然といえば当然の返答だった。
それで、ジョーがディアラントについて今は何も知らないことが分かった。
この男は、興味が湧かないと調べない人間だ。
だから、おれの報告で満足したディアラントについては、あれから何も調べていないのだろう。
「今さらでもどうでもいい。お前のことだから、三時間もありゃ調べられんだろ?」
「そりゃあ、できないことはないけど。」
「とにかくすぐ調べろ。」
「……そこまで言うなら。」
怪訝深そうに顔をしかめながらも、ジョーは携帯電話を取り出して何ヵ所かに電話をかけ始めた。
いつもはもう少し渋るのだが、今回はおれの気迫に押されたのか、やけに素直だった。
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