52 / 714
第6章 帰郷
禁忌の森
しおりを挟む「よし。」
地面にふわりと着地した実は、後ろを振り返った。
そこには頭を抱えて片膝をついている拓也と、再び放心している梨央の姿が。
「あれぇ…? 拓也……拓也は慣れてるでしょ? こんなんでバテないでよ。」
「うるさいな…。普通、こんな短時間に何度も移動魔法なんか使わないっての。しかも、両方ともおれの意志じゃないし。」
「まあ、そうかもしれないけどさぁ…。梨央? おーい、戻ってこーい。」
あらぬ方向を見つめている梨央の顔の前で、実は手を振った。
それに呼応して、梨央の瞳に徐々に光が戻っていく。
「……う…っ」
今さらのように口に手を当て、腰を落としてうずくまる梨央。
「気持ち悪い…。頭もガンガンするし……最悪……」
「初めてじゃ、誰でもこうなるからね。そこは我慢して。」
「っていうか、ここはどこなのよ?」
梨央の言葉を受けて、拓也はようやく周りに意識を向けた。
辺り一面、深い森の中だ。
「んー……梨央、あそこ見て。」
実が上の方を指し示したので、拓也と梨央はその指が差す方向を追った。
そこには、西洋の歴史にでも出てくるような立派な城が建っていた。
木々の隙間から見えるのはほんの一部にすぎないが、建物の大きさと荘厳さは一目瞭然だ。
「あそこが、さっきまで俺たちがいた場所。」
「は!?」
実の言葉に、梨央が素っ頓狂な声をあげる。
「そんで、ここはその北の方に広がっている森。俺もここの地理にはあまり詳しくないから、遠くまで逃げることはできなかったんだけど……」
「北……って、まさか―――」
拓也の顔から、あっという間に血の気が引いた。
「お、おい実! もしかしてここって、禁忌の森か!?」
「うん。」
実はあっさり頷く。
「俺って、生まれてからずっとここで暮らしてたからさ。ここしか、移動先がなかったんだよねぇ……」
「禁忌の森で、暮らしてた…?」
拓也は、それ以上何を言っていいのか分からなくなって口を閉じた。
禁忌の森とはその名のとおり、国が立ち入りを禁じている森のことだ。
どんな国の重鎮だろうと、基本的にこの森に入ることを許可されていない。
そうでなくとも、無断で入った者がことごとく行方知れずになっているとか、森の物を持ち帰ったら呪われて発狂するとか、とにかくこの森にはいい噂がないのだ。
自分や尚希も、自らは入ろうとは思わなかった場所だ。
そんなところに実を隠していたとは、エリオスは一体何を考えていたのか。
確かに実の存在を隠すにはうってつけの場所かもしれないが、危険すぎはしないだろうか。
「よりによって、なんで禁忌の森なんだよ……」
「だーかーらー。ここしか移動先がなかったんだって。移動魔法の移動先には自分が行ったことがある場所しか指定できないって、拓也だって知ってるでしょ?」
「地球に戻ればよかっただろ。」
「それができたなら、とっくにそうしてたって。俺はまだ、魔力の封印を解いたばっかなの。力が安定するには、もう少し時間がかかるわけ。」
「だからって、禁忌の森はないだろ!? お前、ここがどんな場所か知ってんのか!?」
「どうせ、入った奴が狂うとか言うんでしょ?」
「知ってんじゃねぇか!」
拓也に怒鳴られ、実はやれやれと息を吐き出す。
「拓也。ここがなんで禁忌の森って言われて、立ち入りを禁じられているか知ってる?」
「直接理由は聞いてないけど、なんとなく知ってるよ。」
拓也は当然のように答えた。
「ここって、聖域なんだろ? 他の所よりも精霊の声がうるせぇから。」
「へえ……」
拓也の答えを聞いた実は目を丸くする。
「もしかして、拓也も精霊が見える人?」
「おれもって言うってことは、実もそうなのか。」
「まあね。」
互いに通じるものを見つけ、拓也と実はそれぞれ苦笑した。
「拓也の言うとおり、ここは聖域だよ。神や精霊が住む場所であって、人間が住んでいいような場所じゃない。どんな要素があるのかは定かじゃないけど、ここに長時間いると、どうも発狂し出す人が多くてね…。俺も何人かそういう人を見たけど、あれは結構ひどいよ。立ち入りを禁じて正解だと思う。」
「じゃあ、お前は?」
「俺はなんでかピンピンしてた。生まれてからずっとここに住んでたからかな? ま、少しだけここにいるくらいなら、狂うこともないって。」
実があっけらかんと笑う。
と、そこに。
「二人とも、話してることの意味が分かんない! そんなことはどうでもいいのよーっ!」
梨央がたまりかねたように会話に割り込んできた。
「私が聞きたいのは、ここは一体どこなのって話。日本じゃないよね、ここ。」
「日本どころか、地球ですらないよ。」
実はさらりと告げる。
「ここは、地球とは別次元に存在する世界。そんで今俺たちがいる場所は、その世界の中のアズバドル王国っていう国。さっきまでいたのは、その王城ってとこかな。俺も拓也も、この世界の人間なんだ。」
「……へ?」
ポカンとする梨央。
無理もない。
いきなりこんなことを言われれば、誰でもそうなるだろう。
そうなんだと納得される方がかえって困る。
「実。」
妙に固い声がして、実は声がした方を見た。
移動の衝撃がようやく抜けたのか、拓也が立ち上がっていた。
その面持ちは声と同じく、やはり固い。
「色々と、訊きたいことがあるんだけど。」
訊ねられ、実は微かに口の端を吊り上げる。
予想どおりの展開だ。
拓也も梨央も巻き込まれただけとはいえ、知る権利はあって然るべきだろう。
「いいよ。まずは何から聞きたい?」
「とりあえず、魔力が封印されるまでの経緯を。」
問うことはすでに決まっていたらしく、拓也は迷うことなく答えた。
了解したと告げるように、実は一つ頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!!
2巻2月9日電子版解禁です!!
紙は9日に配送開始、12日発売!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる