世界の十字路

時雨青葉

文字の大きさ
682 / 714
第3章 何に代えても貫きたい想い

胸に刻む、己の姿。

しおりを挟む



 ―――殺してしまうかと思った。




 部屋に戻った拓也はうなだれるようにベッドに腰かけ、自分の手を見つめていた。


 あの時、クルオルの首元でやりを止められたのは、ほとんど奇跡だった。
 ちょっとでも力加減を誤っていたら、今頃クルオルは血の海に沈んでいたことだろう。


「やばいな、おれ……」


 呟いて、拓也は額に手をやる。


 少しだけ怖いというのが、今の正直な気持ち。


 だが、その恐怖は一歩間違えばクルオルをあやめていたことに対するものではない。


 怖かったのは、クルオルを殺すことに自分が躊躇ちゅうちょいだかなかったこと。
 そして、誰かをあやめるという場面に直面した自分が、そこまで恐怖しなかったことだ。


 実の安全のためなら、進んで悪者になろう。


 先ほどクルオルに放った自分の言葉が、脳裏によみがえってぐるぐると巡る。


 あの言葉に嘘はない。


 そもそも、敵が実を殺すつもりでいるのに、こちらが手加減する理由などないではないか。


 誰かの命を奪おうとするならば、己も命を取られる覚悟を持つべきだ。


 この世界は、地球のように皆が守られた世界ではないのだから。


 誰かが実を狙ってよからぬことを企むのなら、それ相応の制裁を受けてもらうしかあるまい。


 時と場合によっては、人をあやめることもあるかもしれない。


 そのことに対して、清々しいほどに躊躇ためらいや葛藤かっとうがなかった。


 もちろん、誰も彼も殺すべき対象だとは思わない。
 だが、実の敵であると判断したが最後、自分は手を汚すことをいとわないだろう。


 クルオルを殺しかけた自分の本能が、そう訴えてくる。


 さらに、本能の訴えを冷静に受け取りつつも、そうなるならそれも仕方ないと、その訴えを簡単に片付ける理性もいた。


 条件が揃ってしまえば、自分は迷いなく血の道に足を踏み入れる。


 あくまでも冷静に。
 自分の行いがどんなものかを理解した上で。


「なんか……ちょっとだけ昔に戻ったみたいだな。」


 ふと思い出した。
 家族を殺されかけ、無理やり知恵のそのに連れていかれた当初のことだ。


 あの時はとにかく復讐心しかなくて、知恵の園の奴らなど皆殺してしまえばいいのだと思っていた。


 殺す理由や殺意のもとになる感情は変わっても、本質的な思考回路は同じように思える。


 だとすれば、今持っているこの気持ちや考え方は、自分の根幹に根付いているものなのかもしれない。


 そこまで思い至って、拓也は思わずベッドに仰向けに倒れた。
 岩の天井を仰ぎ、大きな溜め息をついて腕で両目を塞ぐ。


「どうにか折り合いつけていかないとな……これは、骨が折れそうだ。」


 自分が直情的で融通がかない方だとは尚希に散々言われてきたし、さすがに自分でも自覚している。


 さらに今は、復讐心を失って自分の感情の行き場を失っていたこれまでの分、実をあるじだと認めた魂の共鳴に依存しているのも分かっている。


(おれは……実や尚希ほど、優しい人間じゃない。)


 それを、しみじみと実感していた。


 ワイリーの一件で戦った時も、先ほどクルオルと戦った時も、相手を傷つけることになんの抵抗もなかった。


 理性を保っていながらも、あえて燃える怒りに任せてやりを振るった。


 何度その過去を思い返したところで、そのことを後悔する気持ちなんざひと欠片かけらもないけど。


 ふと、拓也はそこで淡く微笑む。


 そう。
 後悔していないのだ。


 自分が冷酷な面を持っていると知っても、不思議とそれを嫌だとは思わなかった。


 躊躇ためらいや迷いがないということは、いざという時に全力で実を守れるということだ。


 それは、自分で定めた自分の責務をいつでも全うできるということ。


 それならば、こうして自分の本質に気付いたことは悪いことではなく、逆に自分の感情をコントロールする手助けとなるいいきっかけだったと言える。


 ―――もう遠慮はしないと、そう決めたのだから。


 拓也は自分の胸に手を当てる。


 今まで以上に、自分自身と向き合えている気がした。
 すっきりと晴れた思考回路は、明確に自分がやるべきことを示している。


「さてと。クルオルに言うことは言ったし、もう大人しくしてる理由はないな。」


 口角を吊り上げる拓也の表情に、暗い色は一切存在していなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日発売! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

処理中です...