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192,破魔矢
しおりを挟む破魔弓と破魔矢とは、古来から伝わる魔を退ける弓である。この世界では、お正月などに売られていることが多い、本当は武器ではない縁起物。矢の先端の鏃は尖っていなく、殺傷能力が高いとはお世辞にも言えない。しかし、それでいいのである。射つのは、邪な心や、魔、悪などの邪気だからだ。つまり、悪しきものに効果があるとでも思っていてくれればいい。
「聖灰を俺の魔力で固めて、水と炎の属性を付与する。それを破魔弓と、破魔矢一本に加工する」
魔技の応用だ。そこにないものを、本来は魔力で形成する。だからこそ、他のものでも応用は可能だ。
「先に破魔矢を作る。時間がないから、直接行こう」
俺は慎重に手に灰を乗っける。そして、少しずつ矢をイメージしていく。形を先に作って、その上から術式の重ねがけと同じ要領で作る。これが一番早いだろう。
「申し訳ないですご主人様……細かい作業は苦手でして……」
苦しそうな表情で、申し訳なさそうにうなだれるリーヴァ。
「大丈夫だ。出番はこのあとだ。少しでいいから、体を休めていてくれ」
「はい、そうさせていただきます……」
とまた苦しそうに咳き込んだ。
「よし、そろそろいいか?」
なんとか形になってきた。これで消費した灰は俺が持っていた灰の半分ほど。残るはリーヴァの持っていた灰と、半分になった灰だけ。足りるか?
「次は弓だ……」
破魔矢を射つための、重要なアイテム。破魔矢のみでは、力が足りない。性質が違うので、弦と本体を分けて作る。先に本体。魔力で灰を弓の形にかたどる。その間に、今もなお続く戦闘に目を向ける。
「ぐぅぅぅらぁっ!」
「くぅ……!」
野良神と戦っている狐は、どんどん減っている。もう二十体を切りそうだ。梨沙は何かを溜めているらしく、結界の修復に出した鏡意外はすべて集めて何かを唱えている。
「間に合わないか……!?」
ええい仕方ない! やるしかない!
「性質を付与しながらやらねば……!」
形作ることと同時並行で、性質も一緒に付与する。難易度がぐっと上がるが、その分速い。
「……性質、しなやか、硬い、曲がる……くそっ!」
性質を全部言っていってはキリがないので、必要最低限の性質を付け加える。
「よし! 次は弦だ!」
なんとか本体は形になった。急いで弦を……!
「性質、しなやか、弾力がある、押し出す!」
弦は大雑把に作った。あとは……
「……相反する属性の封じ込めか……」
これが一番難しいことだ。俺が使う水魔法と、火具土。その両方をこの矢に込めなければならない。
「ふっ……!」
矢を握り、水の力を帯びた魔力を注ぎ込む。ここまではそこまで難しくない。ここからが問題だ。
「……火具土」
残り少ない魔力で火具土を呼び出し、火具土の炎を押し込める。しかし――
「ぐぐぐ……!」
先に入れた水の魔力が反発して入らない!
「くそっ!」
思わず悪態をついてしまった。
「ご主人様っ、手伝います。力技なら、得意、なので……」
火具土を装着した手をリーヴァが握る。
「んんっ!」
「ぐぅぅ……! ……入った!」
二人の力で荒れ狂う火具土の魔力を矢に封じ込めることに成功した!
「よし、あとは射るだけだ!」
「キュウン!?」
俺が矢を弓につがえているとき、最後の狐がやられた。
「マズイ!」
俺は梨沙のもとへ向かおうとする野良神に冷や汗を流す。
「ええい! もう仕方ねぇ!」
慌てて弓を構える。マザ兄に教えてもらったことを思い出しながら、弓を引く。だが――
「か、かてぇっ!?」
あまりにも弦が固く、悲鳴をあげた。
「性質の付与がうまくいかなかったか……!」
引けないことは無い。ただ、非常に硬い。そのため、飛距離が伸びない。
「……リーヴァ、頼めるか?」
「い、行けます! いいえ、やります!」
リーヴァが辛そうな呼吸を繰り返しながら、俺の後ろに立った。
「ふぅー」
乱れた呼吸を整え、ぐっと力を入れ弓を引く。
「よし、いいぞ……」
キリキリと破魔弓が悲鳴をあげながらしなる。
「狙いを定めて……」
しかし、フルパワーで引いている破魔弓は力のコントロールが出来ずに先端がぶれ、狙いがうまく定まらない!
野良神はもう梨沙の近くまで迫っている。
「頼むから少し止まってくれよ……!」
俺は念じながら、限界ギリギリまで待つ。すると――
―――しゃぁねぇなぁ。ほれ、行け!――――
頭に声が聞こえた。その声は、俺の声のようで、俺の声でない。誰――?
そのとき、フッと肩の力が抜けた。それに、ブレが収まった?
「ご主人様! 今ですっ……!」
「おうよ! 行っけぇぇぇぇ!」
ただ感じたままに破魔矢から指を離した。そして破魔矢はまっすぐ野良神の脳天へ――
「うぎゃぁぁぁぁ!?」
ズプリ! と破魔矢は頭に突き刺さり、そこから黒い邪悪な瘴気が漏れ出てきた。
「お、おのれぇぇぇ!」
「梨沙!」
「はいはい! まったくもう! おいしいところばっかり持っていっちゃって! でも、これでとどめ! 日矛鏡(ひぼこのかがみ)!」
梨沙が唱えると、鏡の半分が集まり、一枚の橙色の枠の丸い鏡へと変化した。
「即ち石凝姥を以て冶工(たくみ)として、天香山(あめのかぐやま)の金(かね)を採りて、日矛を作らしむ! 又、真名鹿の皮を全剥ぎて、天羽鞴(あめのはぶき)に作る! 此を用て造り奉る神は、是即ち紀伊国に所坐す日前神なり――!」
新しく変化した鏡から、赤銅色の熱線が放出され、野良神を焼いた!
「ぎゃぁぁぁ! ふ、ふざける、なぁ…………」
最後の言葉を発し、野良神は灰へと変わった。
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