世界の十字路

時雨青葉

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第2章 力を嫌う少女

ここは触れないのがお約束

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「………」


 それから十数分後、拓也は与えられた自分の部屋で遅めの朝食をとっていた。
 黙って食を進める拓也の向かいには、少し気まずそうな実が座っている。


「だから言ったでしょ? 見れば分かると思うって。」
「だな…」


 しばしの沈黙の後、二人は揃って溜め息を吐いた。


 拓也が着替えを終えてから、ユリアスも含めて三人でとある一室へと向かった。


「おい、あれはどういうことだ?」


 ドアの隙間から部屋の様子をうかがったユリアスは、その向こうに広がる光景を信じられないというような表情で見つめていた。


「どういうことも何も、見たまんまだって。」


 ユリアスに引きずられてか、声をひそめた実がそう返す。


 ドアの隙間の向こうは、拓也の部屋の隣。
 つまりは、尚希に割り当てられた部屋だった。


 そして、その部屋のバルコニーでは、尚希とエーリリテが楽しそうに話している真っ最中だったのだ。


 黒いポロシャツにジーンズというラフな格好の尚希に対し、エーリリテは萌黄色のドレスにばっちりとアクセサリーも身に着けていて、その光景は一見するとちぐはぐに見える。


 しかし、二人はそんな違和感を吹き飛ばすほどに仲睦まじい様子で話していた。


 まさに二人だけの世界。
 おだやかで幸せそうな空気は、声をかけることもはばかられるほど。


 結果として、静かにドアを開いた実たちは部屋に入ることができず、こうしてドアの隙間から二人の様子をうかがうしかなかった。


「あの人は誰だ?」


 ユリアスが、もっともと言えばもっともな疑問を投げかける。


「俺の連れ。いつもお世話になってる人だから、変に絡まないでよ?」
「ああ、分かった。だけど……」


 野次馬根性丸出しで、ユリアスは部屋の中を見つめた。


 よほど二人の様子が気になるのか、彼は下手すれば勢い余って部屋に押し入ってしまいそうなくらいに身を乗り出している。


「あのエーリリテの様子は、間違いなく……」
「お察しのとおりなんじゃないの?」
「やっぱりか。ふうん……あのエーリリテが、ねぇ……」


 目の前の光景に対する困惑を紛らわせるように、ひたすらに話している実とユリアス。


 そんな二人を横に、拓也はただただ無言で目をしばたたかせる。


「しばらくは……邪魔しない方がいい、よな?」
「それには俺も賛成。」


 拓也の呟きに、実が何度も頷く。


 結局三人はそれ以上部屋に踏み込むことはせず、息を殺してその場を離れるしかなかったのであった。


 そして、気をかせたユリアスが朝食をここに運んできて、今に至る。


「おれが寝てる間に……一体何が起こったんだ?」


 まるで幻でも見ているかのようにぼんやりと呟いた拓也に、実は苦笑を浮かべた。


「いや、そんなすごいことが起こったわけじゃないよ。ただ、ちょっとした間にお互いに一目惚れしたようなもんで……」


「へえ…」


「まあ、朝からあんな感じなもんで、俺もかつにあそこには入れなかったんだよね……」


 うんうん。
 拓也が困惑する気持ちもよく分かる。


 自分だって、今朝は何も考えずに尚希の部屋に顔を出しかけて、思わず回れ右をして逃げ帰ったくらいだもの。


 あれは絶対に水を差しちゃいけないやつ。
 お互いに満足するまで、ゆっくりとおしゃべりを楽しんでください。


 ユリアスもそう思ったから、素直にあの場を離れたのだろう。


「……そういえば。」


 ふと、拓也が口を開く。


「エリオス様に、お兄さんや妹がいたんだな……」


 知恵のそのでエリオスに教えを受けていた拓也だったが、エリオスの口から兄や妹といった家族の話を聞いたことはなかった。


 噂で権力者の家系に連なる血筋らしいことは聞いていたが、そもそも興味がなかったので、詳細を知ろうとしたこともない。


「俺も、たまたまここに来るまでは、まさかこんなところに親戚がいるなんて思いもしなかったよ。」


 過去のことを思い返した実は、くすりと笑う。


「初めてここに来た時は、びっくりしたよね。みんなして、俺を見て目をまんまるにするんだもん。始めはやっぱり、ここの人たちが親戚だなんていまいち信じられなかったよ。」


「だろうな。においはともかく、見た目はエリオス様とあんまり似てないし。」


「でしょー? じつはさ、父さんって三人兄妹の中で唯一お母さん似なんだって。肖像画を見せてもらったこともあるんだけど、本当にそっくりだったよ。」


「なるほどな。あらゆる証拠から、最終的には認めざるを得なかったわけだ。」


「それもあるんだけど……―――ハエル、いるんでしょ? 出てきてよ。」


 実は、とある名を口にする。


 ―――ス…


 その呼び声に応えてどこからともなく現れたのは、大きな純白の狼だった。

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