竜焔の騎士【外伝】海を越えた大恋愛~北と南で同時に開く愛の花~

時雨青葉

文字の大きさ
17 / 86

ラウンド15 外堀が埋められてる!?

しおりを挟む

「今日も可愛いな、私の愛しいフィアンセは!」


 翌朝、いつものように突撃してきたノアがジョーの背後からハグをかます。


 げんなりと肩を落とすジョーと複雑そうなキリハに対し、周囲は生ぬるーい目で頬を緩めているだけ。


 研究所における二人への認識は、〝半年ぶりに会えて好きを止められない彼女と、照れ隠しで彼女からの愛情表現に応えられない彼氏〟である。


「……んん? なんだ? 今日は随分と大人しいじゃないか。」
「ええまあ。昨日は徹夜したもので、あなたをあしらう気力がないんです。」


「まったく! 研究が楽しいのは分かるが、時間と一緒に私まで忘れないでくれよ~♪」
「………っ」


 会話が進むにつれてジョーの周りに怒りマークが増えていくが、ノアはそんなもの気にしない。


 まさに、やなぎに風といった様子だ。


「……日課が終わったなら、さっさと政務に行ったらどうです?」


「おお、そうだな! お前が抵抗しないから、いつもより多くの癒しを補充できたよ! 今日は、いつにも増して政務がはかどるだろう!」


 スキップなんてしながら、るんるん気分で去っていくノア。
 その背中に。


「政務、はかどるといいね…?」


 ぼそりと呟いたジョーが、にやりと不敵に微笑んだ。
 そして、その日の午後―――




「お願いします! さっさとシステムを復旧させてください!!」




 研究所に飛び込んだウルドが、腰を直角に曲げて懇願してきた。


「復旧? 別に、システムは止まってないはずですが?」


 至急で貸し切った貴賓室でソファーに腰かけるジョーは、一ミリも興味ありませんという態度で欠伸あくびを一つ。


「確かに止まってはいないが、すこぶる効率が悪いんだ! どのボタンを押すにもパスワードが必要って、なんなんだい!? しかも、パスワードを特定するためのクイズ、べらぼうに難しいじゃないか!! おかげで、御殿中の頭脳要員を掻き集めるはめになってるよ!!」


「ぼ・く・を・お・こ・ら・せ・る・の・が・わ・る・い!」


 ざまあみろ。
 十時間を費やして妨害プログラムを構築したかいがあった。


「ノア様に伝えといてくれます? これ以上悪戯いたずらの度が過ぎるようなら、国家機密が犠牲になると思ってくださいって。」


「天才科学者の次は、国際的な犯罪者として名を挙げるつもりかい!?」


「それも一興ですね。さすがに、そんな大それた前科持ちを恋人にするわけにはいかないでしょう? あの人も、少しはりたんじゃないですか?」


「それが……」


 渋面を作るウルド。


「ノア様は〝なんとも愉快なことをするな!〟と豪快に笑い飛ばして、いそいそとクイズに答えているよ。」


「……ちっ。中央執務室だけじゃなくて、御殿全域にプログラムを送り込むんだったか。」


 さすがは一国を治める者と言うべきか。
 この程度のアクシデントは笑って流せる器量をお持ちだと。


「……はぁ。」


 ジョーは溜め息をつき、持ち込んでいたノートパソコンを開いた。


 おそらくウルドは、ノアではなく他の補佐官たちにかされてここに来たのだろう。
 そんな彼に文句を言っても仕方ない。


「今回はこれで勘弁してあげます。また泣かされたくなかったら、あなたがノア様を説得してください。あの人、楽しむだけ楽しんで、僕と直接話し合うつもりがないようなので。」


 言いながら、あらかじめ用意してあった回復プログラムを送信。
 向こうが変に防衛システムをいじっていなければ、あと数分も経てば元通りだ。


 ノアが周りから攻めていくというなら、こちらもその手に訴えさせていただこう。


 補佐官歴が長く、右腕ともいえる立場のウルドからの諫言かんげんなら、さすがのノアも少しは聞くだろう。


 そう思ったのだが……


「申し訳ないが、それはできない。」


 こちらの予想を大きく裏切り、ウルドが否を唱えた。


「……はい?」
「できないと言った。私は、ノア様が君を伴侶とすることに賛成なんだ。」


「寝言は寝てから言っていただけます?」
「だって君、今フリーだろう?」


「そ・れ・が・な・に・か?」
「考えてもみてくれ。」

 
 急速に膨らんでいくジョーの威圧感に怯むことなく、ウルドは滑らかに語る。


「キリハ君の時はさすがに年下すぎないかと思ったが、君とノア様は三つしか離れていない。それに、君ほどの賢さならノア様を上手く飼い慣らすこともできるだろう。年齢的にも性格的にも、ピッタリお似合いだと思うんだよ。」


「おい。」


「さらに言うなら、キリハ君の時と違って、今回のノア様は本気の本気だと思う。」


「……何を根拠に?」


「まず一つ!」


 ウルドがビシッと指を立てる。


「君がノア様に連絡を入れなくなってから、ノア様の仕事効率が明らかに落ちた。週に一回は、君の愚痴で政務が止まるほどだ。キリハ君に呼ばれて君が来るまでの間なんか、会話すら成り立たないことも多々あったんだからね!」


「………っ」


 まさに、キリハから聞いた話と一致する。
 出だしから反論を失うことになったジョーの前で、ウルドの熱弁は続く。


「そして、いざ君と会ったらどうだ? 仕事の速度が元通りどころか、それ以上だよ! 君に会いに行かせませんよって言えば、まあ~なんだってやること! 正直、ものすんごく便利なんだ! だから!!」


 言葉と同じくものすごい勢いで、ウルドがジョーの両手を掴む。


「ぜーったいに逃がさなーい。補佐官一同、地に這いつくばってでも君を離さなーい。」


(圧! 圧がやばい!!)


 想像以上の剣幕に、ジョーはドン引きするしかない。


 なんでノア様より、あなたの方が必死なんですか!?
 補佐官一同って、まさかこの件、御殿中に広まってたりします!?


 目を白黒させるジョーに、ウルドがにっこりと笑いかけたのはその時。


「と、いうことで。せっかくだから聞いておこう。式の日取り、いつがいい?」
「し、式!?」


 待て待て待て!
 牽制どころか、ゴールインへばく進しそうなんだけど!?


「もう、諦めたらどうだい?」


 ノアの精神でも乗り移っているのか、ウルドの暴走が止まらない。


「ノア様ったら、あまりにも嬉しかったのか、もうご両親に好きな人ができたって報告してるから。」


「はあぁっ!?」


「ご両親も大変お喜びで。ノアが選ぶ人ならまず間違いはないと、歓迎ムード一色のようだ。」


「それはご両親がおかしいと思いますねぇっ!!」


 あの人、マジで何考えてんだ!?
 外堀を埋めるにしても、両親はやりすぎだろ!!


 しかも、今さらっと〝好きな人〟って……
 キリハ君の推測が確定しちゃったじゃないか!!


「くそ…っ。回復プログラム、送るんじゃなかった…っ」


 どうやら、まだまだお灸が足りなかったようで。


 最低でも三日は苦労させた上にもっとひどい妨害プログラムを叩き込んでも、腹の虫が収まりそうにない。




「でも―――断らなかったんだろう?」




 その時、ウルドの声音が一気に落ち着いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...