愛縁奇祈

春血暫

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〇〇師にご用心!!

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 暗闇の中で、俺は見えない何かを切っていた。

 切っても、切っても、それは切れなくて。

 それに、安堵する自分と。
 苛立つ自分がいる。

――てか、俺、何を切ってるんだ?

 何かの糸のようだ。

 でも、すごく強くて、切れない。

「くっそ、なんなんだよ!!」

 てか、さ。

 そういえば、という感じだが。

 俺、誰だ?

 あれ?

「なんだ、これ」

 わけわかんねえ。

 何か、大切なことがあった気がする。

 と、思っていると、目の前が急に明るくなった。

 それがとても眩しくて、目を開けられなかった。

――なんだ? いったい。

 と、呟くと、声が聞こえる。

――邪魔だから、殺してしまえ――

――憎い――

――苦しい――

 その声が、じわり、じわり、と俺の中に入ってくる。

「い、嫌っ――!!!」

 やめてくれ。
 来ないでくれ。

 なぜか、わからないけど。
 とても、怖い。
 怖い。恐い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い!!!!!!!!!!!!

 と、頭を抱えていると、とん、と肩を叩かれた。
 誰かが救ってくれる、と思い見てみると。
 そこには、一人の少女がいた。

「き、み……は?」

「忘れてしまったんですか。名切どの」

 少女は、焦げ茶色の長い髪を、耳にかけながら笑う。

「あっしです。神呪文音です」

「あ……や、ね?」

「ええ」

 と、文音は頷き、俺の手を引く。

「ここだと、良くないから、少し歩きましょうか」

「あ、ああ」

 あれ……?

 さっきまでの、恐怖が消えた。

 もしかして、文音が消してくれたのだろうか。

「なあ、文音」

「はい」

「先程まで聞こえていた声が聞こえなくなった。君が、消してくれたのかい?」

「さあ、どうでしょう」

 文音はニコッと笑い、俺を見る。

「この辺りなら、平気かも」

「え? ここは?」

 さっきと、あまり変わらない気がする。

 あ、でも、少し違う。
 苦しくも、悲しくもない。

 少しだけ落ち着く。

「……なあ、文音。君は、俺とどんな関係だったんだい?」

「友達だよ。まあ、あっしはそれ以上の気持ちは、あったりしましたけどね」

「それ以上?」

「ええ。それは、あなたが、刀祢に奪われたものです」

「え……?」

 俺が、奪われた?

 いや、その前に俺は何かを奪われたのか?

「あ、えっと――」

「あまり長くいられないから、本題に入りますね、名切どの」

「あ、いや、さっきから言う、それが俺の名前か?」

「いえ、あなたの名前は、百鬼です。百鬼愁哉」

「……なら、なんで違う風に呼ぶんだい?」

「あだ名のようなものですからねえ」

 ぼんやりと、文音は言う。

「あっしも、優馬ゆまみたいに、素直に言えれば良かったかもしれないですけど」

「ん?」

「まあ、そんなことは置いておいてですね。あっしがあなたのところにいるのは、伝えられなかったことを伝えるため」

「え?」

 では、文音は、それを伝えてしまったら、消えてしまうのか?
 そしたら、またさっきのが来る?

「や、嫌だ」

「嫌だ、ではありませんよ。そうしないと、みんなが不幸になる。あなたもそのみんなに含まれます」

「……けど、また声が聞こえてしまう!」

「いや、そんなことはありませんから。んな、まやかしなんてさ」

 朱音は小さく笑う。

「あなたの心で、消えてしまうんですよ」

「俺の……心……」

「そう。って、本当に、時間が無くなってきちゃったじゃないですか」

 あー、と深く文音はため息を吐き出して、俺を見て言う。

「名切どのって、恋とか青春とかってわかります?」

「え?」

「名切どのが奪われたのは、それですよ。とても、大切な記憶って言ってもいいと思いますけど」

「……でも、俺には、今恋人がいるし」

「今の話ではなく、あなたが人として初めての恋ですよ。その相手が、あっしの友人だし、今の名切どのの恋人の前世だったりするんですけどね」

 そんなことは良いとして、と文音は困ったように笑う。

「その子との記憶を、邪魔だからって、勝手に第三者に奪われてしまったんですよ」

「……でも、その。てか、俺、恋とかあんまわかんないし」

「そりゃ、恋愛に関しての記憶をなくしているんだから、仕方がないんじゃないんですか?」

「……そうなんかな」

「いや、あっしも、恋なんてわかりませんけど。でも、あなたは――あなたたちは、恋愛をしていたし、青春もしていたと思います」

「…………」

「ねえ、名切どの。取り戻したいって思いませんか? 優馬との日々を、返してもらいたいって思わないんですか?」

「けど、俺と関わったら、不幸せになるだろ? だったら、もう、このままのほうが良いと思うよ」

「……え?」

「ああ、もう、このまま死んだほうが良いのかもしれないな。所詮、俺は鬼だし? そっちのほうが、世のため人のためだったりするんじゃないのかな」

「いや、ちょっと……」

「文音、ここまで話してくれてありがとう。でも、俺は取り戻したいとか、そんなの、まあ思ったりはするけど、そんなわがまま良くないと思うからさ」

「いや、名切どの――」

「もう、ほんと、人を思うなら、俺はこのまま――」

「ふざけるなっっ!!」

 俺の台詞を遮って、文音は怒鳴る。

「勝手に終わらせないでくれ!! 決めないでくれ!! あっしは、名切どのに出会えて、幸せだった!!」

「……けど、周りはそうではないだろ?」

「うるせえ!! そりゃ、全員を幸せになんかできないよ!! 当たり前じゃんか!! あんたは、人間なんだから!!」

 文音は、涙を流しながら叫ぶ。

「取り戻したいんでしょ!? 良いじゃないですか!! そんなの、わがままのうちに入りませんから!!」

「……けど」

「けども、くそもねえ!! 死にたいとか、言わないでよ!! 願い叶えてくれるんじゃないんですか!? あっしも、優馬も、あんたに生きてほしいって願ったんですよ!!! あんた、叶えてくれるんじゃねえのかよ!!!!」

「…………」

「なあ、愁哉。お願い、生きて。幸せになってよ……」

 文音は、俺を抱きしめる。

「もう、あっしはいかなければいけません」

「ちょ、待って」

「待てないです。これ以上いたら、あっしの来世である文人がかわいそうだ」

 そう言うと、すっと文音は離れる。
 涙を流しながら。
 でも、俺を思ってか、笑って言う。

「一緒にいて、自分が幸せと感じたり。ずっと、その人といたいって思ったり。その人との時間が永遠になったらいいのにって思ったりする。そういうのが、恋だっていうなら、あっしは、愁哉に恋をしたよ」

「あ、文音っ!」

「あっしの初恋が――青春が、あなたで幸せでした」

 へへ、と文音は笑った。

 俺が、文音に返事をしようとすると。
 文音は首を横に振る。

「返事は要りません。その代り、今の恋人とお幸せに」

 そう、静かに言うと、文音は消えていった。
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