世界の十字路

時雨青葉

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第2章 影

領主代理

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 尚希が入室を許可するより前に、ドアが勝手に開かれる。


「キース君、手配が整ったよ……って―――」


 バサバサ、と。
 書類の束が派手に散らばる。


 入ってきたのは、四十代後半くらいの男性だった。


 若干白髪が混じり始めてきたダークグレーの髪はきっちりと整えられていて、服装もそれに合わせるように堅い雰囲気だ。


 彼は書類が落ちたことも気にせず、ただ一点だけを見つめていた。


「?」


 その視線の先にいる実は、可愛らしく首を傾げる。


「え、え、え……」
「叫ぶなよ、カルノ。それと、こいつはエリオス様じゃないからな。」


 尚希が先手を打つ。


「ああ、なるほど。そういうことね。」


 実も、それを聞いて納得。


 落ち着き払った尚希と、にやりと口の端を吊り上げる実。


 その双方を見ながら、カルノはしばらく空気を求める魚のように口をパクパクとさせていた。


「紹介するよ。オレの代わりにニューヴェルの領主業務をしてるカルノだ。お前は、何度か会ったことがあったよな?」


 尚希に同意を求められて、拓也が頷いて返す。


「そっか。今領主をやってる人って、元は知恵のそのの人間って言ってましたもんね。だったら、俺の話くらいは聞いててもおかしくないか。驚くのも仕方ないですね。」


 実は机に腰かけて、未だに驚きから立ち直れない様子のカルノを見やる。


 元々知恵のそのにいて、今はこんな大都市の領主代理を務める人間だ。
 過去に城から自分や父の捜索依頼を受けていたとしても、なんらおかしくはない。


 そして、自分が国にとってどんな存在なのかということも、捜索依頼を受けた時に聞かされていることだろう。


「なんで……君がここに……っていうか、キース君! こんなことが国に知られたら―――」


「向こうは、オレがこいつと関わりがあるのを知ってるよ。」


 尚希がさらりと言うと、カルノはさらに目を見開く。


「ええ!? じゃあ、なんで―――」
「そんなの知らないよ。」


 次に口を開いたのは実だ。


「城の連中は、俺がどこにいて誰と関わってるのか知った上で、あえて俺を野放しにしてるんだ。……どんな目的があるのかは、知らないけどね。」


 途中から落ちた声のトーンに含まれた威圧的な響き。
 それに、カルノがかたを飲み下した。
 そのまま実が横目にカルノを見れば、彼はあからさまに怯えた光を目に宿す。


 そこそこ長い時間を生きてきた大人が、こんな子供一人に萎縮しているこの状況。


 その様子は一見異常であるが、この上なく正しい光景でもあった。


 実際に、実はそれだけ異質で威圧的な雰囲気を放ち、果てしない虚無をたたえたような目をしていたのだから。


「実、あんまりビビらすなよ。警戒しなくても、カルノは急に襲ってくるような凶暴な性格はしてないから。」


「見てれば分かりますよ。ただ、こればかりは癖でどうしても……ね。」


 実は息を吐き、無意識にこもっていた肩の力を抜いた。


 初対面の相手をとことん警戒してしまうのは、意識したところでどうにもならない習慣みたいなものになっている。


 一目見て自分に無害だと分かっても、その裏まで見抜かないことには安心できないのだ。


 実はカルノから目をらして、静かに目を閉じる。
 すると、実からほとばしっていた異様な雰囲気が一瞬で霧散した。


 実はもたれかかっていた机から勢いをつけて離れると、カルノの前に立つ。


「はじめまして。宮崎実です。」


 微笑んで手を出すと、カルノは戸惑いながらも実に応えた。
 お互いに軽く手を握り合い、すぐにその手を離す。


「そういえば、カルノ。手配が整ったって?」


 尚希が、書類の向こうからカルノに訊ねた。


「え? ……あ、そうそう。」


 話の流れについていけなかったらしく、カルノは一度まばたきをした後に慌てて頷いた。


「今日は一日空けておくから、いつでも来ていいって言っていたよ。」
「おお、さすがはナザルさん。話が分かる人だな。」


 尚希は機嫌をよくした様子で、さくさくと書類を片付け始める。


「ナザルさんって?」


 拓也が訊ねる。


「ナザルさんは、ニューヴェルの治安維持部隊の人だよ。昔から、何かと世話になっててさ。ちょっと話を聞きたくて、カルノにコンタクトを取ってもらってたんだ。」


 最初の乱雑さはどこへやら、みるみるうちに机の上が綺麗に整っていく。
 机の上を片付け終えた尚希は椅子から立ち上がると、実と拓也を見て笑った。


「暇だろうし、お前らも来るか?」

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