世界の十字路

時雨青葉

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第4章 どんな姿でも

吐き出してしまった後悔

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「―――っ」


 目を開くと、岩でできた天井が目の前に広がっていた。


 身を起こしてみれば、柔らかいベッドと自分にかけられている毛布が視界に飛び込んでくる。


「あれ……俺……」


 ベッドに入った記憶がない。
 それ以前に、いつから眠っていたのかさえ覚えていない。


 混乱して頭を抱えていると―――


「あ、起きたか。」


 思ったよりも間近から声をかけられた。
 首を回すと、ベッドの側には尚希がいて、こちらに優しげな表情を向けている。


 どうやら、テーブルの近くにあった一人がけのソファーをわざわざベッドの隣まで持ってきたらしい。


「あの、俺いつ……」


 訊ねると、尚希は笑みに苦いものをにじませた。


「話してる最中に、いきなり気絶した。よっぽど疲れてたんじゃないか?」
「えっ…」


 さすがに少し驚いた。
 気を失うほどのことをした記憶がないからだ。


 この集落に来てからというもの、魔力を吸い取られている状態とはいえ、いつもより休んでいるというのに。


 自分の状況を把握できずに目をまたたく実に、尚希はくすりと笑い声を零す。


「それか、自分の気持ちを少しでも吐き出せて、安心したんじゃないか?」
「!!」


 告げられた言葉の内容で、記憶にかかっていたもやが綺麗に晴れた。
 気を失う前に自分が尚希に何を言っていたのかが鮮明によみがえる。


「すみま―――わっ…!?」


 言いかけた言葉は、急に髪の毛を乱暴に掻き回してきた尚希の手によってはばまれてしまった。


「言うな。謝るんじゃない。」


 強い口調で、尚希は実の言葉を止めた。


「誤解するな、実。オレは、迷惑だなんて思ってないから。むしろ嬉しかった。久々にお前の本音を聞けて。」


 言葉どおり嬉しそうに表情をやわらげて、彼はすぐにまた口を開く。


「……ごめんな。オレには、実の苦しみに答えを与えてやることはできない。なんのために生きるかなんて、他人に答えを示されても自分の答えにはならないからな。でも、これだけは言えるよ。」


 実と目線を合わせた尚希は、諭すように実へと語りかける。


「〝なんのために〟なんて、今は無理に考えなくてもいい。お前は、まだまだ子供なんだ。そんなの分からなくたって誰も文句言わないし、まだ分からなくて当然だ。生きる目的なんて、とりあえず生きてればそのうちポンと出てくるよ。どうしても理由が欲しいなら、ひとまずは自分が笑っていられるために生きてればいい。実が自分のために生きて、それで笑っていられれば、オレも拓也も、エリオス様だって、それだけで嬉しいんだから。」


 「な?」と、尚希は晴れやかに笑って見せる。
 それに実は何も言うことができず、眉を下げて唇を噛んだ。


「……少し、外の風を浴びてきてもいいですか?」


 結局、口をついて出たのは尚希から逃げるような言葉。
 尚希はそれを止めはしなかったし、こちらを責めるようなこともしなかった。


「………っ」


 部屋を出て、たまらず走り出す。


 階段へ飛び込み、とにかく上を目指して駆け上がって、最上階手前の踊り場でしゃがみ込んだ。


「何やってんだ、俺……」


 どろどろとした後悔が胸の中を満たしていく。


 自分の本音を聞けて嬉しかったと、尚希はそう言ってくれた。
 でも、尚希の切なげな表情が頭を離れない。


 知っていた。


 自分が胸の内に抱えるこの気持ちを一部でも零してしまえば、尚希や拓也があんな顔をすることくらい。


 知っていたのに―――


「見たぞ。全部。」


 ふと、脳内で声が響く。


 いつもなら邪険に思って適当にあしらうこの声だが、今はそうする気すら起こらなった。


(見たって、何をだよ……)


 口には出さず、無気力に呟く。


 それは、ノルンに対して問うたというよりは、無意識に出てきた感想のようなものだった。


「だから、全部だ。お前の過去も、今何を考えてるのかも全部。」
「はっ!?」


 さすがに予想外の発言だったので、気付けばそんな素っ頓狂な声をあげていた。


「おまっ……何勝手に見てんだよ!」
「私のせいではないわ! 勝手に流れ込んできたのだ。お前の泣き声と一緒にな。」
「泣き声…?」


 顔をしかめると、ノルンは呆れたように大きく溜め息を吐いた。


「お前、自分の心が泣いていることにも気付いていないのか。まったく……」


 何故か、ノルンはひどく憤慨している様子だった。
 ぶつぶつと何かを呟いていた彼は、ふと……


「立て。」


 そんなことを言ってきた。


「はあ?」


 意図が分からずそう返すも、ノルンがそれを聞く素振りは一切なかった。


「いいから立て! それで、私の言うとおりの道を進め!」
「なんで……」


「理由などどうでもいいのだ! とにかく私の言うとおりにせぬか、分からず屋!」
「分からず屋なのはどっちだよ! 分かったから、それ以上叫ぶな! 頭が痛い!!」


 ひとまず、ここは自分の頭のためにもノルンに従う他なさそうだ。


 実は渋々立ち上がり、脳内で爆音をまき散らすノルンの声に従って歩き始めるのだった。

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