世界の十字路

時雨青葉

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第2章 影

実、困惑。

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 ―――熊男。


 ナザルに会っての第一印象は、まさにそれだった。


 恰幅かっぷくのいい体型に黒い肌。
 もはやもみあげと繋がっている無精髭ぶしょうひげ


 警察に関わる人間としてこういう人物像が描かれることは物語で多々あるが、それをここまで忠実に再現している人間がいようとは。


 出る言葉もなく棒立ちになる実と拓也を前に、当の本人であるナザルはひげをさすりながら笑った。


「まあまあ、んな固まるこたねぇって。化け物じゃねーんだからよ。」


 バンバンと拓也の肩を叩いて、ナザルはあっけらかんと言う。
 もう慣れた反応なのか、別段傷ついたような素振りもない。


「その見た目は、子供にはトラウマとして十分だよ。だからせめて、ひげれって言ってるのに。」


 尚希が溜め息をつくが、ナザルは全く気にしていないようだ。


「別にいいじゃねぇか。分かる奴には、おれが悪者じゃねぇって分かるんだからよぉ。なあ?」


 間近に顔を近付けられ、無意識に後ずさった実は拓也の後ろに半身を隠した。
 そんな実に、ナザルが目をまんまるにする。


「おいおい、逃げるなって。これじゃあ、おれが悪者に見えっだろーが。」


 大振りな仕草で手招きされるが、実は野生動物モードへ完全移行。
 目だけでナザルを見据みすえたまま、一切動かない。


「ナザルさん、やめといてやれよ。そいつの警戒心は折り紙つきだ。せめて、五分は我慢な。」


 見かねた尚希がナザルを止めに入る。
 それを聞いたナザルは、つまらなそうに身を引いた。


 距離が開いたことで安心したのか、実の体から若干力が抜ける。


「実、大丈夫……か?」


 拓也は後ろを向いて訊ねて、少し驚いた。


 敵意を爛々らんらんとさせているかと思いきや、そこには当惑顔を浮かべている実がいたからだ。


 カルノに見せたような、あからさまな警戒心と異様な雰囲気はない。


 目の前のものを処理しきれないとでもいうような、ただ純粋に困っているような表情がそこにあった。


「実? どうしたんだ?」
「えっと……その……」


 自分でも上手く説明がつかないのか、実の言葉は途切れ途切れだ。


「なんだろ…? この人……清々しいまでに裏表がないっていうか……もう、見たままが全部っていうか…。なんか、上手く表現できないな…。とりあえず、初めて会うタイプの人だから、こう……どうすればいいのか……」


 言いながら、実は首をひねる。


 簡単に言えば、判断がつかないのだ。
 ナザルが気を許していい相手なのかどうか。


 大抵の人間は少なからず、他人に見せる顔と見せない顔を持っている。


 特に、自分を狙う国の中枢のような場所には様々な因縁いんねんやら陰謀やらが渦巻いているので、何もかもをおおっぴらにというわけにはいかない。


 そういう人間ならば、ある程度の傾向が分かっているので判断に困ることはない。


 だが、ナザルのような人間となると分からない。


 単純に裏表がないだけなのか。
 それとも、そう思わせるくらいに裏を隠すのが上手いのか。


「……ぶっ」


 実が一人でうなっていると、尚希が突然噴き出した。


 びっくりした実が尚希を見ると、我慢できなくなったらしい尚希が腹を抱えて大笑いしている。


「……なんで笑うんですか?」


 おずおずと訊ねる実。
 すると、尚希は目の端に浮かんだ涙を拭って口を開いた。


「いや……実、正確すぎ…っ。裏表がないって……あははっ…。確かに、ここまで馬鹿正直な人、向こうにはそうそういないもんなぁ。」


 その発言に、ナザルの眉がピクリと動いた。


「んだとぉ……こら、キース!」
「だって、一度でもまともに嘘つけたことあるのかよ?」
「む…」


 尚希の指摘に言い返せないのか、ナザルは口をへの字にして黙り込んだ。
 そんなナザルを、尚希はにやにやしながら見ている。


「だー、やめやめ!」


 ナザルが髪を掻き回して、実たちに背を向けた。


 彼は、近くの棚に積んであった書類の束を掴んで机の上に置く。
 乱暴な音を立てる机が、その書類の重さを物語っていた。


「おらよ。お前の目的はこっちだろうが。」


 ナザルが出した書類を見た瞬間、尚希の表情から笑みが消えた。


 書類に手をかけながら椅子に座る尚希。
 実と拓也は尚希の後ろに立って、尚希と一緒に書類を覗き込んだ。


 それは、行方不明者の調査書だ。


 写真と共に、名前からその経歴まで、行方不明になった人物に関わることが事細かに記されている。


「今年に入ってから、これで全部?」
「ああ。」


 尚希は目を忙しく動かして、どんどんページをめくっていく。
 その間にも、ナザルは自分の手帳を広げて話を進めた。


「傾向としては、例年通り若者や子供が多いな。大体は、人身売買目的の人さらいと見て間違いないだろう。だが、今年はちょっとばかし毛色が違う気がするな。これはあくまでもおれの勘だが、例年のやつに便乗して、何か別の組織が動いてるように思える。」


 ナザルは、尚希が持つ書類とは別の書類を取り出す。
 彼は書類をじていた紐を解いて途中で二つに分けると、それを尚希の前に並べた。


「年齢、性別、地域。被害者の分け方は色々あるが、今年はこういう分け方もできる。最終目撃時間だ。」


 尚希は黙ったままナザルを一瞥いちべつし、話の続きをうながす。


「多くは昼頃から夕方にかけてなんだが、こっちの少数派は逆に朝から昼間にかけてが最後に目撃された時間だ。こういう分け方をすると、目撃時間が午後のグループは例年にならって若者や子供中心のデータが取れて、なんら違和感はない。問題は、少数派のグループだな。こっちは年齢層も性別も幅広い。被害者の数は多くはねえが、狙う標的が無差別っていうだけで厄介だ。」


 そこまで話を聞いた尚希は、ナザルが二つに分けた書類の内、少数グループの調査書を手に取った。


 確かにナザルの言うとおり、そちらのグループの紙は薄い。
 せいぜい七~八人分といったところだろう。


 尚希は、その調査書を先ほどまでとは違って丁寧に読み込んでいく。
 実と拓也がそれを一緒になって読んでいると―――


「そおりゃ!」
「わあっ!?」


 ナザルと実が、それぞれに叫び声をあげた。

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