愛縁奇祈

春血暫

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〇〇師にご用心!!

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 やっと、手に入れた。
 怪異の中でも特別強い力を持つもの。
 それを手に入れれば、何でもできる。

 世界を壊すことだって、簡単だ。

 けど、俺がやろうと思っていることは、壊すことではない。

 世界を手に入れること。

 すべてを支配し、俺のための世界にする。

 そのためには、名切の力だけではだめだ。

 名切と同等の力を持つものが必要だ。

「なあ、優馬ゆうま。俺たち、愛し合っていたではないか。ああ、あの時は、俺が間違っていた!! やり直そうではないか!!」

「……僕には、愁哉がいるから。もう、あなたとの縁なんてない」

「は? 優馬、ふざけるなよ? お前には、俺しかいないんだよ。わかってんの?」

 本当、あのとき、殺しておけば良かった。

 てか、こいつが人を殺せるなんて思っていなかった。

「それに、そんなやつ、俺が殺したから。もう、お前には俺しかいねえんだよ」

「そんなことない! 愁哉はいる!!」

「いねえよ。てか、お前はさあ、そうやって、誰かに守ってもらわねえと、何もできねえんだな」

 俺は優馬の隣にいる男を見る。

 たしか、おおはら事務所の引馬だ。

 なんで俺の優馬の隣にいるんだろう。

――すっげえ、邪魔。

 と、にらむと、やつは俺を見てニコッと笑う。

「おっと、そんなに見られても、俺は何もしないよ。刀祢さん」

「気持ち悪いこと言うな」

「はっはっはっ。社長の身体で言われるときついものがあるなあ」

「あ?」

「まあ、あれだ。左坤くんは、渡さないし。百鬼社長も渡さないよ」

「はっ! 残念だな、そいつは死んだよ」

「残念なのは、あなたの方だ。理由は、言わないけど」

「マジ、気持ち悪いし、邪魔なんだよ」

「邪魔はあんただけど。二人の幸せを、よくもまあ、邪魔してくれたな」

 殺すぞ、と引馬は低い声で言って、俺をにらむ。

 そんなことで、俺は怯まないって、わかってんのかな。

 てか、目の色、両方とも違うとか、気持ち悪いし。
 色がわからないとかも、異常だ。

 それに、俺の言うことを聞かないから、本当に死ねばいいと思う。

「もう、命乞いしたって無駄だから。てめえ、殺してやる」

「あ? やれるもんなら、やってみろや」

「あ?」

「んだよ、やんだろ? かかってこいよ。くそが」

 と、引馬は言ったあと、優馬に優しく「ごめんね」と笑う。

「ちょっと、本当にキレそうだから。英忠と一緒にいて」

「え? あ、うん。引馬さん?」

 と、優馬は引馬を見る。

――ああ、なんでそんな尊敬の眼差しで、そんなやつを見るんだ?

 優馬には、俺しかいないのに。
 あんなに、愛し合っていたのに。

 なんで?

――そうだ、もう一度、名切の力で……!!

「てめえ、人に喧嘩を売っといて、よそ見たあ、いい度胸じゃねえか! ああん!?」

 と、引馬はサングラスを床に叩きつける。

「ほんっと、頭来た。マジで。いてこましたろか!?」

「引馬さん、待って、殺したらまずいって!!」

「落ち着け、左坤くん。俺は人は殺さない。もう二度とね。大丈夫、殺さない殺さない」

「怖いよ!! 目が笑っていないよ!」

「左坤くん、危ないから、下がっていてねえ」

 引馬はそう言うと、俺をにらむ。

「で、うちの左坤くんをどうするって?」

「んだよ、あんなやつ、あんたが守る価値あるのかよ。殺人鬼だぜ? それも、食人。気持ち悪いし、気色悪いだろうが!!!」

「は? んなの、関係なくね? 左坤くんは、気持ち悪くも、気色悪くもない。少し変わっている男の子だわ」

「引馬、てめえは知らねえだろうな! 俺の肉体を壊したのは、そこにいる食人鬼だぞ? 気持ち悪いだろうが! そんなやつに付き合えるのは、この俺しかいね――」

「おい」

 俺の台詞を遮って、優馬は低い声で言う。

「今、なんて言った? この下等生物が」
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