世界の十字路

時雨青葉

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第5章 2日目

猛獣モード

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 紫苑を布団に寝かして、尚希はすぐに実が眠る部屋に向かった。


「拓也、入るぞ。」


 一言断ってから、ふすまを開けて部屋に入る。


「うわ…。こりゃすごいな。」


 思ったことを、そのまま口にする。


 部屋の様子は、昨日の朝に出た時とは一変していた。


 儀式の場ならではの荘厳な静寂が部屋中に満ちている。
 それが地球の空気と混ざり合っていて、ある種独特な雰囲気をここに形作っていた。


 さすがだ。
 たった二日で、ここまで場を整えるとは。
 準備で使う魔法や魔力の量だって、かなりのものだというのに。


「おかえり。意外と早かったじゃん。」


 実の周りに描かれた陣の前に座っていた拓也が顔を上げる。
 拓也と目を合わせ、尚希は苦笑した。


「目、戻ってるぞ。」


 拓也の目の色が、黒から本来の紺碧こんぺき色に戻っていた。
 それくらい、拓也が本気だという証拠だ。


「こんなのにいちいち使ってる力なんかねぇよ。」


 案の定、拓也はあっさりと言い捨てる。
 尚希は部屋中をぐるぐると見回しながら、拓也に近寄った。


「それにしても、よくここまで場を作れたなぁ……」


「まあな。代用品を探すのに苦労したよ。おれの術で清めたから、多分反発はしないと思うけど。」


 確かに、ここにあるものは地球の物だが、術の場に乱れはない。
 この完成度の高さは脱帽ものである。


「さすがは拓也。で? 後はオレたちの準備だけ?」
「そうだよ。」


 ちょうど横に立った尚希に、拓也は何かを投げつけた。


 それは拓也が身にまとっているものと同じ漆黒の外套がいとうと、八色のガラス玉が連なったブレスレット。


 そして、一輪の花。


 その花を見た尚希は軽く目をみはった。


「あれ、サルフィリアじゃん。わざわざ摘みに行ったのか?」
「ああ。そればかりは、代用がきかなかったんだ。」


「なるほど。でも、この魔力……天然ものだろ?」
「当たり前。人工ものじゃ、役に立つわけねぇだろうが。」


 お前は馬鹿なのか、と。
 拓也の剣呑な瞳がそう言ってくる。


「アズバドルに戻って、顔なじみの精霊に探してもらったんだよ。なかなか納得できる量の魔力を蓄えた花が見つからなくて、昨日のうちに終わるはずだった場の最終調整が今日になっちまった。まあ、精霊がサルフィリアを探してくれてる間は精神統一に集中させてもらったし、そんなに支障はなかったけどさ……」


 くどくどとぼやきまくる拓也。
 自分の予定通りにいかなかったのが、相当気に入らないらしい。


 これにも尚希は苦笑いをするしかない。


 自分から見れば、こんな大がかりなものを二日で仕上げたのだから、十分に大したものだと思えるのだが。


 完璧としか言いようがない場の出来映えに感心していると、拓也がイライラしたようにこちらを睨んできた。


「いつまで突っ立ってんだよ。早く準備しろって。あ、花びら二枚寄越せ。ちょっと、こっちが足りねぇんだ。」


「はいはい。」


 尚希は手早く花弁を二枚千切って拓也に渡す。
 拓也はそれを受け取り、呪文を唱えて花弁をブレスレットに融合させた。


(うーん。猛獣化してるな。)


 色々と根詰めて頑張ったせいだろう。
 拓也は、かなりピリピリしていた。


 こうなった拓也には、下手に口答えしない方がいい。
 尚希はそそくさと身支度を整える。


 外套がいとうをまとってブレスレットをはめ、最後の仕上げに両目を片手で覆う。

 
「―――よし。オレも、本気を出さないとな。」


 にやりと吊り上がる、その口の端。
 目を覆った手の裏で、鮮やかなオレンジ色をした双眸がきらりと光った。

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