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第二十二話

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宗桂のおっさんに早速、宗古の母上というかおっさんの配偶者について質問しようとしたら、すでにおっさんはいびきをかいて寝ていた。
さっきのおっさんの声は寝言だったのか。
部屋の外から、勝吉がやってきた。
「明日は夜明け前の卯の刻の出発になる。
戦国時代の軍船である安宅船が手配できた。その船で遠江の湊まで一気に移動することになる。
九鬼水軍の長の九鬼守隆様が偶々江戸に行かれることになりその船に同乗できることになった。
家康殿が太閤殿下と淀君には明日早朝に浜松を経由して江戸に帰ることを報告し了解を頂いたそうだ。
早朝に、平戸まで陸路で移動して、平戸で船に乗る」
宗古は、勝吉にさきほど金剛太夫を助太刀に来てもらったことについてお礼を言っていた。
早朝におっさんを起こす役目を宗古に命じられ、宗古も今日は疲れたのか、今日は寝床ですぐに寝息を立てていた。
吉川はスマホのアラームを早朝四時にセットすると眠りについた。

「私は、戦国時代の冒険王になる!」
宗古が安宅船の前方で海に向って叫んでいる。どこかで聞いた台詞だ。
船首には龍の彫り物が飾られている。船の長さも30メートルくらいありそうだ。当時の船としては破格の大きさだろう。

今日の玄界灘は珍しく穏やかである。
百人以上の船の漕ぎ手がいるらしい。
本当の船長である九鬼守隆は二十歳前のイケメン好青年であった。歴史上では関ケ原の戦いで徳川家康側に着き、江戸城の増改築でも多大な貢献をする青年である。
彼によるとこの船は三門の大砲と無数の鉄砲砲があり、国内ではこれ以上の装備の船は無いらしい。
どこかの海賊王が来ることも無いだろう。
早朝は予定通り、どこに行くのかわかっていない宗桂のおっさんを起こし無事船に乗せた。まだおっさんの配偶者については何も聞けていない。
家康と勝吉は船内を巡回して装備の勉強をしているらしい。
小那姫はこの船の特等席の部屋で休んでいるらしい。

しばらくして瀬戸内に入り、一層穏やかな船旅である。
朝、宗古と話をしたが、忍びの月と妹も遠江で、本物の月の小面を隠している所を確認するはずだ。何としても先んじて本物の月の小面を手に入れたい。
あの姉妹は陸路だろうから俺たちのほうが何日かのアドバンテージがあるはず。ただ俺たちは本物の月の小面がどこにあるかわかっていない。
遠江に月の小面があるというのなら、浜松城か文書が見つかった遠江分器稲荷神社に違いない。

吉川は宗古に昨夜家康に何を耳打ちされたのかを聞くと、宗古は俺の耳元で囁いた。
「あの文書の最初の二行は小那姫の説明通り、遠江分器稲荷神社の囲碁盤の下に手紙らしきものが貼っていたらしいわ。そしてその情報は算砂を通じて歩き巫女の月や大野修理も情報が伝わっているわ。
一方、文面の三行目以降は、囲碁盤とは別のところにあった将棋盤の裏に貼っていたらしいのよ。
これも最近偶然、奥の倉庫から稲荷神社の宮司が発見して家康の家来に伝えたから、最初の二行と三行目以降の両方の文面を知っているのは、家康様と私たちだけ。
大野修理や忍びの月は三行目以降の文面は知らないはずだわ」
「算砂が、囲碁盤の裏の手紙も誰か別の者が見つけるよのを待っていたかのようだったと言っていたが、君かもしれないな」
「戦国時代や江戸初期は強い将棋指しも強い囲碁打ちも両方やっていた人が多かったと聞くわ。だから本当の二世名人の宗古も両方興味を持って強かったかもしれないよね」

十数日後、船は紀伊水道から太平洋を抜けて紀伊半島から尾張を通過中である。
太平洋では船もかなり揺れてきた。
遠くで雷鳴が聴こえてくる。
風も強まってきた。

もう少しで浜松城なのだが。
船内は宗桂のおっさんと雑魚寝であり宗古との間に進展は無い。
おっさんの配偶者も、まだ聞けずじまいである。
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