世界の十字路

時雨青葉

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第6章 命の代償

桜理を救う方法

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「うむ。では話そう。」


 そう言って、桜は語り始めた。


「一番丸く収まる方法は、我と桜理を繋ぐ術を解くことだ。しかし、この術はあえて解く方法が作られていないものでな。今から術を解析して解除方法を編み出すのは現実的ではない。そうなると、方法は一つに限られる。……桜理の身代わりを用意することだ。ようは、桜理から力を吸う必要がないほどに我に力があればよいわけだ。」


 実は何も言わない。
 なんとなく、途中から予想がついていたからだ。
 

 きっと、桜理はずっと前にこのことを誰かから聞いていたのだろう。


 しかし、この世界の人間ではない桜理には、こんな命のやり取りなど簡単に受け入れられなかったに違いない。


 自分が死ぬのも嫌ならば、自分のために誰かが死ぬのも嫌だ。
 誰かを犠牲にすることに躊躇ちゅうちょしては、葛藤かっとうに悩まされたはず。


 どこの誰とも知らない人の命を奪うくらいなら……


「桜理は、俺にその身代わりをさせようと思ったんだな。」


 憎い相手が死ぬのなら、まだ幾分いくぶんか心は楽だろう。
 憎い相手が自分のために死んでいくなら、むしろ愉快かもしれない。


 それは、ある意味復讐に燃える心を一番満たしてくれる方法だった。
 だから、桜理は自分を呼んだ。


 運が悪ければ、この声は求める人に届かないかもしれない。
 そしたら、大人しく死を受け入れるしかない。


 桜理にとって、これは最後の賭けだったのだ。




うぬの言うとおり、桜理の狙いはそこにある。―――間違いないな、桜理?」




 その言葉に驚いて、実は後ろを振り向く。


 いつから聞いていたのか、桜理が無表情でこちらを見つめていた。
 場に満ちる死の気配が、より濃密に香る。


 実は、苦々しく唇を噛み締めた。


 思い知る。
 桜理たちに残された時間は、ほんのわずかなんだと。


「……助けてくれる?」


 桜理が、ささやくように問う。


「逃げるチャンスをあげたのに、結局知っちゃったのね…。これで分かったでしょ? 私が生きるには、他人の命を食い潰すしかないの。あなたに、自分の命を犠牲にする覚悟と勇気がある? 自分を犠牲にできるくらい、私が大事だと言える? ……無理でしょう?」


 絶望のこもった声。
 そこから、彼女が生きることを諦めかけているのが伝わってくる。


 桜理の未来を潰してはいけない。
 諦めさせてはいけない。


 今すぐにでも、この身を捧げたい衝動に駆られたけれど……今は、それを必死に理性で押しとどめる。


「少し、時間をくれ。」


 言うと、桜理の表情に微かな落胆が浮かぶ。


〝やっぱり……〟


 そんな声が聞こえてきそうだった。


「ほう。今さらながらに逃げるか?」


 からかうように言う桜に、実は殺気を込めた一瞥いちべつをくれてやる。


 しかし、何を言うわけでもなく、実は黙したまま桜との同調を切って木から離れた。


 桜理の傍まで寄ると、彼女の細い両手を自身の両手で包む。


「三日でいい。必ず戻ってくる。絶対に桜理を助ける。もしも不安なら……」


 幹から小さく生える枝を一つ手折たおり、冷えきった両手にそれを握らせる。


「もう一度、俺を呼んで。」


 まるで、どうか呼んでくれと願うような。
 どこか甘いささやき。


 それを聞いた桜理が、刹那的に別の感情をあらわにする。
 それを隠そうとするように、彼女は深くうつむいた。


「……信用は、しないわ。」


 その答えに、実はただ笑うだけ。


「それでいいよ。」


 その言葉を最後に、ふと吹き込んだ風と共に実の姿が消える。
 残された桜理の体が小さく震えて……




「…………………どうして……」




 そんな呟きが、微かに血がにじむ唇の隙間から零れ落ちた。

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