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第2章 影
報告書が語る異常事態
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言うなればそこは、執務室といった表現が似合う部屋だった。
部屋の一番奥に机が据えられていて、その手前には背の低いテーブルとソファーがある。
奥の机の両脇には本棚があって、それぞれが書類や本でぎっしりと埋まっていた。
自分たちが通された客室とは違い、家具と調度品は全てブラウン系で統一。
物は多いが、シンプルですっきりした部屋だ。
実たちが室内の様子を観察しながら部屋に入ると、今度はドアが勝手に閉まった。
「おはよう。迷ったか?」
一番奥の机からひょっこりと顔を出している尚希が、実たちに柔らかい微笑みを向けた。
「まあ、少し。」
答えると、尚希はくすりと笑って肩をすくませる。
「やっぱりな。オレが住む分には広すぎるんだけど、交易の街だけあって、ここには色んな客が来るからさ。どうしても広くせざるを得ないんだ。二人とも、昨日はよく眠れたか?」
「大丈夫です。」
「ならよかった。」
一つ頷いた実に、尚希は穏やかにそう言った。
その雰囲気からは、今朝見た苛烈な激情は見受けられない。
「そういえば、ここの裏に建物がもう一つあるんですね。窓から見えたんですよ。」
尚希を見たことには触れず、実は建物のことのみを話題に出した。
「え? ……ああ、あるよ。」
尚希は普通にそう返してきた。
「………」
実は一瞬、目を光らせる。
尚希が見せたほんの一瞬、本当にわずかな表情の変化を、実は完全に見破っていた。
尚希は、明らかに表情を凍らせていた。
触れてほしくないものに触れられた。
そんな印象を受ける。
やはり、今朝見た彼に漂っていた殺気は本物のようだ。
「ただの教会だよ。街の人たちがよく来るんだ。大したものがあるわけじゃないけどな。」
何事もないように言う尚希だが、そんな彼の態度はかえって不自然に見えて仕方なかった。
おそらく、尚希の秘密に関わる何かが教会にあるのだろう。
「へえ、そうなんですか。」
特に核心に迫ることはせず、実はこの話を早々に切り上げた。
「そうなんだよ。まあ、やることはないだろうけど、二人ともここでは好きにしてくれて構わないよ。」
心なしか、安堵した様子の尚希。
言いたいことを言い終えた彼は、すぐに顔を伏せてしまう。
机には大量の本やら書類やらが積み重なっていて、尚希が顔を伏せると、その姿は完全に本に隠れてしまう。
「何してんだ?」
拓也がすぐさま尚希に近寄って、その手元を覗き込んだ。
尚希は分厚い書類の束をめくって、先ほどの笑顔を一転させた険しい目つきで中身を読んでいた。
「ここ半年の死亡者数と行方不明者数の報告書を読んでたんだ。死亡者数はそんなに変わらないんだが、行方不明者数が増えててな…。特に有力な手がかりもないし、捜査は行き詰まってるらしい。まあ、色んな輩が集まる街だ。正直な話、誘拐なんて珍しくもないけど……この数はちょっとな。」
尚希の手元には白紙の紙が置かれ、そこに簡単なグラフが書かれていた。
グラフを見ると、半年前までは安定した数値を示していた行方不明者数が、そこを境に緩やかな上昇傾向を示している。
「時期的なものですか?」
実は、感じたことをそのまま訊ねる。
「それもある。だけど、一昨年まではここまでの伸び率はなかった。過去五年の年度報告を見ても、今年ほどの人数はいない。今年は今の時点で、去年の一年間に並ぶ勢いだ。」
グラフの横に文字を書き足しながら、尚希が書類をめくった。
実たちが見ている間にも、尚希は黙々と書類の要点を白紙に書き出していく。
あっという間に一束の書類を読み終えた彼は、それ脇に置いてから反対側に積まれていた別の書類を掴んだ。
「これ……全部読んだのか?」
拓也が戸惑いぎみに訊ねる。
尚希が書類を置いた場所には、すでに多くの書類が山積みになっていた。
「まあな。年に一回しか帰れないもんだから、いつもこのくらい溜まるんだよ。将来に向けての勉強ってことで、毎年必ず読んでた。これを処理する勉強も、魔法の勉強と並行してやってたしな。こんなオレでも、地球に行くまでは真面目にここに戻るつもりがあったんだよなぁ……」
皮肉そうに笑う尚希。
ちょうどその時、ドアをノックする音が聞こえた。
部屋の一番奥に机が据えられていて、その手前には背の低いテーブルとソファーがある。
奥の机の両脇には本棚があって、それぞれが書類や本でぎっしりと埋まっていた。
自分たちが通された客室とは違い、家具と調度品は全てブラウン系で統一。
物は多いが、シンプルですっきりした部屋だ。
実たちが室内の様子を観察しながら部屋に入ると、今度はドアが勝手に閉まった。
「おはよう。迷ったか?」
一番奥の机からひょっこりと顔を出している尚希が、実たちに柔らかい微笑みを向けた。
「まあ、少し。」
答えると、尚希はくすりと笑って肩をすくませる。
「やっぱりな。オレが住む分には広すぎるんだけど、交易の街だけあって、ここには色んな客が来るからさ。どうしても広くせざるを得ないんだ。二人とも、昨日はよく眠れたか?」
「大丈夫です。」
「ならよかった。」
一つ頷いた実に、尚希は穏やかにそう言った。
その雰囲気からは、今朝見た苛烈な激情は見受けられない。
「そういえば、ここの裏に建物がもう一つあるんですね。窓から見えたんですよ。」
尚希を見たことには触れず、実は建物のことのみを話題に出した。
「え? ……ああ、あるよ。」
尚希は普通にそう返してきた。
「………」
実は一瞬、目を光らせる。
尚希が見せたほんの一瞬、本当にわずかな表情の変化を、実は完全に見破っていた。
尚希は、明らかに表情を凍らせていた。
触れてほしくないものに触れられた。
そんな印象を受ける。
やはり、今朝見た彼に漂っていた殺気は本物のようだ。
「ただの教会だよ。街の人たちがよく来るんだ。大したものがあるわけじゃないけどな。」
何事もないように言う尚希だが、そんな彼の態度はかえって不自然に見えて仕方なかった。
おそらく、尚希の秘密に関わる何かが教会にあるのだろう。
「へえ、そうなんですか。」
特に核心に迫ることはせず、実はこの話を早々に切り上げた。
「そうなんだよ。まあ、やることはないだろうけど、二人ともここでは好きにしてくれて構わないよ。」
心なしか、安堵した様子の尚希。
言いたいことを言い終えた彼は、すぐに顔を伏せてしまう。
机には大量の本やら書類やらが積み重なっていて、尚希が顔を伏せると、その姿は完全に本に隠れてしまう。
「何してんだ?」
拓也がすぐさま尚希に近寄って、その手元を覗き込んだ。
尚希は分厚い書類の束をめくって、先ほどの笑顔を一転させた険しい目つきで中身を読んでいた。
「ここ半年の死亡者数と行方不明者数の報告書を読んでたんだ。死亡者数はそんなに変わらないんだが、行方不明者数が増えててな…。特に有力な手がかりもないし、捜査は行き詰まってるらしい。まあ、色んな輩が集まる街だ。正直な話、誘拐なんて珍しくもないけど……この数はちょっとな。」
尚希の手元には白紙の紙が置かれ、そこに簡単なグラフが書かれていた。
グラフを見ると、半年前までは安定した数値を示していた行方不明者数が、そこを境に緩やかな上昇傾向を示している。
「時期的なものですか?」
実は、感じたことをそのまま訊ねる。
「それもある。だけど、一昨年まではここまでの伸び率はなかった。過去五年の年度報告を見ても、今年ほどの人数はいない。今年は今の時点で、去年の一年間に並ぶ勢いだ。」
グラフの横に文字を書き足しながら、尚希が書類をめくった。
実たちが見ている間にも、尚希は黙々と書類の要点を白紙に書き出していく。
あっという間に一束の書類を読み終えた彼は、それ脇に置いてから反対側に積まれていた別の書類を掴んだ。
「これ……全部読んだのか?」
拓也が戸惑いぎみに訊ねる。
尚希が書類を置いた場所には、すでに多くの書類が山積みになっていた。
「まあな。年に一回しか帰れないもんだから、いつもこのくらい溜まるんだよ。将来に向けての勉強ってことで、毎年必ず読んでた。これを処理する勉強も、魔法の勉強と並行してやってたしな。こんなオレでも、地球に行くまでは真面目にここに戻るつもりがあったんだよなぁ……」
皮肉そうに笑う尚希。
ちょうどその時、ドアをノックする音が聞こえた。
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