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【番外編3】伝説が生まれるまで
カウント5 竜使いの瞳
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ターニャの指示に従って進みながら、彼女が持ってきた剣を使って下草を処理して、無理なく歩けるように道を確保する。
ものすごく切れ味のいい剣だ。
これをあの危ない手つきで彼女が振っていたかと思うとぞっとする。
よく今まで怪我をしなかったもんだ。
「あの……」
ふいに、ターニャが口を開いた。
「あなたは、私と接することが嫌ではないのですか?」
「それって、あなたが神官だからってことですか?」
何を今さら、そんなくだらないことを訊くのだろう。
そんなことを思っていたオレは、下草を切りながら意識半分で言葉を返す。
「それもあるといえばあるのですが、そうではなくて……」
彼女は言葉を濁す。
「その……私、竜使いなので……」
「ああ、それは地元―――」
流れで正直に答えようとして、オレは間一髪であることを思い出す。
そうだ。
キリハの存在は、レイミヤの極秘事項だった。
ここでオレがうっかりキリハのことをしゃべってしまえば、キリハは中央区の孤児院に移されてしまう。
「―――の高校に、竜使いの同級生がいたので。」
若干不自然な言葉の区切り方になってしまったが、幸運にもターニャはそこに疑いを持たなかった。
「そうですか…。その同級生の方とも、仲がよかったのですか?」
「まあ、そうですね。」
これでどんな人だったかと訊かれてしまうと、オレは瞬時に架空の人物設定を考えなきゃいけなくなるな。
平静を装いながらも、オレの脳内はこれまでにないくらいフル回転していた。
「……気味が悪いとは、思わないのですか?」
「へ?」
思わず後ろを振り返ると、ガラス玉のように綺麗な双眸が、不安げな眼差しでオレを見上げていた。
「……ああ、そっか。そうですよね。普通は、オレの方がおかしいのか。」
彼女の瞳を見て思い出した。
キリハもレイミヤに慣れるまでは、こんな風に怯えた目をしていたっけ。
竜使いというだけで毛嫌いされ、時には不当な暴力を受ける。
それが竜使いにとっての日常で、この国にとっての普通なのだった。
「別に、気味が悪いと思ったことはないですよ。おんなじ人間じゃないですか。ただ、ちょっと綺麗な目をしてるだけでしょう?」
自分も昔からこの才能で一目置かれて過ごしてきたので、ちょっとだけ分かる。
どんな理由であれ、普通から弾かれて普通じゃない視線を向けられるのは、少しばかり寂しく感じることなのだ。
オレは人徳にも恵まれていたので孤立するようなことはなかったが、故意で孤立させられてきたターニャやキリハは、オレの何倍も寂しい思いをしているはずだ。
「あなたは、優しい方ですね。」
オレの発言にターニャはひどく驚き、次に柔らかく微笑んだ。
その美しい笑顔に、オレは思わず視線を逸らしてしまう。
許してください。
美人にこんな風に微笑みかけられたら、男なら普通に照れちゃうでしょう?
「……先、進みましょうか。」
オレは足を踏み出して、雑木林の中を行く。
それから数分歩くと、大学と宮殿を分かつ巨大な塀に埋め込まれている、小さなドアを見つけた。
「こんなドアがあったんだ……」
雑木林に隠れていたので、全然気付いていなかった。
「ここに大学ができる前からありましたよ。」
オレの呟きに、ターニャは律儀に答える。
「今はここだけなんです。セキュリティーカードなしで宮殿を出入りできる所。かなり古いドアで、普段は南京錠とかで何重にも施錠されているんですけど、鍵をなんとか入手することができて。それからは時々、こうやって抜け出してたんです。」
「できることならやめてください。本当に危ないですから。」
オレは思わず溜め息をつく。
誰だ、これを放置しようと決めた連中は。
防犯を考えるなら、さっさと潰してください。
「あなた、お名前はなんというのですか?」
錆びついたドアを極力静かに開けながら、ターニャはオレにそう訊ねた。
「ディアラントです。」
オレが名乗ると、ターニャはどこか嬉しそうに目元を和ませた。
「ディアラントさん。今日は、ありがとうございました。初めて……楽しいと思えた時間でした。絶対に忘れません。おやすみなさい。」
「……おやすみなさい。」
オレはそう答えて、ターニャに手を振る。
すると、ターニャも小さく手を振ってドアの向こうに姿を隠した。
ドアが閉まり、向こう側からいくつもの鍵をかける音がする。
そうしてドアから彼女の気配が消えるのを待って、オレはドアにもたれかかって息を吐いた。
「初めて……か。」
あんな些細なことが楽しく思えるとは。
しかも、初めてだなんて。
普段、どれだけ居心地の悪い思いをしているのだろうか。
「お偉いさんは大変だね……」
呟いて、オレは今度こそ寮へと帰ることにする。
一生に一度あるかないかの経験をした。
今日のことで彼女も一人で剣を学ぶには限界があると分かっただろうし、きっとここにはもう来ないだろう。
オレも、こんな足場の悪い所には来るつもりないし。
今日の出来事は、偶然が偶然を呼んだ幻だ。
そう思うことにして、オレは幾分か歩きやすくなった雑木林の中を歩いていく。
もう二度と会うことはないと思っていた彼女と奇跡的に再び会えたのは、それから二週間ほどが経過した頃のことだった。
ものすごく切れ味のいい剣だ。
これをあの危ない手つきで彼女が振っていたかと思うとぞっとする。
よく今まで怪我をしなかったもんだ。
「あの……」
ふいに、ターニャが口を開いた。
「あなたは、私と接することが嫌ではないのですか?」
「それって、あなたが神官だからってことですか?」
何を今さら、そんなくだらないことを訊くのだろう。
そんなことを思っていたオレは、下草を切りながら意識半分で言葉を返す。
「それもあるといえばあるのですが、そうではなくて……」
彼女は言葉を濁す。
「その……私、竜使いなので……」
「ああ、それは地元―――」
流れで正直に答えようとして、オレは間一髪であることを思い出す。
そうだ。
キリハの存在は、レイミヤの極秘事項だった。
ここでオレがうっかりキリハのことをしゃべってしまえば、キリハは中央区の孤児院に移されてしまう。
「―――の高校に、竜使いの同級生がいたので。」
若干不自然な言葉の区切り方になってしまったが、幸運にもターニャはそこに疑いを持たなかった。
「そうですか…。その同級生の方とも、仲がよかったのですか?」
「まあ、そうですね。」
これでどんな人だったかと訊かれてしまうと、オレは瞬時に架空の人物設定を考えなきゃいけなくなるな。
平静を装いながらも、オレの脳内はこれまでにないくらいフル回転していた。
「……気味が悪いとは、思わないのですか?」
「へ?」
思わず後ろを振り返ると、ガラス玉のように綺麗な双眸が、不安げな眼差しでオレを見上げていた。
「……ああ、そっか。そうですよね。普通は、オレの方がおかしいのか。」
彼女の瞳を見て思い出した。
キリハもレイミヤに慣れるまでは、こんな風に怯えた目をしていたっけ。
竜使いというだけで毛嫌いされ、時には不当な暴力を受ける。
それが竜使いにとっての日常で、この国にとっての普通なのだった。
「別に、気味が悪いと思ったことはないですよ。おんなじ人間じゃないですか。ただ、ちょっと綺麗な目をしてるだけでしょう?」
自分も昔からこの才能で一目置かれて過ごしてきたので、ちょっとだけ分かる。
どんな理由であれ、普通から弾かれて普通じゃない視線を向けられるのは、少しばかり寂しく感じることなのだ。
オレは人徳にも恵まれていたので孤立するようなことはなかったが、故意で孤立させられてきたターニャやキリハは、オレの何倍も寂しい思いをしているはずだ。
「あなたは、優しい方ですね。」
オレの発言にターニャはひどく驚き、次に柔らかく微笑んだ。
その美しい笑顔に、オレは思わず視線を逸らしてしまう。
許してください。
美人にこんな風に微笑みかけられたら、男なら普通に照れちゃうでしょう?
「……先、進みましょうか。」
オレは足を踏み出して、雑木林の中を行く。
それから数分歩くと、大学と宮殿を分かつ巨大な塀に埋め込まれている、小さなドアを見つけた。
「こんなドアがあったんだ……」
雑木林に隠れていたので、全然気付いていなかった。
「ここに大学ができる前からありましたよ。」
オレの呟きに、ターニャは律儀に答える。
「今はここだけなんです。セキュリティーカードなしで宮殿を出入りできる所。かなり古いドアで、普段は南京錠とかで何重にも施錠されているんですけど、鍵をなんとか入手することができて。それからは時々、こうやって抜け出してたんです。」
「できることならやめてください。本当に危ないですから。」
オレは思わず溜め息をつく。
誰だ、これを放置しようと決めた連中は。
防犯を考えるなら、さっさと潰してください。
「あなた、お名前はなんというのですか?」
錆びついたドアを極力静かに開けながら、ターニャはオレにそう訊ねた。
「ディアラントです。」
オレが名乗ると、ターニャはどこか嬉しそうに目元を和ませた。
「ディアラントさん。今日は、ありがとうございました。初めて……楽しいと思えた時間でした。絶対に忘れません。おやすみなさい。」
「……おやすみなさい。」
オレはそう答えて、ターニャに手を振る。
すると、ターニャも小さく手を振ってドアの向こうに姿を隠した。
ドアが閉まり、向こう側からいくつもの鍵をかける音がする。
そうしてドアから彼女の気配が消えるのを待って、オレはドアにもたれかかって息を吐いた。
「初めて……か。」
あんな些細なことが楽しく思えるとは。
しかも、初めてだなんて。
普段、どれだけ居心地の悪い思いをしているのだろうか。
「お偉いさんは大変だね……」
呟いて、オレは今度こそ寮へと帰ることにする。
一生に一度あるかないかの経験をした。
今日のことで彼女も一人で剣を学ぶには限界があると分かっただろうし、きっとここにはもう来ないだろう。
オレも、こんな足場の悪い所には来るつもりないし。
今日の出来事は、偶然が偶然を呼んだ幻だ。
そう思うことにして、オレは幾分か歩きやすくなった雑木林の中を歩いていく。
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