竜焔の騎士

時雨青葉

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【番外編3】伝説が生まれるまで

カウント2 教師を目指すきっかけ

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 人生、順調に進行中……といったところだろうか。


 綺麗な満月を見上げながら、ぼんやりとそんなことを考える。


 昔から、他人の太刀筋がよく見えた。


 相手がどこに力を入れて、どんな弱点を持つのか。
 それらはなんとなく本能で分かっていたし、実際にその見当が外れたこともなかった。


 人々は、それを才能と呼んだ。
 特に将来の夢もなかったオレは、先生に勧められるがままに剣術の専門校へと進学した。


 そんなオレが教師になろうと決意したのは、高校二年生の時。
 きっかけは、近所の孤児院に引き取られたキリハとの出会いだった。


 話題の種は、なんといってもキリハが竜使いであったこと。


 レイミヤの皆も子供たちも、初めは距離感を掴みあぐねてキリハを遠巻きにし、よくメイばあちゃんがそれを怒っていたっけ。


 キリハも周りに怯えていたのか、まるで身を縮める子猫のように、目立たない所で息をひそめていた。


 こう言ったらメイばあちゃんに怒られるだろうが、キリハに近付いたのは純粋な好奇心だった。


 年齢の割に、キリハがかなり身軽だったからだ。


 元は都会の方に住んでいたと噂で聞いたが、そのくせして、田舎いなかのレイミヤで過ごしてきた子供たちの何倍も身体能力が高かった。


 それに興味を引かれて、おっかなびっくりなキリハにまとわりつくようになり、その中でキリハも少しずつオレに心を開いてくれた。


 そしてある日、たまたま近所の子供たちとのチャンバラごっこにキリハを巻き込んで……オレは、生まれて初めて雷が直撃したような衝撃を受けたのだった。


 一目見て分かった。


 あふれる才能とは、これのことを言うのだろう。
 限りなくオレに近いものを、この子は持っているのだ。




 ―――――育てたい。




 衝動的に、そう思った。


 それで目をかけて剣の基礎を仕込んでみれば、キリハは目をみはる速さで剣の腕を伸ばしていった。


 レイミヤで過ごしていく中ですっかり明るくなったキリハは、剣を学ぶことがかなり気に入ったらしく、オレを見つけては剣の指南を頼んでくるようになった。


 そして、それ以上にオレの方がキリハを気に入ってしまい、キリハに剣を教えることにどっぷりとはまりこんでしまったのだ。


 こんな風に、自分が教えたことを吸収して育っていく剣をもっと見たい。
 そうしてオレが育てた剣が活躍する場を見ることができたなら、きっと幸せだろう。


 そう思うようになったオレが教師を目指すのは、至極当然の流れだった。


 先生にも同級生や先輩後輩にも、異口同音にもったいないと言われた。
 でも、そんなことはオレにはどうでもよかった。


 自分で目指すと決めた道なのだから、オレはとことんやるだけだ。


 そして、そんなオレの意志に皆も最後には折れて、オレの選択を応援すると言ってくれた。


 それで成績を少しばかり調整してお目当ての大学に入学し、なんとかこれまで目をつけられることもなく、平和に大学生活を送っているわけだ。


 ここは、国で唯一の国立軍事大学。


 基本的に実力主義の学校なので、あんまり剣の腕で目立ってしまうと、国防軍への就職から逃げられなくなってしまう。


 こんな場所でオレが自分の腕を隠し通せているのも、オレが必死に実力を隠しているというよりは、これまで知り合った人々が口を閉ざしてくれているおかげ。


 大学に入ってからオレの実力を知ったミゲル先輩とジョー先輩も、オレの意志をんで、国防軍に何も語らないでいてくれている。


 これも、一種の才能と言うべきなのだろう。


 どんな馬鹿をしても面白いくらいに敵を作らないオレに、高校の校長はそう言った。


(才能か……)


 自分ではよく分からないけど、あの校長が言うのだからそうなのかもしれない。


 まあ、才能がどうのこうのと言われても、オレにできることは自分が決めたことを貫き通すことと、自分を支えてくれている皆に感謝することくらいなのだけど。


 このまま何事もなければ、無事に教師の道を歩むことができそうだ。


 部活動を通して教師になるための下地と環境は整えたし、今の時点でオレを教師として迎えたいと言ってくれている人もいる。


 とりあえず、数年は色んな学校で経験を積んで、将来的には自分の道場を持つのもいいだろう。


 どこかに腰をえることはせず、身一つで世界中を巡って、より多くの人々に剣を教えるのもいいかもしれない。


「あ…」


 ぼーっと己の回想や理想と向き合っていたオレは、大学を囲む塀に突き当たって、あることに気付く。


 しまった。
 ルートを間違えた。


 途中で迂回して正門に向かう道へと出るつもりだったのに、まっすぐに霊小門の方に来てしまった。


 オレは眉をひそめ、自分の隣にあるびついた門を見つめた。


 大学の北に位置するこの小門。
 この先にあるのは、手入れもされなくなった小さな雑木林だ。


 ひと昔前はきちんと整備されていたらしいが、今はこの門を使う人間もいないし、門の先に伸びるのはもはや獣道である。


 大学の関係者でも、この辺りに近寄る奴はいない。
 その理由は、この門が〝霊小門〟と呼ばれていることで大方察しはつくだろう。


 事実として、親や国防軍からの期待に耐えかねた優等生が、この雑木林で自殺したという事件があったらしい。


 それからというもの、森の中をさまよう人の姿が見られるだとか、迷いがある人は彼に引きずり込まれるだとか、そういう噂が後を絶たないのである。


 そういう噂がなくとも、鬱蒼うっそうとしたこの雑木林は歩きにくくて仕方ないので、オレも好き好んでは近付かない。


(とはいえ、ここから学生寮まで近いんだよな……)


 小門を前に、オレは悩んでいた。


 ここまで来てしまった以上、わざわざ正門に向かうのも手間である。
 明日も予定が詰まっているので、できることなら早く部屋に戻って休みたい。


 そもそもオレは、学生たちの間で流れているあの手の噂は、これっぽっちも信じていないわけで。




「うん、行くか。」




 特に深く考えず、オレはその一歩を踏み出してしまったのだった。

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