世界の十字路

時雨青葉

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第5章 精霊の王

実が出した答え

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「待って!!」




 ずっと続いていた沈黙を破ったのは、どこからともなく響いた声。


 聞き覚えのあるその声に、その場にいた全員が目を見開いて硬直した。
 それから間もなくして、湖のふち辺りで盛大に水飛沫しぶきが上がる。


「実!!」


 その姿を確認した瞬間に、拓也はエリオスを通り過ぎて実に駆け寄っていた。


 実は、腕に抱き抱えていたシャールルをゆっくりと地面に下ろした。
 それから自分も地面に上がろうとしたところで、拓也がちょうど手を伸ばしてくる。


「シャールル……あなた……」


 イルシュエーレは、一瞬で事態を察したようだった。


「イルシュエーレ様、ごめんなさい。」


 シャールルは一度頭を下げ、またすぐに視線を上げる。


「でも、こんなことだめだよ。今の態度を続けても、何も状況は変わらない。実だって困るだけだ。イルシュエーレ様だって、そう思ってたから迷ってたんでしょ?」


 シャールルの指摘に、ぐっと唇を噛むイルシュエーレ。


「だから……僕は―――」


 ふいに言葉が途切れたと思った瞬間、シャールルがその場にぱたりと倒れた。


「あ…」


 顔色をなくす拓也の前で、湖から上がった実はその小さな体を抱き上げる。


「大丈夫。力を使いすぎて、疲れただけだよ。」


 安心させるために拓也にそう言って、実はゆっくりと立ち上がった。
 しかし、その動きはどこかぎこちない。
 実もかなりの魔力を消費しているだろうことは、容易に想像がついた。


 実は深く息を吐き出し、気まずげに目をらしているイルシュエーレを見つめる。


「イルシュ、シャールルを責めないであげて。シャールルは、俺のわがままに協力してくれただけだから。」


「………」


「ねえ、イルシュ。」


 イルシュエーレは黙ったまま、目も合わせてくれない。
 しかし、決して自分を無視しているのではないと、それは知っている。


 だから、実は構わずに続けた。


「俺さ、ここのみんなが大好きだよ。俺に初めてのことをたくさん教えてくれたこの場所も、とても大切に思ってる。でも、ここに来てくれた拓也や尚希さんや……父さんも、俺のすごく大事な人たちなんだ。それに優劣なんてつけられないってことは、分かってほしい。」


 拓也たちだけではなく、エリオスも目をみはる。


 直接見たわけでもないのに、実はこの場にエリオスがいることを分かっているのだ。


 実は一歩踏み出すと、イルシュエーレの手をそっと握った。
 その行為が予想外だったのか、イルシュエーレが瞠目して実を見つめる。
 そんなイルシュエーレに、実は穏やかな笑みを見せた。


「ありがとう、イルシュ。ずっと俺を守ってくれて。俺に安らげる居場所をくれて。何度ありがとうって言っても足りない。感謝してる。今回のことも、本当に嬉しかった。だから、これでイルシュが自分を責めたりする必要は全くないよ。……でも、ごめんね。俺は、ずっとここにいるわけにはいかないんだ。」


 はっきりと告げた瞬間、イルシュエーレの顔が泣きそうに歪む。


 覚悟していたとはいえ、やはり直接言われるとこたえる。
 イルシュエーレがそう思っていることは、その表情からも明らかだった。


 悲しげな顔をするイルシュエーレに苦笑しながら、実はイルシュエーレの手を握る手に力を込めた。


「ごめん。だけど、ここにいても俺が見たものは変わらないんだ。俺は、それを変えなきゃいけない。」


「………っ!!」


 黙って実を見つめる皆の中で、エリオスだけが顔色を変えた。
 その些細な動揺を、実は敏感に感じ取る。


 どうやら、今の発言でエリオスは自分の変化に気付いたようだ。
 相変わらず勘のいい父だと思いつつ、実はれかけた意識を戻す。


「イルシュたちも拓也たちも大事。だからみんなを―――みんなが暮らすこの世界を、俺は全力で守りたいんだ。今まで守られてきた分、俺は俺なりの恩返しがしたい。今度は、俺にみんなを守らせてよ。」


 実はイルシュエーレの目をまっすぐに見つめて、笑みを深めた。

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