中途半端な俺が異世界で全部覚えました

黒田さん信者

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4,狩人

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 サイフォスさんの魔道訓練から数日間、俺はやる気に満ち溢れていた。まあ、そりゃそうだろ! だって雲の上の存在である、『天幻』の魔導師と会えるんだぜ!?
 しかし、サイフォスさんとの約束で、サイフォスさんの前以外では魔法を使うことは許されていないので、魔法の訓練はできない。
 でだ、この熱意とやる気が消えないうちに、前々から習ってみたかった弓を、唯一村で狩人をしているマザイに習うことにした。鉄は熱いうちに打てってな!




「ってことでマザ兄、弓を教えてくれよ!」
 ガラガラと勝手に扉を開き、狩人のマザイの小屋に押しかけた。ちなみにノーアポです!
「……んん? こりゃまた、いきなりだな……久しぶり、ネリア」
 真っ昼間からごろりと布団に寝っ転がった青年がこっちを向く。ちなみに今寝ているのは狩人が夜行性だからである。決して真っ昼間からだらだらしているわけではない……と思う。多分。うん、そういうことにしておいてあげて。

 この青年がマザイ・ヤラシオ。年は20歳。狩人としてはかなり若い。緑色の髪の毛がよく似合うイケメンだ。イケメン? イケメンか? まあ、イケメンかなぁ? 多分イケメン。
 マザ兄は最近一人前の狩人と親父さんに認めてもらったばかりだが、弓の腕前は抜群だ。狩人にしか使えない技なんかも習得していて、かなり優秀だ。ただ、女の子には絶望的にモテない。いやー、何でだろうな?
「まあ、別にいいんだけどさ、手土産無いの手土産」
 大きなあくびをしながら、ちゃっかり手土産を要求するあたり、さすがと言っていいだろう。そういうところが、モテない一要素かもな。
「んー、残念ながらないな」
 俺は手ぶらをアピールすべく、両手をパーにして見せる。
「うえー? やる気が起きねー。また今度な」
 とまた布団に潜り向こうを向いてしまった。しかも布団を深くかぶって。こういうところがモテない一要素だぞ。
 しかしまじか。そんなに手土産が欲しいのか。
 でも、今は何も持っていなかった。だから、俺は切り札を使うことにした。
「……あー、あー、残念。こんどサイフォスさんと会わせてあげられるかもしれなかったのになぁ」
 勝手に言っちゃってもいいのかわからないけど、まあいいだろう。
「……まじか!? やった! サイフォスさんとお話ができるぞ!」
 ガバッと布団から飛び起きマザ兄は大喜び。現金である。こういうところがモテない一要素だぞ。
 で、この喜びようからわかるように、実はサイフォスさん、この村の人気者なのだ! ファンクラブまであるらしい。そりゃまあ美人だしね。俺もマザ兄からこの前ファンクラブに勧誘された。(非)公式グッズまで存在しており、俺はちょっと、いや、かなり引いたので、丁重にお断りしておいた。
「よーし、そうと決まればやる気出して教えちゃうぞ!?」
「っし!」
 どうやら大正解だったみたいだな。まあ、俺はサイフォスさんに言うだけだし? 実際本人がOKを出すかわかんないし?
「じゃあ、弓は……これでいいか」
 そんな俺の心情など露知らず、マザ兄は小屋に立てかけてあった弓を上機嫌で俺に渡してくれた。
「やるよ。俺の新作の弓だ。飛びは保証する」
 自信満々のマザ兄に渡された弓は、なんだか俺の知っている弓とは大きく違う気がする。材質が違うのか? 木……じゃないな、それよりも固くて、軽い。一体なんだろう?
「この弓はな、普通のカシウッドじゃなく、バンブーウッドってのを使っているんだ。よくしなって、よく飛ぶぞ。さらに、新しい機構を取り入れてみたんだ。そのおかげで耐久力は三十パーセントアップ! 他にも色々……」
 なんだか熱く語っていたが、要するに、新しい素材を使った新型の弓らしい。俺が見たことがある従来の弓よりも洗練されていてかっこいい。
「でも新型の弓もらっちゃってもいいの?」
「もちろん」
 マザ兄は大きく頷く。つーかうなずきすぎて、首が恐ろしい速度で縦に揺れている。怖い!
「な、なんか悪いな。せっかく作った新作を貰っちゃって」
 こんなズブの素人に、こんないい物を。まさに豚に真珠、猫に小判。
「良いってことよ! こんなものでサイフォスさんとお話ができるなら!」
 ……どれだけサイフォスさんは人気なのだろう。というか、マザ兄はなぜにこんなにモテないのかがよくわかった気がする。
「じゃ、行くか」
 マザ兄は弓筒を俺の分も持ち、さっさと出ていってしまった。
「早い早い! 待ってくれー!」
 こういうところもモテない(ry






「弓はこう構えるんだ」
 俺達は小屋近くの山の中に移動した。ここはマザ兄の練習場である。
 木の所々に矢が刺さっており、日頃の努力の跡が見える。何本も何本もここで射ているんだろうなぁ。
「ざっくりと言えば、弦は顎のあたりまでしか引かずに、弓に対して真っ直ぐ引いて、真っ直ぐ離す感じだな」
 マザ兄は、弓の初歩中の初歩を丁寧に教えてくれた。案外教え方はうまい。とってもわかりやすい。
「あ、しっかり矢を指で挟まないと、横に逸れて自分の肩に突き刺さるからな」
「なにそれこわい」
 などの必要な情報を聞きつつ、弓を準備する。
「最初は腕の力と背筋がいるかもしれないが、段々と筋力がついてきて楽に引けるようになるぞ。あとは姿勢だな」
「くぅぅ……」
 キリキリと弦を引くがめちゃきつい。弦を顎まで引くことさえままならない。引けど引けど全く動かない。
「大丈夫か?」
 マザ兄が弓を引くのを手伝ってくれた。おかげでなんとか顎のあたりまで引けた。
「狙いって、どうやればいい?」
 手元が超ブレるんですけど……
「それはな、こうやって腕で弓をしっかり固定すればいいのさ。そして……こうだ!」
 マザ兄が引いていた弦から指を離す。ヒョウン! カァン! と風を切り裂く音が聞こえた。そして、矢は的の近くの木にぶっ刺さった。
「うーん、筋がいいとはいえないが、まあまあなんじゃないか?」
 また微妙な評価を下された。中途半端すぎる……。
「でも、別に狩人になりたいわけじゃないんだろ?」
「まあね。前々から弓に興味があってさ、時間が出来たから習いに来たって感じかな? まあ、あとは剣や魔法にも何か通ずるものがあるかもしれないって思って」
 俺は話しながら弓を引く。そうこうしているうちに、少しずつだが弦を引くのが楽になってきた。そして気のせいか、狙いも良くなってきた。
「ま、食うのに困りそうだったら、俺と組んで野山を駆けずり回ろうぜ!」
 マザ兄は少し眠そうにしながら、結局最後まで付き合ってくれた。






「今日はありがとうマザ兄!」
 持っていった五十本の矢を撃ち尽くし、小屋に戻ると、あれだけ燦々と輝いていた太陽は、もう半分以上も姿を隠してしまっている。
「おう、サイフォスさんの件、忘れんなよ」
「あー、わかった。それじゃ」
 最後まで念を押されて帰った。でも多分、三日後にはこのことは忘れているだろう(俺が)。
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