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5,聖剣士
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そして、なんやかんやで収穫祭前日。村は活気に溢れ、人々の顔には笑顔が常にある。
で、俺は家業である酒屋の手伝いに駆りだされていた。くそっ、なんでこんな楽しいときに酒なんぞ売らねばならんのだ!
「ネリアー、ビールを酒蔵から出してくれー!」
親父が会計から叫ぶ。もう品出しかよ! さっき言ったばかりだろ!?
親父は俺のことを安い労働力としか考えてないらしく、まともな賃金が支払われない。でも、断ると俺の晩飯が味の薄い干し肉と固くて冷たいパンオンリーになってしまうため、従わざるを得ないのだ。
「あいよー!」
本当にめちゃくちゃ忙しい。収穫祭が明日に控えいるため、今日のうちにお酒を買っておこうと、お客さんがこの小さい店の中でごった返している。おかげでさっきから働き詰めである。実に七時間連続! もうまじで無理! キャパオーバー!
「ネリアー、ワインも出してくれー!」
親父の悲鳴にも似た声。嬉しい悲鳴ではあるが、もうまじでやべぇ。ボキャ貧とか言われるかもしれないけど、まじやべぇ。
「ビールと一緒に出したら行くから待ってくれー!」
俺の親父は村のやや外れで、酒屋を営んでいる。世界各地を渡り歩いて得た酒の知識をフル活用したいと、俺が生まれる五年前に開業。酒の種類が豊富で、かつうまいと評判なので、わざわざこの村まで買いに来る客も少なくない。この前も王都から貴族が買いに来た。しかし、しかしだ。この数は流石に多すぎんだろ! このクソ狭い店に確実に五十人以上はいるぞ!?
「ネリアー」
「待てっていってんだろー!」
親父の度重なる無茶な注文についに俺はキレた。
いいか? 酒は重いんだよ! ったく!
酒樽は三十キロを超えるものもある。ワインだって、瓶だと本当に重い。
俺は今日何度目かもわからない地下倉庫への扉を開ける。
「っしょっと!」
錆びた扉を開け、薄暗く、カビ臭い地下倉庫に入る。
酒は熟成するに限る。これは親父の言葉だ。酒も、肉も魚も、野菜も全部熟成したほうが旨味が出るんだと。
そして、注文のあったエール一樽、ワイン三十本(種類も一本一本全部違う)、ウイスキー七本を見つけ出し、やっとのことで店まで運び出した。
「……死ぬ」
流石に休憩をしよう。店の外へ逃げ……出よう――
しかし敵前逃亡は許さんというかのように、お客さんが俺の前に立ちふさがる!
「あ、店員さん! すいません、このワインって何の種類でしょうか?」
ぎゃー! お客さんが俺に話しかけてきたー! やめてー、これ以上タスクを増やさないでぇ!
えーっと、このワイン、なんだっけ……あ、思い出した!
一応、この店にある酒の種類は頭に入っている。いや、入れさせられたというべきか。
「これはですねー、うちの店のオリジナルの赤ワインでして……」
無論そんなことを顔に出さずにお客さんに説明までせにゃならん。ここはまるで戦場だ。
誰か手伝ってー! っていうか、バイト雇えよ親父!
「ネリアー、休憩に入っていいぞー」
「や、やっと休憩だ……」
夕暮れ時になり、お客さんもまばらになったため、少し休むことにした。っうか休まなきゃ死ぬ、絶対死ぬ。ここはブラックだ……。
「ふぃー」
俺は店の近くの草原まで移動し、寝転んだ。ここは俺のお気に入りの場所だ。寝転んでいるだけで、心が安らぐ。今も心地いい風が俺の頬をなでている。
「あぁー、マジで疲れた……」
そう言えば、あんなにお客さんが店に来るのは、俺が知る限り初めてかもしれない。それだけ多くの人がこの村に訪れているってことだろう。
「明日の収穫祭が楽しみだな」
沈みゆく茜色の空を眺めていると、ふいに笛の音が聞こえてきた。
「綺麗な音色だな……」
まるで鳥のさえずりのような、川のせせらぎのような……とにかく、言葉では言い表せないほど、美しいものだった。
興味を引かれた俺は、その音がする方向に向かった。すると、金髪で長身の爽やかな男性が草原に座って、笛を吹いていた。
「おや、君は……」
男は演奏するのを止め、笛から口を離した。
その男は背中にレイピアを背負っていた。そのレイピアは華美な装飾が施されており、相当使い込まれている。素人目に見ても、かなりの物だ。
「こ、こんにちは」
俺は頭を下げる。なんだか頭を下げなくてはならない、そんな雰囲気の人だ。
「うん、いい子だ。挨拶は大事だよね」
嬉しそうに笑いかけてくれる男性。
「あのー、その背中に背負っている剣、もしかしてハンターさんですか?」
とても剣が気になり、無礼と思いつつも、初対面ながら尋ねてしまった。
「うーん、私は厳密にいいうと、ハンターではないよ。しかし、ハンターでないとは言い切れない」
歯切れの悪い、謎の答えが帰ってきた。しかし、男性は楽しそうに笑っている。
「じゃあ、剣士ですか?」
ちなみに剣士とハンターの違いは狩る対象だ。ハンターは魔獣、剣士は人か獣。ただそれだけだが、結構この違いに誇りを持っている人が多いから、そこんとこ注意ね!
「残念、答えとしては、全ハンターの総括をする、聖剣士だ」
……え? 聖剣士様? あの?
王家直属のハンター聖剣士。その剣の一振りは山をなぎ払い、海を割る。いわゆる最強である。
「…………マジですか?」
「うん、マジだよ」
爽やかな笑顔で返された。
「これが一応、その証なんだけどね」
そう言って俺にポケットから取り出した懐中時計を見せてくれる。…………間違いない、この紋章、聖剣士様のものだ。昔、本で見たことがある。
「ところで話は変わるけど、君は剣士か魔道士を目指しているのかい? 家業の酒屋は継がなくて良いのかい?」
男――聖剣士様は俺に笑いながら質問をしてきた。
「え!? な、なんでわかったのですか?」
俺がびっくりして目を丸くしていると、俺の手と目を交互に指差した。
「その固くなった剣ダコに、渦巻くように目に帯びる魔力。それが証拠だよ。中でも剣術、結構長い間やっているね。そうだね……二年あまりってとこじゃないかな?」
す、凄い、言っていることは全部合っている。どうやら聖剣士様は、俺を見るだけでいろいろな情報を得たらしい。でも一つだけ疑問が残る。
「でも、なぜ俺が酒屋の息子だということがわかったのですか?」
もしかして酒臭かったか? もしかしてさっき服にこぼしたラム酒か? それともこっそり試飲したワインか?
すると聖剣士様は、さっきの爽やかな笑いとは違い、いたずらっぽく笑った。
「実は、君のお父さんの酒屋のお酒が好きでね、たまに買いに来てるのさ」
「そうだったんですか……」
お得意様だった。っうか、聖剣士様御用達の酒屋って凄くね?
「君のお父さんのお酒は美味しい。嫌なことを忘れさせてくれる。君はお父さんの後を継がないのかい?」
「俺は――」
言葉に詰まる。面と向かって言う勇気がない。でも、言わなければ叶わない。そんな気がするんだ。
「俺、ハンターになりたいんです」
言った。言ってしまった。もう取り消すことは出来ない。
「……どうしてだい?」
聖剣士様は表情を変えない。まるで、続けてくれと言わんばかりに。
「この世界から、魔物を消し去りたいんです」
俺は夢を語った。とてつもない夢を。未だ誰もなし得なかった偉業、俺はそれを成し遂げたい。しかし――
「君では無理だよ。出来っこない」
聖剣士様は今、確かに否定の言葉を口にした。
「……え?」
いきなり無理だと言われ、困惑する俺。いやでも、最初から解ってたじゃないか、この夢は馬鹿げていると――
「君は人並みだ。才能など無い」
彼は言った。
「何をやっても、何をやっても――」
彼は俺を馬鹿になどしていない。嘲笑も、侮蔑もない。あるのは爽やかな笑顔のみ。
「君は人並みで、何にもなれないよ。剣士も、魔道士も、そしてハンターにもなれない」
「で、でも、努力すれば――」
「して、何が変わったのかい?」
核心を突く言葉だ。
過程ではない、結果だと。求めているものは結果のみ。
「それは……」
「君には戦いの才能が無い。だけれど、君には――――おっと、いけない。時間だ。済まなかったね、夢を壊すようなことを言って」
彼は、そう俺に言い残して去っていった。晴れる見込みのない絶望だけを残して。
で、俺は家業である酒屋の手伝いに駆りだされていた。くそっ、なんでこんな楽しいときに酒なんぞ売らねばならんのだ!
「ネリアー、ビールを酒蔵から出してくれー!」
親父が会計から叫ぶ。もう品出しかよ! さっき言ったばかりだろ!?
親父は俺のことを安い労働力としか考えてないらしく、まともな賃金が支払われない。でも、断ると俺の晩飯が味の薄い干し肉と固くて冷たいパンオンリーになってしまうため、従わざるを得ないのだ。
「あいよー!」
本当にめちゃくちゃ忙しい。収穫祭が明日に控えいるため、今日のうちにお酒を買っておこうと、お客さんがこの小さい店の中でごった返している。おかげでさっきから働き詰めである。実に七時間連続! もうまじで無理! キャパオーバー!
「ネリアー、ワインも出してくれー!」
親父の悲鳴にも似た声。嬉しい悲鳴ではあるが、もうまじでやべぇ。ボキャ貧とか言われるかもしれないけど、まじやべぇ。
「ビールと一緒に出したら行くから待ってくれー!」
俺の親父は村のやや外れで、酒屋を営んでいる。世界各地を渡り歩いて得た酒の知識をフル活用したいと、俺が生まれる五年前に開業。酒の種類が豊富で、かつうまいと評判なので、わざわざこの村まで買いに来る客も少なくない。この前も王都から貴族が買いに来た。しかし、しかしだ。この数は流石に多すぎんだろ! このクソ狭い店に確実に五十人以上はいるぞ!?
「ネリアー」
「待てっていってんだろー!」
親父の度重なる無茶な注文についに俺はキレた。
いいか? 酒は重いんだよ! ったく!
酒樽は三十キロを超えるものもある。ワインだって、瓶だと本当に重い。
俺は今日何度目かもわからない地下倉庫への扉を開ける。
「っしょっと!」
錆びた扉を開け、薄暗く、カビ臭い地下倉庫に入る。
酒は熟成するに限る。これは親父の言葉だ。酒も、肉も魚も、野菜も全部熟成したほうが旨味が出るんだと。
そして、注文のあったエール一樽、ワイン三十本(種類も一本一本全部違う)、ウイスキー七本を見つけ出し、やっとのことで店まで運び出した。
「……死ぬ」
流石に休憩をしよう。店の外へ逃げ……出よう――
しかし敵前逃亡は許さんというかのように、お客さんが俺の前に立ちふさがる!
「あ、店員さん! すいません、このワインって何の種類でしょうか?」
ぎゃー! お客さんが俺に話しかけてきたー! やめてー、これ以上タスクを増やさないでぇ!
えーっと、このワイン、なんだっけ……あ、思い出した!
一応、この店にある酒の種類は頭に入っている。いや、入れさせられたというべきか。
「これはですねー、うちの店のオリジナルの赤ワインでして……」
無論そんなことを顔に出さずにお客さんに説明までせにゃならん。ここはまるで戦場だ。
誰か手伝ってー! っていうか、バイト雇えよ親父!
「ネリアー、休憩に入っていいぞー」
「や、やっと休憩だ……」
夕暮れ時になり、お客さんもまばらになったため、少し休むことにした。っうか休まなきゃ死ぬ、絶対死ぬ。ここはブラックだ……。
「ふぃー」
俺は店の近くの草原まで移動し、寝転んだ。ここは俺のお気に入りの場所だ。寝転んでいるだけで、心が安らぐ。今も心地いい風が俺の頬をなでている。
「あぁー、マジで疲れた……」
そう言えば、あんなにお客さんが店に来るのは、俺が知る限り初めてかもしれない。それだけ多くの人がこの村に訪れているってことだろう。
「明日の収穫祭が楽しみだな」
沈みゆく茜色の空を眺めていると、ふいに笛の音が聞こえてきた。
「綺麗な音色だな……」
まるで鳥のさえずりのような、川のせせらぎのような……とにかく、言葉では言い表せないほど、美しいものだった。
興味を引かれた俺は、その音がする方向に向かった。すると、金髪で長身の爽やかな男性が草原に座って、笛を吹いていた。
「おや、君は……」
男は演奏するのを止め、笛から口を離した。
その男は背中にレイピアを背負っていた。そのレイピアは華美な装飾が施されており、相当使い込まれている。素人目に見ても、かなりの物だ。
「こ、こんにちは」
俺は頭を下げる。なんだか頭を下げなくてはならない、そんな雰囲気の人だ。
「うん、いい子だ。挨拶は大事だよね」
嬉しそうに笑いかけてくれる男性。
「あのー、その背中に背負っている剣、もしかしてハンターさんですか?」
とても剣が気になり、無礼と思いつつも、初対面ながら尋ねてしまった。
「うーん、私は厳密にいいうと、ハンターではないよ。しかし、ハンターでないとは言い切れない」
歯切れの悪い、謎の答えが帰ってきた。しかし、男性は楽しそうに笑っている。
「じゃあ、剣士ですか?」
ちなみに剣士とハンターの違いは狩る対象だ。ハンターは魔獣、剣士は人か獣。ただそれだけだが、結構この違いに誇りを持っている人が多いから、そこんとこ注意ね!
「残念、答えとしては、全ハンターの総括をする、聖剣士だ」
……え? 聖剣士様? あの?
王家直属のハンター聖剣士。その剣の一振りは山をなぎ払い、海を割る。いわゆる最強である。
「…………マジですか?」
「うん、マジだよ」
爽やかな笑顔で返された。
「これが一応、その証なんだけどね」
そう言って俺にポケットから取り出した懐中時計を見せてくれる。…………間違いない、この紋章、聖剣士様のものだ。昔、本で見たことがある。
「ところで話は変わるけど、君は剣士か魔道士を目指しているのかい? 家業の酒屋は継がなくて良いのかい?」
男――聖剣士様は俺に笑いながら質問をしてきた。
「え!? な、なんでわかったのですか?」
俺がびっくりして目を丸くしていると、俺の手と目を交互に指差した。
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す、凄い、言っていることは全部合っている。どうやら聖剣士様は、俺を見るだけでいろいろな情報を得たらしい。でも一つだけ疑問が残る。
「でも、なぜ俺が酒屋の息子だということがわかったのですか?」
もしかして酒臭かったか? もしかしてさっき服にこぼしたラム酒か? それともこっそり試飲したワインか?
すると聖剣士様は、さっきの爽やかな笑いとは違い、いたずらっぽく笑った。
「実は、君のお父さんの酒屋のお酒が好きでね、たまに買いに来てるのさ」
「そうだったんですか……」
お得意様だった。っうか、聖剣士様御用達の酒屋って凄くね?
「君のお父さんのお酒は美味しい。嫌なことを忘れさせてくれる。君はお父さんの後を継がないのかい?」
「俺は――」
言葉に詰まる。面と向かって言う勇気がない。でも、言わなければ叶わない。そんな気がするんだ。
「俺、ハンターになりたいんです」
言った。言ってしまった。もう取り消すことは出来ない。
「……どうしてだい?」
聖剣士様は表情を変えない。まるで、続けてくれと言わんばかりに。
「この世界から、魔物を消し去りたいんです」
俺は夢を語った。とてつもない夢を。未だ誰もなし得なかった偉業、俺はそれを成し遂げたい。しかし――
「君では無理だよ。出来っこない」
聖剣士様は今、確かに否定の言葉を口にした。
「……え?」
いきなり無理だと言われ、困惑する俺。いやでも、最初から解ってたじゃないか、この夢は馬鹿げていると――
「君は人並みだ。才能など無い」
彼は言った。
「何をやっても、何をやっても――」
彼は俺を馬鹿になどしていない。嘲笑も、侮蔑もない。あるのは爽やかな笑顔のみ。
「君は人並みで、何にもなれないよ。剣士も、魔道士も、そしてハンターにもなれない」
「で、でも、努力すれば――」
「して、何が変わったのかい?」
核心を突く言葉だ。
過程ではない、結果だと。求めているものは結果のみ。
「それは……」
「君には戦いの才能が無い。だけれど、君には――――おっと、いけない。時間だ。済まなかったね、夢を壊すようなことを言って」
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