中途半端な俺が異世界で全部覚えました

黒田さん信者

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193,延命治療

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「……やった、のか?」
 ドサリ。俺の後ろで力尽きたリーヴァが倒れた。
「っ! リーヴァ!」
 慌てて抱き起こすも反応はない。しかし、脈もしっかりとあるので、とりあえず大丈夫そうだ。
「や、やったね、ネリアくん……」
 梨紗は誇らしげなで表情で俺に笑いかける。
「ああ、やったな」
 残った野良神も負けを悟ったのか、散り散りになって消えた。
「……よし、結界の修復も完了」
 そして、梨紗は神懸がりを解いた。ふっと姿がゆらぎ、鏡なども一律で消えた。
「……こふっ」
 すべてを出し切ったのか、梨紗はその場に倒れ込み吐血。苦悶の表情を浮かべた。
「梨紗!」
 俺も限界が近いが梨紗のもとへ。
「大丈夫か!? やっぱり無茶だったんじゃねぇか!」
 あんな神気、人が放出できるものではないし、人間の体が持つはずない。
「ポーションがある、飲んでくれ!」
 サイフォスさんのポーションを取り出す。外傷は見当たらないが、臓器などに多大なダメージがいっているに違いない。ポーションは外傷の治癒を促すもの。何度も繰り返すが、骨折や内臓の傷などは治せない。でも、体力は回復するので、飲ませる。
「ぐぅぅ……!」
 苦しそうに体をよじる。時折吐血し、全身から脂汗を流している。マズい状況だ。
 俺の手持ちのポーションは二本。一本は梨紗に飲まし、もう一本はリーヴァに飲ませる。俺はまだ動けるので我慢する。魔力もすっからかんなので、ヒールなどを行うこともできない状況で、現状を打破できるのは手元の二本のポーションだけ。
「……ネリア様、でしたか? 我々も微力ながらお手伝いいたしまする……」
 俺が後ろを振り返ると、数匹の狐が足を引きずりながら立っていた。
「助かる! じゃあリーヴァもこっちへ運んでくれるか? 優しく頼む」
「かしこまりました。皆の衆、やるぞ!」
「「「おー!」」」
「頼もしいぜ……!」
 まずは梨紗の治療が先決だ。本当なら医者を呼びたいが、それは叶わない。だから、命をつなぎとめる処置に全力を注ぐ。
「飲んでくれ梨紗」
 ポーションを少しずつ梨紗の口に注ぐ。
「う……」
 細い喉が弱々しくも上下するのを確認した俺は、もう少しポーションを注ぐ。
「頼むぞ……」
 一気に飲ますと、回復が早まり、逆に体力を奪い危ない。だから、少量ずつ飲ませることで緩やかに体力を回復させる。
「鳥の魔獣様を運んできました!」
「ありがとう!」
「今、他のものにこの山に生えている薬草を取りに行かせましたので、もう少々お待ちを!」
 狐たちは驚くほど見事な連携で、いろいろなことをこなしていく。まず、梨紗の足の下に少し太い枝を入れ、足を浮かせた。
「血が足りなくなると困るので、上半身へ血を集めまする!」
 そして、ベルトなどをゆるめ、梨紗を楽にしていく。
「す、すげぇ……」
 俺が取り乱して、見逃し、取りこぼしていた大事なことを次々に処理していく。
「私は医者に化けていたので、ここはお任せください!」
 数匹いる狐の中の一匹が前にでた。
「わかった! よし、次はリーヴァだ!」
 運び込まれたリーヴァもひどい状況だった。まず、数カ所深い裂傷。打撲による内出血……多数。骨折は右中指、薬指、左小指、右足、肋骨、その他諸々。特に裂傷がひどく、今も絶え間なく血が流れ出ている。先程、無理に体を動かしたせいで、傷口が広がってしまったようだ。意識が飛んでいて良かった、とも思える傷だ。よくこんな状態で我慢したと思い、ゾッとした。
「ポーションが足りないか……?」
 まずは一番致命傷である裂傷を塞ぐにしても、ここまで深いと一本じゃ到底無理だ。
「なら……」
 申し訳なく思いつつも、勝手に梨紗のカバンをあさり、ハンカチを取り出した。そして、ポーションを染み込ませる。
「応急処置だけど、我慢してくれよ……!」
 そのハンカチを裂傷に押し当てる。傷はどんどんポーションを吸い、塞がり始める。しかし、再生しているのは、皮膚と破れた血管の組織だけだった。
 まずは流れ出る血を減らすこと。これが第一前提だ。だから、血管だけでも先に治癒させ、血を流させない。もちろん、これは本当にごまかしているだけだが、こうしないと数カ所もある深い裂傷を塞ぐことはできない。
「……よし!」
 そしてまたハンカチにポーションを染み込ませ、全部の裂傷に同じ処置を繰り返す。
「あとは……Sランク魔獣の生命力に賭けるしか無いか……」
 半分ほど残ったポーションをリーヴァの口に半量入れる。多分飲み込めないだろうから、俺は――
 
 俺の口でリーヴァの唇を塞ぎ、息を吹き込むことで飲み込ませた、そして、同じ処置をもう一度繰り返した。

「……っ! ぐっ! ああぁぁ! かはっ!」
 ポーションを飲み込んだリーヴァは、浅かった呼吸を止め、悲鳴に近い声をあげ始めた。
「耐えてくれっ……!」
 リーヴァは今は人間体であるが、もともとは魔獣だ。そのため、再生力も人間とは異なっている。再三言っているが、ポーションは治癒を促し、補助するものである。だから、魔獣の並外れた治癒力に賭け、残ったポーションを飲ませた。
 もともと、ポーションは人間用だ。だから、深く傷ついた魔獣にとっては、むしろ毒に近い劇薬なのだ。恐ろしいスピードで治癒しようとし、容赦なく削られた体力を持っていく。本来なら、魔獣用の、効果を抑えたポーションもある。だが、手元にあるのはサイフォスさんが作ったこのポーションだけ。今リーヴァを救うにはこれしか無い。
「っぅあぁぁ! ご主人、様ぁっ!」
 リーヴァの悲鳴は俺の心を揺さぶるも、心を鬼にし、梨紗のほうへ戻る。
「梨紗、頑張ってくれ!」
「……う、うん……が、頑張る、ね……」
 息も絶え絶え。でも、薄く開かれた瞳に強い生命力を見た。
「もう一度ポーションを流すからな!」
 先ほどと同じようにポーションを流し込む。これで、まだもつはずだ。
「ネリア様! 薬草を持って来ました!」
「助かる!」
 残念ながら俺には薬草学の知識は無いので、狐たちに処置を任せる。
「よし……!」
 なんとか安定してきた。だが、今俺が行ったことは、延命治療にしかなっていない。
「……ナナカ、聞こえるか? 緊急事態だ」
 俺は、ナナカに『念話』で話しかける。
 念話。離れた相手と意識を繋ぐ技。本当に親密なものとしか行えないため、できるものは限られている。しかも、俺は初挑戦だし、ナナカも察知できるかわからない。でも、きっと俺とナナカなら、繋がる――!

「……………ご主人? 緊急事態ですか!?」
 俺の隣には誰もいないはずなのに、耳元から声が聞こえた。
「……ナナカ?」
「はい! ナナカちゃんです! 緊急事態ですね!? 今すぐそちらに出ます!」
 魔法陣が瞬時に描かれ、人間サイズのナナカが出てきた。
「ナナカちゃん登場! ……え?」
 ナナカは困惑の声をあげる。状況が理解できていないようだ。
「ど、どうしたんですか!?」
「二人共重体だ! いままでなんとか処置してたから、まだ持つはずだ!」
 ナナカはいきなりの事態に混乱を隠しきれず、動揺している。しかし、さすがは本の妖精。切り替えは早かった。
「わかりました! 今からお二人とご主人を魔書館に転移させます!」
 ナナカは早口で呪文を唱え始めた。
「偉大なる魔書の拠り所よ……我が身をもって扉を開け!」

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