竜焔の騎士

時雨青葉

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【番外編3】伝説が生まれるまで

カウント21 方針転換

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「……君は、馬鹿なのかい?」


 あ。
 なんか、ミゲル先輩にも全く同じことを言われたことがある気がする。


「適応能力が高いって言ってくれます?」


 パンをくわえるオレは、様子を見に来たらしいランドルフにあっさりとした口調で言い返してやった。


 まあ、ランドルフが戸惑うのも無理はないと思う。


 ここに監禁されてから数日。


 無理やり捕まえた人間が一切暴れることもせず、むしろ出される食事をもぐもぐと食べているのだ。


 さすがにオレも、これは普通の神経じゃないと理解している。


「逃げようとしないのだね。」
「逃げられるような体ならよかったんですけどねー。それに―――」


 オレは食事を続けながら、流し目でランドルフの後ろにあるドアを見る。


「そのドア、鍵穴がありませんよね。見た感じ、あなたとかが持ってるカードでしか鍵を開けられないんでしょう? 内側からも、外側からも。」


 別に、脱出を一ミリも考えなかったわけじゃない。
 ただ、部屋を探索して五分で〝これは無理だ〟と判断しただけだ。


「カードを奪おうとは思わなかったのかい?」
「まさか。」


 ランドルフの指摘に、オレはいやいやと首を振った。


「そんなことしたら、本当に犯罪者になっちゃうじゃないですか。オレは、まだ前科持ちになりたくないでーす。教師に犯罪なんて論外ですから。」


、ね……」


 意味ありげに呟くランドルフ。


 彼は何かを考えるようにオレを見やり、しばらくするとゆっくりとこちらに近付いてきた。


「これを返そう。」


 机に置かれたのは、オレの携帯電話だ。


「返すといっても、使い物にはならないがね。今は圏外になっているし、今後は通話記録もメールの記録も、全て総督部に転送されるようになっている。」


「うへー…。いらないですよ、そんなオプション。」


「君が忠告を無視するのが悪い。」


 ランドルフがそう言った瞬間、部屋の中が一気に沈黙に満たされた。


「……このまんまだと、オレはリボンをかけられてルルアにプレゼントってとこですか?」


「そうなるだろうね。仮にセレニアに残ったとしても、教師はもちろん、まともな道に進めるとは思わない方がいい。……ただ、今日までターニャ様が相当な粘りを見せていて、結論はまだ出ていないよ。」


「は…?」


 予想していなかった言葉の内容に、オレは眉をひそめた。


「オレの処遇を決める場に、ターニャもいるんですか?」
「もちろん。当たり前だろう。」


 ランドルフは眉一つ動かさない。


「ジェラルド総司令官が言った〝分かっていただく〟とは、つまりはこういうことなのだよ。こちらで勝手に君の処遇を決めてしまっては、いずれターニャ様が同じことを繰り返さないとも限らない。だからあえて、君のルルア行きを決める会議にターニャ様を出席させている。会議の結論を急がないのも、ターニャ様の心を完膚なきまでにくじくためだ。じっくりと、時間をかけてね。」


「悪趣味な。」


 オレは、思わず低く吐き捨てていた。


 なるほど。
 だから、オレをこうして閉じ込めているわけか。


 オレの存在を使って、ターニャを追い込むために。


「いっそ、さっさとルルアに飛ばしてくれりゃいいのに。」


 言うまいと思っていた本音が零れた。


「ほう…?」


 ランドルフが目を細める。


「一度は断ったのに、今はルルアに行く気なのかい?」
「行くしかないなら行きます。戻ってこればいいだけなんで。」


「我々の息を吹きかけられて飛ばされる意味を分かってて言うのかい?」
「ええ。それでも戻ってきますよ。最短時間でね。」


 オレはランドルフに、挑戦的な目を向けてやる。


「オレは、総督部が決めた枠の中で生きてやる気なんかないですよ? どんな時でも、自分がやると決めたことを貫くだけです。そのためなら、なんだって利用しましょう? オレが持ったこの目も、ルルアですらも。」


 オレの本気は、冗談抜きに怖い。


 その評価はローレシア校長を始め、たくさんの人間からもらっている。


 オレ自身はそこまで意識したことなどなかったが、天の才と言われるこの目と腕、そして人徳が物を言う時が今というならば、オレはそれを使うことを躊躇ためらわない。


「オレは決めたんです。教師になるって夢は、ひとまず後回しにします。今はとにかく、ターニャを支えてやりたい。」


 この数日で決めたことだ。


 きっと、オレのルルア行きはほぼ確定だろう。
 ならばオレは、ルルアで自分のやるべきことをするまでだ。


 ルルアまで行ってしまえば、ある意味オレは自由なんだ。


 ルルアで蓄えられる力と技術を身につけて、邪魔する奴らは遠慮なく返り討ちにしてやる。


 さすがにルルアでオレの剣がどこまで通用するかは分からないが、それでこそ乗り越えがいがあるというものだ。


 今まで散々楽をして生きてきたのだから、その分彼女のために努力しよう。


 彼女には待っててもらうことになるが、長く待たせるつもりはない。




 ―――オレは必ず、ここに戻ってくる。




 覚悟を決めたオレの胸はすっきりしていた。


「壁は、高く厚くてなんぼってやつですよね。」


 だからオレは、こうして心から笑えるのだ。

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