竜焔の騎士

時雨青葉

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【番外編2】嵐との出会い

第15の嵐 ついに吐き出した思い

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 何故か、おれは必死で仕方なかった。


 エレベーターを待つ間も惜しくて、階段を駆け下りて宿舎を飛び出る。


 ここ二年で知り尽くした抜け道を使って宮殿を出ると、すぐ隣にそびえている大学の門をくぐった。


 懐かしくも感じる大学の敷地内を駆け抜け、目指したのは学生寮。


 立ち並ぶ部屋の中に一つ半開きのドアを見つけ、おれは無我夢中でそこに飛び込んだ。


「ディア!!」


 息を荒げるおれは、肩を上下させながら室内を見回す。


 部屋の中は、すでに荷物がまとめられている状態だった。


 いくつのも段ボールが部屋の壁際に積まれていて、え置きの棚からも物がなくなっている。


「んー? あ、ミゲル先輩じゃないですか。随分と久しぶりですね。」


 寝室の方から段ボールを持って現れたディアラントは、おれの姿に気付くといつものように人懐っこい笑顔を浮かべた。


 それはもう、引くほどにいつもどおりの姿でしかなくて……


「おい。何なんだよ、あの辞令?」


 単刀直入に訊ねる。
 すると、ディアラントは笑顔に苦いものを含めた。


「さすが、情報が回るのが早いですね。なんだも何も、見たままの辞令が事実ですよ。今週中に荷物をまとめて宮殿本部の宿舎に移らなきゃいけないんで、今少し忙しいんですよね。」


 ディアラントは言葉のとおり、おれと話をしながらも荷造りを着々と進めている。


「はめられたった話は本当か?」


 その背に問いかける。


「!!」


 その瞬間、ディアラントの体が大きく震えた。
 せわしなく動いていた手がピタリと止まり、しばらくの間固まる。


「……ははっ。それ、ジョー先輩からの情報ですか? 怖い怖い。」


 ディアラントから発せられた言葉に、否定はなかった。


「本当なんだな。」


 断定口調で再確認。
 こいつの性格からして、否定しないということは、おれの指摘を肯定したも同然だ。


「どうでしょう? 近からず遠からずって感じですかね。まあ、オレが敵に回したら面倒な方々を敵に回したのは本当です。」


 言いながら、ディアラントは作業を再開する。


「はめられたっていうのも、一面的な事実ではあるんでしょうね。でも、つけ入られる隙を見せたのはオレなんで、仕方ないと言えば仕方ないことです。いやぁ、油断しましたね。」


 不思議なほどあっさりとしているディアラントの声。


 おれの胸に生まれた激情が、どんどん大きくなっていく。
 そしてその激情は、次のディアラントの言葉を聞いた瞬間に派手に弾けてしまった。


「ま、なったもんは仕方ないですし、やるだけやるしかないですよねー。」
「―――っ! 馬鹿野郎!!」


 おれはディアラントの胸ぐらを掴んで、自分の方へと引き寄せた。
 きょとんとした様子のディアラントを、間近から睨み上げる。




「何なんだよ、お前!? お前、教師になりたかったんだろ!? なんで、そんなに笑っていられるんだ!? なんでお前には……いつもいつも、迷いがねぇんだよ!?」




 ディアラントと知り合ってから二年以上。
 その間ずっと溜め込んできて、とうとうぶつけてしまった思いだった。


 こいつはいつもそうだ。


 教師になりたいと語ったあの時も、おれと剣を交えたあの日も―――そして今この時だって、こいつの目には迷いがない。


 あるがままの現実を受け入れて、それでいてまっすぐすぎるほどに前を向いている。


 教師になりたいと言った瞳に、嘘はなかった。
 そのためにディアラントは用意周到に手を回して、自分のための道を切り開いていた。


 その道を、理不尽に潰されたんだぞ?


 それなのにどうして、こいつはこうして立っていられるのだ。
 どうしていつもと同じように、おれに笑いかけられるのだ。


 少しくらい苦悩してくれれば、おれの劣等感もやわらいだかもしれないのに……


 激情が理性をさらって、そんな意地汚い本心を露にする。


「先輩………まだ、迷ってるんですね。」


 しばらくの沈黙の末におれの耳朶じだを打ったのは、残酷なまでに穏やかな声だった。


「もう……分かんねぇんだよ。」


 口から勝手に、言葉が零れ落ちていく。


「確かにおれは迷ってる。けど、何をそんなに迷ってんのか……おれにも分かんねぇんだよ。お前にさえ会わなきゃ、この迷いも忘れられるはずだったのによ……」


 全部お前のせいだ。
 お前の型破りな行動が、いつもおれを狂わせる。


 自分自身の望みも分からなくて、だから迷うことすら忘れるしかないのに。
 それなのに、お前の姿がそれを許してくれないんだよ。


 忘れてしまえば、楽になれるのに……


「……先輩。オレ、今から独り言を言いますね。」


 ディアラントがふと口を開いたのは、その時のことだった。

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