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第3章 潜入
どうしてこうなるんだよ!!
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念には念を入れて、気配を殺しながら色々と探った。
しかし、結論から言えば、そんなことは必要なかったのかもしれない。
一通り探ってみたが、手がかりは一切なかったからだ。
実の香りも全然感じられない。
これだけ広い屋敷だ。
ここからは離れたところに実を隠しているのかもしれない。
期待はあまりしていなかったが、こうも綺麗に手がかりがないと、自分の中に疑念が浮かぶ。
本当に、実はここにいるのだろうか……と。
嫌な考えに陥りかけたことにハッとして、拓也は慌てて頭を振る。
とりあえず、今は素直に尚希のところに戻ろう。
この後の方針は、彼と話し合って決めればいい。
元来た道を戻る拓也の足取り。
しかしそれは、徐々にゆっくりとしたものに変わっていく。
前方には大広間に通じる扉が見えるのだが、その前にあの女性が立っていた。
肩掛けを握り締めながら、そわそわと落ち着きがない様子だ。
(まさか……)
背筋に、冷や汗が浮かんだような気がした。
そんな拓也の姿を、忙しなく動いていた女性の瞳が捉えたのはその時のこと。
ぱあっと。
その表情が、嬉しそうに輝いた。
(う…っ)
とっさに浮かべた愛想笑いが引きつったのは、言うまでもない。
「あの…。さっきは、ご親切にありがとうございました。」
小走りで近寄ってきた女性は、拓也の前で優雅に一礼してみせた。
「私は、ニルケーウォル伯爵が娘のルーナと申します。見かけないお顔ですね。」
「あ……えっと……」
ここは素直に名乗るべきか、曖昧にごまかしておくべきか……
逡巡し、拓也はごまかす方を選ぶことにする。
「ご丁寧にありがとうございます、ルーナ様。本日は、主人の付き添いで初めてここに来たんです。一介の使用人に過ぎませんので、どうかお気に留めずに。」
差し障りのないように言うと、ルーナは笑みを深めた。
「まあ、そうだったのね。ご主人の方は?」
「おそらくは、今頃囲まれているかと。」
苦笑いを浮かべて答えると、ルーナも同じように笑った。
「あら。じゃあ、ご主人は有名な方なのね。こういう場では皆が自分の足場を固めようとするから、目的の人以外にはあまり興味がないのよ。私も初めはよく声をかけられたけど、こういう場が苦手であまり話せないから、今じゃ放っておかれがちなの。だから、さっきはちょっと嬉しかったわ。本当にありがとう。」
頬を紅潮させて、ルーナは拓也に微笑みかける。
そんなルーナに抱いたのは、途方もないめんどくささ。
「あの、まさかとは思いますけど……お礼のためだけに、ずっとここで待っていたのですか?」
「え? もちろんそうよ。」
ルーナは当然といったように頷いた。
外れてほしかった予想が的中して、拓也は頭を抱えたくなる。
「いけません。こんな寒いところにいたら、お体に障ります。それに、あまり長い間会場を離れてしまっては、家の方が心配しますよ。」
こちらとしては当然のことを言ったまでなのだが、何故かルーナは途端にむっとして頬を膨らませてしまった。
「お父様は、どうせ自分の仕事の根回しに忙しくて、私のことなんか気にしてないわよ。……でも、ずっと逃げていたら、また怒られてしまうわね。」
家の話を持ち出されたことに唇を尖らせながらも、やはり父親に怒られることは都合が悪いのだろう。
ルーナは重い息を吐き出して、大広間への扉を見つめている。
(よし、そのまま早く戻ってくれ。)
心の中で、拓也は切願に近い気持ちで祈る。
「そうだわ!」
その時、いいことを思いついたと言わんばかりにルーナが両手を叩いた。
「あなたのご主人を紹介してくださいな。」
晴れやかな笑顔で、ルーナは拓也の手を取った。
「へ…?」
期待を百八十度裏切るルーナの言葉に、どうにか維持していた愛想笑いも吹き飛んでしまう。
「だって、お父様が怒る理由って、大体は私が誰とも話さずに逃げてしまうことなんだもの。私が誰かと話しているところを見れば、席を外したことはちょっとくらい大目に見てくれるわ。あなたのご主人なら、とてもいい方だと思うの。ぜひ連れていってくださいな。」
「あっ……ちょっと…っ!!」
ぐいっと引っ張られて、扉の方へと連行される。
拒否したい気持ちは山々だが、相手が悪い。
この屋敷での尚希の立場を考えると、どこのお貴族様かも知らない彼女の腕を無理に振り払うことはできなかった。
そして、ルーナに自分を離すつもりがないことは、その手に込められた力から容易に想像できる。
さらに厄介だ。
(―――どうしてこうなるんだよ!!)
拓也の絶叫は、音にならずに消えた。
しかし、結論から言えば、そんなことは必要なかったのかもしれない。
一通り探ってみたが、手がかりは一切なかったからだ。
実の香りも全然感じられない。
これだけ広い屋敷だ。
ここからは離れたところに実を隠しているのかもしれない。
期待はあまりしていなかったが、こうも綺麗に手がかりがないと、自分の中に疑念が浮かぶ。
本当に、実はここにいるのだろうか……と。
嫌な考えに陥りかけたことにハッとして、拓也は慌てて頭を振る。
とりあえず、今は素直に尚希のところに戻ろう。
この後の方針は、彼と話し合って決めればいい。
元来た道を戻る拓也の足取り。
しかしそれは、徐々にゆっくりとしたものに変わっていく。
前方には大広間に通じる扉が見えるのだが、その前にあの女性が立っていた。
肩掛けを握り締めながら、そわそわと落ち着きがない様子だ。
(まさか……)
背筋に、冷や汗が浮かんだような気がした。
そんな拓也の姿を、忙しなく動いていた女性の瞳が捉えたのはその時のこと。
ぱあっと。
その表情が、嬉しそうに輝いた。
(う…っ)
とっさに浮かべた愛想笑いが引きつったのは、言うまでもない。
「あの…。さっきは、ご親切にありがとうございました。」
小走りで近寄ってきた女性は、拓也の前で優雅に一礼してみせた。
「私は、ニルケーウォル伯爵が娘のルーナと申します。見かけないお顔ですね。」
「あ……えっと……」
ここは素直に名乗るべきか、曖昧にごまかしておくべきか……
逡巡し、拓也はごまかす方を選ぶことにする。
「ご丁寧にありがとうございます、ルーナ様。本日は、主人の付き添いで初めてここに来たんです。一介の使用人に過ぎませんので、どうかお気に留めずに。」
差し障りのないように言うと、ルーナは笑みを深めた。
「まあ、そうだったのね。ご主人の方は?」
「おそらくは、今頃囲まれているかと。」
苦笑いを浮かべて答えると、ルーナも同じように笑った。
「あら。じゃあ、ご主人は有名な方なのね。こういう場では皆が自分の足場を固めようとするから、目的の人以外にはあまり興味がないのよ。私も初めはよく声をかけられたけど、こういう場が苦手であまり話せないから、今じゃ放っておかれがちなの。だから、さっきはちょっと嬉しかったわ。本当にありがとう。」
頬を紅潮させて、ルーナは拓也に微笑みかける。
そんなルーナに抱いたのは、途方もないめんどくささ。
「あの、まさかとは思いますけど……お礼のためだけに、ずっとここで待っていたのですか?」
「え? もちろんそうよ。」
ルーナは当然といったように頷いた。
外れてほしかった予想が的中して、拓也は頭を抱えたくなる。
「いけません。こんな寒いところにいたら、お体に障ります。それに、あまり長い間会場を離れてしまっては、家の方が心配しますよ。」
こちらとしては当然のことを言ったまでなのだが、何故かルーナは途端にむっとして頬を膨らませてしまった。
「お父様は、どうせ自分の仕事の根回しに忙しくて、私のことなんか気にしてないわよ。……でも、ずっと逃げていたら、また怒られてしまうわね。」
家の話を持ち出されたことに唇を尖らせながらも、やはり父親に怒られることは都合が悪いのだろう。
ルーナは重い息を吐き出して、大広間への扉を見つめている。
(よし、そのまま早く戻ってくれ。)
心の中で、拓也は切願に近い気持ちで祈る。
「そうだわ!」
その時、いいことを思いついたと言わんばかりにルーナが両手を叩いた。
「あなたのご主人を紹介してくださいな。」
晴れやかな笑顔で、ルーナは拓也の手を取った。
「へ…?」
期待を百八十度裏切るルーナの言葉に、どうにか維持していた愛想笑いも吹き飛んでしまう。
「だって、お父様が怒る理由って、大体は私が誰とも話さずに逃げてしまうことなんだもの。私が誰かと話しているところを見れば、席を外したことはちょっとくらい大目に見てくれるわ。あなたのご主人なら、とてもいい方だと思うの。ぜひ連れていってくださいな。」
「あっ……ちょっと…っ!!」
ぐいっと引っ張られて、扉の方へと連行される。
拒否したい気持ちは山々だが、相手が悪い。
この屋敷での尚希の立場を考えると、どこのお貴族様かも知らない彼女の腕を無理に振り払うことはできなかった。
そして、ルーナに自分を離すつもりがないことは、その手に込められた力から容易に想像できる。
さらに厄介だ。
(―――どうしてこうなるんだよ!!)
拓也の絶叫は、音にならずに消えた。
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