Fairy Song

時雨青葉

文字の大きさ
208 / 257
第21歩目 何を一番にするべきか

〝世間知らず〟

しおりを挟む

「あらあら……ふふっ。超優秀な護衛君も、持久戦は苦手みたいねー。」


 フィオリアの後ろからひょっこりと顔を出したラミアは、眠っているシュルクを見て唇を弧の形にした。


 その後、なんの断りもなしに隣に腰かけるラミア。


 これまでのように受け入れることなんかできなくて、つい窓際に寄って距離を取ってしまった。


「改めて見ても、綺麗な寝顔ねぇ。絵にして宣伝チラシでも作ったら、暇とお金を持て余した貴婦人がたくさん釣れそうだわ。」


 シュルクの髪と頬をなでるラミアは、とても上機嫌。
 不愉快になるなという方が無理だった。


「触らないで。」


 せっかく休んでいるシュルクを起こしたくはないので、小声でそう告げてラミアの手を払う。


「つれないわねー。この子との契約もあるし、あんたたちにはまだ手を出さないわよ。それに、明日には仲間になってるかもしれない子だしね。最低限の信用くらいは維持しなくちゃ。」


「ふざけないで。昨日も言ったけど、シュルクはあなたたちの仲間になるような人じゃないわ。」


「ふーん……」


 はっきりと断言するフィオリアにラミアが向けたのは、どこか違和感をいだいているようないぶかしげな視線。


「なら……どうしてあんたは、そんなに不安そうな顔をしてるのかしらね?」


 それは、確実に自分の心を揺さぶる意地悪な問いかけ。
 答えられない自分を置いて、ラミアは淡々と口を動かし続ける。


「不安になるってことは、もしかしたらこの子があたしの誘いを受けるかもしれないって疑ってるんでしょう? それは、あたしたちの仲間にならないこの子っていうのが、あなたの勝手な理想だから? それとも……単純に、この子を信じられないだけ?」


「そ、そんなこと…っ」


「この子も可哀想ねぇ…。この子はあんたを信用しているからこそ危険を承知でツアーに同行させたのに、そんなあんたに全然信用してもらえないなんて。」


「だから、そんなことないって―――」


「しー…」


 思わず声を荒げようとした瞬間、見計らったようなタイミングでラミアの指が唇を塞ぐ。


「起こしちゃっていいの?」


 からかうように問われて、反射的にシュルクを見る。


「んん…」


 周囲の音が気になったのか、微かに眉を寄せてうなるシュルク。


 ただ、完全に起きたわけではなかったようで、しばらく黙っていると、彼はまた穏やかな寝息を立て始めた。


「へえー。ただのわがまま娘かと思ってたんだけど、一応は最低限の気遣いができるのね?」


「―――っ!」


 挑発とも受け取れるラミアの発言。
 ただでさえ余裕がない今の心境では、無視して受け流すことなどできなかった。


「元はと言えば、あなたたちのせいじゃない!」


 衝動のままに、ラミアに掴みかかってしまう。


「あなたたちが、こんな最低なことをしているのがいけないのよ!? そのせいで、私とシュルクがどんなに苦しんでると思ってるの!?」


「んー…。まあ、それは事実だろうから否定はしないんだけどさ……」


 どこか暢気のんきな口調で呟いたラミアが、フィオリアのマフラーに手をかける。
 そして次の瞬間、彼女はフィオリアのマフラーを強く引いた。


「世間知らずのお嬢様に、一つ教えておいてあげるわ。」


 息が触れ合うほどの間近から、切れるように鋭い声音でラミアが告げる。
 その表情は、とてつもないすごみと冷徹さで染め上げられていた。


「ここはね、綺麗事だけで生きていける優しい世界じゃないの。自分の手をよごして支配者になるか、支配者にこびを売って協力者になるか、そのどちらもを拒んで奴隷となるか。それしか選べる道がないのよ。」


「そ、そんなの…っ」


「言い訳だって? 逃げればいいって? そう思ってる? 当然のように恵まれているあなたには、分からないでしょうね。学やお金がない庶民なんて、逃げたところでどこかで犬死にするだけなのよ? ましてや……まだひとり立ちできない子供に、そんなことができると思って?」


「………っ」


 フィオリアは、青い顔でつばを飲み込むしかない。


 悪いのはラミアたちだって。
 そう思う気持ちは変わらない。


 変わらないはずなのに、過酷な環境を生き抜いてきた猛者もさのような眼光にさらされると、何も言えなくなってしまう。


〝世間知らずのお嬢様〟
〝当然のように恵まれているあなたには、分からないでしょうね。〟
〝まだひとり立ちできない子供に、そんなことができると思って?〟


 彼女が告げた言葉の数々が胸に突き刺さって、何も言わせてくれないのだ。


「ま、今となっては嬉々としてこの仕事をしてるあたしが言うには、ちょっとおかしな話だけどね。さすがに腹立しかったから、思わず言っちゃったわ。ほーんと、これだからお貴族様ってのは嫌いなのよ。」


「………」


 さげすむようなラミアの声を聞きながら、フィオリアは深くうつむいて手を離した。


 改めて、これまで城の中でしか生きてこなかった自分の視野の狭さを思い知る。


 シュルクの時も、ラミアの時もそう。
 自分は表面上の行動しか見ていなくて、そこに至る経緯や背景を軽んじていたんだ。


 シュルクの涙とラミアの軽蔑を見れば、否応なしにその事実が浮き彫りになってしまう。


 小さく肩を震わせるフィオリア。
 それを見て何を思ったのか、ラミアが再度口を開いた。


「倫理に反するってだけで潔癖な正義を振りかざすだけなら、何も救えないわよ? その証拠に……この坊やをここまで追い詰めたのは、あなたじゃない。」


 いっそのこと清々しく聞こえるほど残酷に、彼女はそう言い放った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~

Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。 それでも、組織の理不尽には勝てなかった。 ——そして、使い潰されて死んだ。 目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。 強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、 因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。 武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。 だが、邪魔する上司も腐った組織もない。 今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。 石炭と化学による国力強化。 情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。 準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。 これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、 「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、 滅びの未来を書き換えようとする建国譚。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...