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第二十三話

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宗古と吉川たちが乗っている船は安宅船といった戦国時代の軍船である。船の中央にはまるでお城のような建造物があり、高貴な乗客はそこにいるはずである。
風が更に強まり、空が雲に覆われてきた。先ほどから比較的大きな波が横から船を脅かしている。
風で帆がきしむ音がする。
前方と右を見ると黒い雨雲が急激に近づいてくるのが船から見える。
その雲の隙間から稲妻が光っている。
「九鬼様、このままではこの船といえども大きな嵐に巻き込まれてしまいます」
「わかった。帆を畳み、人力走行に切り替えて最寄りの津島湊に避難せよ」
船員と思しき要員の動きに緊張が走る。
「宗古殿も中に入ってください。」
九鬼守隆船長に誘われて、甲板から俺たちはお城のような船内に戻ろうとしたとき、横殴りの強い雨が降ってきた。
雨については間一髪セーフである。
この区切りの船内の一つ上には家康と小那姫がいるはずである。
船内は、軋んだ音がする。
勝吉が居た。
「宗古殿、どうやらこの船には家康様とその一行だけではなく他の客もいるようだ。
船内は広いわりに部屋が細かく区切られているので、ほかの乗客とは会うことが無い」
そのとき、船が大きく揺れ、船内に声が届いた。
「大きな波が接近中。繰り返す。先ほどより、大きな波が接近中」
俺は宗古を片手で抱え、もう一つの手で船内の把手に捕まり低い姿勢を取った。
大きな軋み音がなり、体が投げ出されそうになるが宗古を抱えるように固定することに全力を注いだ。
船が大きく上下に何度も揺れ動く。
戦国時代の船は確か、竜骨がないはず。座礁や耐えきれないほどの大波が来たら船が木っ端みじんになってしまう。

大きな雷鳴が劈き思わず耳をふさぎたくなるが、宗古を守る姿勢は崩さない。宗桂のおっさんもさきほどまではこの天候でも気持ちよさそうに寝ていたが、今はさすがに明日を踏ん張っている。
「また大波が来るぞ」
船外の帆柱が強く軋む音がしたかと思うと木が割れる音がした。
雨も横殴りで船内の壁を打ち付けている音がする。

「帆がやられた。大波が来るぞ」
俺は宗古を部屋の床にうつ伏せに寝かせ宗古自身の手で床の把手をつかませてその上に俺が覆いかぶさりさらに船の横の把手で両手を固定して備えた。
「大丈夫か。」
「船酔いしそうだけれど、わたしを守ってくれるならもっと私の背中に、そして全体に密着して」
船が上下するたびに、宗古の臀部に俺の局所が激しく打ち付ける。こんな危機的な状況なのに、冷静に宗古を守らなければと頭では思っていて、局所は別の生き物にように嵐と同じくらいの状況になっている。
「こういうところで元気になるなんて。でもこれは嬉しいからもっと守ってよ。船酔いが紛れるわ」
宗古に見破られている。俺の顔はたぶん相当赤くなっているはず。

その後も船の横揺れと縦揺れが三十分以上は続き、メリメリという音で生きたこととはしなかったが、あとで船長に聞くと漕ぎ手はこんな時でも漕いでいたようだ。

「津島湊が見えてきた。あと少しだ。座礁に気をつけろ」
船員の声がする。
雨の音がやや収まった気がする。揺れも上下ではなく横揺れだけになってきた。それでも座礁したら一巻の終わりだ。

「津島湊に着いた」
救われた。
勝吉が起き上がり、船の室内から外へ様子見に行きすぐ戻ってきた。
「帆が折れている。数人程度の乗組員が船を降りて行った。
見たような顔をしていたのが気になる」

家康と小那姫が階上から降りてきた。
「皆の者、無事か」
小那姫が言った。
「この船に月がいた。来電も。そして月の横には若い女の姿も」
宗古と俺は目を合わせた。
船でアドバンテージが稼げると思っていたのにこれでは同じタイミングで浜松に戻ることになる。まずいのでは。
宗古も同じことを考えている顔つきだ。

九鬼守隆が家康に言った。
「安宅船は修理が必要です。家康様は伝馬で移動手段を手配します。
陸路で浜松城に移動されたほうが早そうです。
修理が追いつけば、遠江の湊か駿府の湊で落ち合いましょう」
勝吉が、手配しますといって早速船内から出て行った。
勝吉が戻り、馬は手配できるようですと家康に報告していた。
家康様ご一行と俺たちはその馬でまず浜松城に移動することになった。
馬に跨り俺の後ろには宗古が乗っている。俺の背中に密着する宗古の体でまた俺の局所が元気になってくる。
勝吉が言った。
「浜松城に急ぎましょう。さきほど船から降りた乗組員らしき人物のひとりが月に似ていました。多分能楽師の来電も、絵師の貞で本名は雪花で月の妹と言っていた女も船を降りて陸路で浜松城を目指しているのではないでしょうか。月の小面を探さなくては」
家康が宗古に告げた。
「私が肥前名護屋城に行っている間に浜松城主の堀尾吉晴殿が何か見つけているかもしれん。急ごう。
例の文書の三行目以降が見つかった将棋盤も堀尾殿の家来が宮司と倉庫を探しているときに見つけたものだ」
小那姫は厳しい表情だった。
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