世界の十字路

時雨青葉

文字の大きさ
413 / 678
第2章 影

報告書が語る異常事態

しおりを挟む
 言うなればそこは、執務室といった表現が似合う部屋だった。


 部屋の一番奥に机がえられていて、その手前には背の低いテーブルとソファーがある。


 奥の机の両脇には本棚があって、それぞれが書類や本でぎっしりと埋まっていた。


 自分たちが通された客室とは違い、家具と調度品は全てブラウン系で統一。
 物は多いが、シンプルですっきりした部屋だ。


 実たちが室内の様子を観察しながら部屋に入ると、今度はドアが勝手に閉まった。


「おはよう。迷ったか?」


 一番奥の机からひょっこりと顔を出している尚希が、実たちに柔らかい微笑みを向けた。


「まあ、少し。」


 答えると、尚希はくすりと笑って肩をすくませる。


「やっぱりな。オレが住む分には広すぎるんだけど、交易の街だけあって、ここには色んな客が来るからさ。どうしても広くせざるを得ないんだ。二人とも、昨日はよく眠れたか?」


「大丈夫です。」
「ならよかった。」


 一つ頷いた実に、尚希は穏やかにそう言った。
 その雰囲気からは、今朝見た苛烈な激情は見受けられない。


「そういえば、ここの裏に建物がもう一つあるんですね。窓から見えたんですよ。」


 尚希を見たことには触れず、実は建物のことのみを話題に出した。


「え? ……ああ、あるよ。」


 尚希は普通にそう返してきた。


「………」


 実は一瞬、目を光らせる。


 尚希が見せたほんの一瞬、本当にわずかな表情の変化を、実は完全に見破っていた。


 尚希は、明らかに表情を凍らせていた。


 触れてほしくないものに触れられた。
 そんな印象を受ける。


 やはり、今朝見た彼に漂っていた殺気は本物のようだ。


「ただの教会だよ。街の人たちがよく来るんだ。大したものがあるわけじゃないけどな。」


 何事もないように言う尚希だが、そんな彼の態度はかえって不自然に見えて仕方なかった。


 おそらく、尚希の秘密に関わる何かが教会にあるのだろう。


「へえ、そうなんですか。」


 特に核心に迫ることはせず、実はこの話を早々に切り上げた。


「そうなんだよ。まあ、やることはないだろうけど、二人ともここでは好きにしてくれて構わないよ。」


 心なしか、安堵した様子の尚希。
 言いたいことを言い終えた彼は、すぐに顔を伏せてしまう。


 机には大量の本やら書類やらが積み重なっていて、尚希が顔を伏せると、その姿は完全に本に隠れてしまう。


「何してんだ?」


 拓也がすぐさま尚希に近寄って、その手元を覗き込んだ。


 尚希は分厚い書類の束をめくって、先ほどの笑顔を一転させた険しい目つきで中身を読んでいた。


「ここ半年の死亡者数と行方不明者数の報告書を読んでたんだ。死亡者数はそんなに変わらないんだが、行方不明者数が増えててな…。特に有力な手がかりもないし、捜査は行き詰まってるらしい。まあ、色んなやからが集まる街だ。正直な話、誘拐なんて珍しくもないけど……この数はちょっとな。」


 尚希の手元には白紙の紙が置かれ、そこに簡単なグラフが書かれていた。


 グラフを見ると、半年前までは安定した数値を示していた行方不明者数が、そこを境に緩やかな上昇傾向を示している。


「時期的なものですか?」


 実は、感じたことをそのまま訊ねる。


「それもある。だけど、一昨年まではここまでの伸び率はなかった。過去五年の年度報告を見ても、今年ほどの人数はいない。今年は今の時点で、去年の一年間に並ぶ勢いだ。」


 グラフの横に文字を書き足しながら、尚希が書類をめくった。


 実たちが見ている間にも、尚希は黙々と書類の要点を白紙に書き出していく。


 あっという間に一束の書類を読み終えた彼は、それ脇に置いてから反対側に積まれていた別の書類を掴んだ。


「これ……全部読んだのか?」


 拓也が戸惑いぎみに訊ねる。
 尚希が書類を置いた場所には、すでに多くの書類が山積みになっていた。


「まあな。年に一回しか帰れないもんだから、いつもこのくらい溜まるんだよ。将来に向けての勉強ってことで、毎年必ず読んでた。これを処理する勉強も、魔法の勉強と並行してやってたしな。こんなオレでも、地球に行くまでは真面目にここに戻るつもりがあったんだよなぁ……」


 皮肉そうに笑う尚希。


 ちょうどその時、ドアをノックする音が聞こえた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...