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001 ゾンビに捧げるレクイエム
俺って神ってる?
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翌日、弾丸のように飛び込んできた美少女が、いきなり俺を責め立てる。
「ちょっとタイチ! 死者を燃やしたって本当なの?」
「ウィチリカ。村を出たんじゃなかったのか?」
「報告に戻っただけよ。村の噂になっているわ。勝手なことをしでかすなんて、あの母娘の気持ちは考えなかったの?」
「考えたよ。だから火葬したんだ」
あの後確認したけれど、蓋をした甕にかけた紙の紐が解かれることはなかった。
つまり骨となれば、遺体は墓から出られない。
「教会の許しは得たの?」
「いいや」
「まさかあなた、本気で自分が神だと信じて……」
「本気も何も、俺はいずれ神になる。今は、代行者ってところかな?」
「はああ? わけわかんないんですけど。バカとは思っていたけれど、そこまでだとは知らなかったわ」
「なんとでも言うがいい。俺の正当性は証明されたからな」
「正当性?」
不思議そうなウィチリカに、経緯を説明した。
「──というわけさ。封印は解かれず、墓から出た形跡もない。死者もようやく、天に召されたのだろう」
「そりゃあ化け物にならないなら、その方がいいけれど……」
「だろ? だからウィチリカも、俺と一緒に村の人を説得してくれないか?」
「……手! 急に私の手を握るなんて、どういうつもりなの!」
「ああ、ごめん。つい興奮して。深い意味はないよ」
「それはそれで嫌な感じね」
ウィチリカが、ボソッと呟き自分の手をさする。
正直、そこまで嫌がられるとは思っていなかった。
「じゃあ、今から早速……」
「それなんだけど! 村の人たちが広場に集まっていたわ。あなたの言う母娘を責めていたみたい」
「……は?」
「火刑になるのは極悪人だけ。グロリオーサ聖教では、そう定められているわ」
「教会なんてクソくらえ!」
「あのねー。とにかくなんとかしないと、あの母娘が可哀想よ」
「わかった。ウィチリカ、教えてくれてありがとう!」
俺はすぐに家を出て、広場へ急ぐ。
ウィチリカが教えてくれた通り、村の唯一の広場では、村人が例の母娘を囲んでいた。
「神罰が当たったらどうする気?」
「勝手なことをして、村の和を乱すつもりか?」
「罪人でもないのに燃やすなんて、ご亭主が哀れだよ」
見れば女の子は萎縮して、母親の陰に隠れているようだ。
母親は毅然として、村人と対峙していた。
「いいや。何度も言っているけど、あの人は無事に天に昇ったよ。あたしゃ後悔なんてしていない」
「目を覚ませ! お前はよそ者に騙されたんだ。あいつ、初めからうさんくさかったもんな」
「そうだ、そうだ!」
リモがため息をつく。
「あ~あ。ずいぶんな言われようだけど、いいの?」
「いいわけないだろう。母娘は何も悪くない」
「え? そっち? いくら君でも、あの中に飛び込むのは……」
「いいや、行くぞ」
「ええっ!?」
俺は人波をかき分けて、母娘の前に立つ。
「みなさん、聞いてください」
大声を出した瞬間、広場がどよめく。
「こいつだ! おらの家にもこいつが訪ねて来た」
「亡くなった人を燃やすなんて、おかしいでしょ」
「神を恐れぬ者は、村から出ていけっ」
ダメだ。これだと声が届かない。
「ちゃんと説明しますから、落ち着いて聞いてください!!」
俺は最大限に声を張り上げた。
企業の面接中、ぼそぼそしゃべっていた自分はもういない。
「ふざけんな」
「断る!」
「あたしもごめんだよ」
「俺も断る。騙されないぞ」
村人たちは聞く耳を持たず、一斉に拒否。
思わず一歩下がった俺の身体が、突然光る。
「きゃあっ」
「なんだ、何が起こった!?」
みんなびっくりするけれど、一番驚いているのはこの俺だ。
「え? え? え?」
リモだけが冷静で、予想外の言葉を口にする。
「おめでとう! 新たなスキルを覚えたよ」
「は?」
「どうせ他の人には見えないし、確認してみれば~」
相変わらずのんびりした口調だが、気にしてなんていられない。
俺は素早く後ろを向いて、画面を表示させた。
【打佐田 太一 神レベル5】
体力 25
知力 22
聖力 30
素早さ24
運 5
特殊スキル『聖なる灯火』、『神の威光』
追加特性『断られるたび強くなる』
「なるほど。ガンガン断られたから、一気にレベル5になったのか。特殊スキル『神の威光』ってなんだ?」
「それはね、君に神の威厳が備わったんだよ。説得力も増すから、ちょうど良かったね」
リモの言う通りなら、このスキルを利用しない手はない。
「『神の威光』!」
両手を真上に突き上げて、それっぽく唱えた。
「……あ。言い忘れてたけど。このスキル、自動で発現するから」
「は?」
振り向くと、村人たちが黙り込み怪訝な目で俺を見ている。
「それを早く言ってくれ」
でも、まあいいや。
ここまで来たら、覚悟を決めよう。
俺は咳払いを一つして、村人の説得に努めることにする。
「みなさん、よく聞いてください。耐えるだけの生活は、もう終わりにしませんか? 聖なる炎で浄化すると、ご遺体は二度と目覚めません。今後は動く死体に悩まされず、村も平和になるでしょう」
あれ? 反応がない。
やっぱり失敗だったか?
「そうは言ってもなあ……」
「前例がないんじゃ、不安だねぇ」
おや? 村人の反応が変化している。
『神の威光』、意外と使えるのかも。
「前例はあります! ダグラーさんのお墓は、あれから動きがありません。それはご家族の勇気ある決断により、魂が浄化されたからです」
俺は渦中の母娘に目配せし、言葉を締めくくった。
「ちょっとタイチ! 死者を燃やしたって本当なの?」
「ウィチリカ。村を出たんじゃなかったのか?」
「報告に戻っただけよ。村の噂になっているわ。勝手なことをしでかすなんて、あの母娘の気持ちは考えなかったの?」
「考えたよ。だから火葬したんだ」
あの後確認したけれど、蓋をした甕にかけた紙の紐が解かれることはなかった。
つまり骨となれば、遺体は墓から出られない。
「教会の許しは得たの?」
「いいや」
「まさかあなた、本気で自分が神だと信じて……」
「本気も何も、俺はいずれ神になる。今は、代行者ってところかな?」
「はああ? わけわかんないんですけど。バカとは思っていたけれど、そこまでだとは知らなかったわ」
「なんとでも言うがいい。俺の正当性は証明されたからな」
「正当性?」
不思議そうなウィチリカに、経緯を説明した。
「──というわけさ。封印は解かれず、墓から出た形跡もない。死者もようやく、天に召されたのだろう」
「そりゃあ化け物にならないなら、その方がいいけれど……」
「だろ? だからウィチリカも、俺と一緒に村の人を説得してくれないか?」
「……手! 急に私の手を握るなんて、どういうつもりなの!」
「ああ、ごめん。つい興奮して。深い意味はないよ」
「それはそれで嫌な感じね」
ウィチリカが、ボソッと呟き自分の手をさする。
正直、そこまで嫌がられるとは思っていなかった。
「じゃあ、今から早速……」
「それなんだけど! 村の人たちが広場に集まっていたわ。あなたの言う母娘を責めていたみたい」
「……は?」
「火刑になるのは極悪人だけ。グロリオーサ聖教では、そう定められているわ」
「教会なんてクソくらえ!」
「あのねー。とにかくなんとかしないと、あの母娘が可哀想よ」
「わかった。ウィチリカ、教えてくれてありがとう!」
俺はすぐに家を出て、広場へ急ぐ。
ウィチリカが教えてくれた通り、村の唯一の広場では、村人が例の母娘を囲んでいた。
「神罰が当たったらどうする気?」
「勝手なことをして、村の和を乱すつもりか?」
「罪人でもないのに燃やすなんて、ご亭主が哀れだよ」
見れば女の子は萎縮して、母親の陰に隠れているようだ。
母親は毅然として、村人と対峙していた。
「いいや。何度も言っているけど、あの人は無事に天に昇ったよ。あたしゃ後悔なんてしていない」
「目を覚ませ! お前はよそ者に騙されたんだ。あいつ、初めからうさんくさかったもんな」
「そうだ、そうだ!」
リモがため息をつく。
「あ~あ。ずいぶんな言われようだけど、いいの?」
「いいわけないだろう。母娘は何も悪くない」
「え? そっち? いくら君でも、あの中に飛び込むのは……」
「いいや、行くぞ」
「ええっ!?」
俺は人波をかき分けて、母娘の前に立つ。
「みなさん、聞いてください」
大声を出した瞬間、広場がどよめく。
「こいつだ! おらの家にもこいつが訪ねて来た」
「亡くなった人を燃やすなんて、おかしいでしょ」
「神を恐れぬ者は、村から出ていけっ」
ダメだ。これだと声が届かない。
「ちゃんと説明しますから、落ち着いて聞いてください!!」
俺は最大限に声を張り上げた。
企業の面接中、ぼそぼそしゃべっていた自分はもういない。
「ふざけんな」
「断る!」
「あたしもごめんだよ」
「俺も断る。騙されないぞ」
村人たちは聞く耳を持たず、一斉に拒否。
思わず一歩下がった俺の身体が、突然光る。
「きゃあっ」
「なんだ、何が起こった!?」
みんなびっくりするけれど、一番驚いているのはこの俺だ。
「え? え? え?」
リモだけが冷静で、予想外の言葉を口にする。
「おめでとう! 新たなスキルを覚えたよ」
「は?」
「どうせ他の人には見えないし、確認してみれば~」
相変わらずのんびりした口調だが、気にしてなんていられない。
俺は素早く後ろを向いて、画面を表示させた。
【打佐田 太一 神レベル5】
体力 25
知力 22
聖力 30
素早さ24
運 5
特殊スキル『聖なる灯火』、『神の威光』
追加特性『断られるたび強くなる』
「なるほど。ガンガン断られたから、一気にレベル5になったのか。特殊スキル『神の威光』ってなんだ?」
「それはね、君に神の威厳が備わったんだよ。説得力も増すから、ちょうど良かったね」
リモの言う通りなら、このスキルを利用しない手はない。
「『神の威光』!」
両手を真上に突き上げて、それっぽく唱えた。
「……あ。言い忘れてたけど。このスキル、自動で発現するから」
「は?」
振り向くと、村人たちが黙り込み怪訝な目で俺を見ている。
「それを早く言ってくれ」
でも、まあいいや。
ここまで来たら、覚悟を決めよう。
俺は咳払いを一つして、村人の説得に努めることにする。
「みなさん、よく聞いてください。耐えるだけの生活は、もう終わりにしませんか? 聖なる炎で浄化すると、ご遺体は二度と目覚めません。今後は動く死体に悩まされず、村も平和になるでしょう」
あれ? 反応がない。
やっぱり失敗だったか?
「そうは言ってもなあ……」
「前例がないんじゃ、不安だねぇ」
おや? 村人の反応が変化している。
『神の威光』、意外と使えるのかも。
「前例はあります! ダグラーさんのお墓は、あれから動きがありません。それはご家族の勇気ある決断により、魂が浄化されたからです」
俺は渦中の母娘に目配せし、言葉を締めくくった。
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