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6,フェイウ
しおりを挟む「ただいま……」
俺は重い足を引きずりながら家に帰った。
「おう、遅かったじゃねーか。ほれ、飯にするぞ」
親父が酒を飲みながら飯を用意している。どうやらもう店は終わったようだ。
だが、とりあえず今は飯よりも、真っ先に自室のベットに寝転びたかった。
「……今日は飯はいいや」
俺はそう言い残して自室に戻った。 せっかく作ってくれた飯なのにごめんな。
「どうしたんだネリのやろう、まさか……失恋でもしたか?」
親父の見当ハズレな推察が聞こえたが、もうツッコむ気力さえ無い。
「ハァ……」
俺は部屋に入るなりベットに倒れ込む。灯りの魔石ランプも点けずに。
「才能才能って、そんなに才能が重要なのかよ……」
俺がいままでしてきた努力は全部無駄だっててか? はん、笑えてくるぜ。
才能が無いと気づいたのはいつからだっただろうか。何をやっても才能がない、学校でも何の才能も発揮されなかった。……いや、そもそも才能とは何なのだろうか? 厳密な定義があるわけでもないし……。
そんなことを考えているうちに俺の意識は、深いまどろみの彼方へ…………。
「おっはよーネリアっ!」
「ぐえっ!」
な、何だ!?
寝ていたはずの俺の腹に、いきなり何者かが強烈な一撃を叩き込んできた。
「ゴホッ、ゴホッ! だ、誰だ!?」
寝ぼけ眼をこすり、俺に強烈な一撃を叩き込んだヤツを見てみると――
「やほーっ! フェイウちゃんだよーっ!」
俺の寝込みを襲った犯人は、銀色の髪を腰まで伸ばし、藍色の服を着た美少女。俺の幼なじみのフェイウ・アラスダイだった。
「……なんの用だよ」
寝込みを襲われて不機嫌な俺。 いや、寝込みを襲われただけで不機嫌なわけでは無い。昨日、聖剣士様に言われたことも原因だ。で、そのことについて考えていたら、どうやらいつの間にか寝てしまったみたいだ。
「んー? なんの用かって? 忘れたの? 今日から収穫祭! だからわざわざこの私、フェイウちゃんが起こしに来てあげたのよっ!」
嬉しそうに笑うフェイウ。
「いやお前、俺んちの鍵は?」
今日は親父も母さんもいないはずなのに……まさか不法侵入?
「おばさんからもらってまーす!」
ジャラッと俺の家の鍵をどこからか取り出したフェイウ。おいおい母さんよ、なんてやつに合鍵を渡しているんだ……。
「それよりも、今日は収穫祭! 収穫祭だよ! 寝ている場合じゃ無いよっ!」
……ああ、そうだ、今日は収穫祭だ。でもワクワク感がゼロだ。きっと昨日の出来事のせいだろう。
「……気が乗らないからいいや」
そう言って、俺は頭から布団を被った。 ああ、布団はいいよな……。
布団による堕落を俺は甘んじて受け入れよう。ああ、エデンはここにあったのだ……。
「そういえばこの前、ヤークに誘われてただろ。一緒に行ってこいよ」
こう見えてこいつは、意外と人気物なのである。 まったく、フェイウのどこがいいんだか。まあ、美少女ではあるが。
「断っちゃったもん! それに私はネリアとがいいの!」
バサッ! 布団を剥がされる。そして外気にさらされる俺。
めっちゃ寒い。俺のエデンを崩すな! 俺のエデンはわずか十数秒で崩壊。悲しい。
「むー! じゃあそれなら私行かないし! 一人で行ってもつまんないし!」
プイッと横を向き、俺の部屋の端っこに、壁向きで座った。
……おいおい、そこまでするか?
数日前からフェイウは、収穫祭だ収穫祭だと大騒ぎしていたのだ。それはもう、周りに多大な迷惑をかけるぐらい。ちなみに大騒ぎしていたフェイウのせいで、フェイウの家の壁に大きな穴が空いたとか。もう何がなんだか俺には解らないが、フェイウが楽しみにしていたってことだけは解る。
「本当に行かないのか?」
「行かないっ! 一人で行っても、楽しめないもん!」
いつもとは違い、拗ねたような口調。これは本当に考えを曲げないつもりだな。……ええい、仕方ない。
「……行くか、収穫祭」
そこまでさせておいて、俺が行かないなんて言うわけにも行かない。ま、気持ちを切り替えよう。くよくよしていても仕方がない。じーちゃんが言ってたもんな、男はくよくよするなって。
「本当!?」
ふてくされた顔をやめ、キラキラした顔で俺を見るフェイウ。
「ああ、気が変わった」
俺はベッドから出る。昨日までの自分とはおさらば……なんてきっぱり割り切ることは出来ないが、気にしないことはできる。気にしたら負けって言葉もあるしな。今更拗ねたって、何かが変わるわけじゃない。こんなすぐ立ち直るのかと思う人もいるだろうが、まあ、俺はバカなんでね。こういうことは忘れるに限る。
「それに、お前が収穫祭に行けなかったのは、俺のせいだって後から責められたら、たまんないからな」
コイツ意外とねちっこいからなぁ……。
去年、ご飯を食べに行く約束をすっぽかしたことを未だに言われる。
「そーよ! ま、一緒に行ってくれるから、別にいいけど!」
嬉しそうに立ち上がり、俺に早く早くと催促をする。
「でもまずは……」
「ん?」
「とりあえず、着替えるから外に出ていなさい」
こんな木綿のみすぼらしい服で、お祭りに行くわけにはいかない。寝間着で外に出る勇気は俺にはない。
「えー? 私は気にしないゾッ! ささ、脱いで脱いで!」
嬉しそうに俺を凝視するフェイウ。
「俺が気にするんだよ!」
俺は無理やりフェイウを部屋から追い出した。
「あぁー、どっと疲れた……」
起き抜けなのにこんなに疲れるとは……。
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