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第三十話 シャワールームから高嶺城へ
しおりを挟むホテルのダブルスイートで二十歳前の女子と二人きりで過ごすより、車でドライブをしたほうがいいかも。
刑事が結婚していない十九歳とホテルに泊まるのは問題だよな。
「夜中の2時くらいにホテルに戻ればいいのよ」
いや、朝までドライブでもかまわないが。
「それと古文書の意味を考えないと。古文書のとおりだと高嶺城の山頂付近で何か探さないと。
塚本社長が何か知っているかもしれないから今晩見張ってみようよ。だから車借りて」
美都留は、カレーを食べながらスマホの古文書に映った文字を見つめていた。
「にいきゅうーけい、にーくけい、にっけい」
「わっ。やってしまったかも」
「どうした」
「カレーの最後の一口を服にこぼしたよう。」
レストランで夕食をとった後、荷物を置きにホテルのダブルスイートに向った。
荷物を置くだけだから。
吉川は自分にそう言い聞かせて、美都留とエレベータに乗り込んだ。
部屋の鍵を空けて荷物を置いたら、いきなり部屋の真ん中で美都留は後ろを振り向き、上半身の服を脱ぎ棄てた。
「シャワー浴びてくるね」
美都留の白い背中の肌がすべて丸見えになり、背中の左上に赤い龍のような痣がくっきりと吉川の目に入った。
パンティだけの美都留がブラジャーを外すと微笑んで吉川の方に上半身をひねった。
白く眩しい胸の膨らみとその先のものを手で覆っている。
いや、まずいだろ、これ。
「ブラジャーのところまでカレーが染みていたわ。」
吉川は動揺を隠し美都留に言った。
「ホテルの駐車場でレクサスNXの中で待っているから。
高嶺城に今から行っても何も起きない可能性の方が多いと思うが」
パンティも脱ぎ捨てて一糸纏わぬ姿になった美都留はシャワー室から顔だけ出して、部屋を出ようとする吉川に大きな声で声をかけた。
「夜のドライブデート楽しみ過ぎるわ。
何も事件が起きなくてもかまわない。
二人きりの車内で何が起きるかも。
何が起きてもいいように勝負服に着替えないと。
夢の中の彼氏は積極的だったから、負けないでよ」
吉川は慌てて部屋を飛び出し、部屋のドアの施錠を確認して駐車場に向った。
何か起きてくれたほうがいいのか。
駐車場に向うホテルのロビーで、知っている人のような後ろ姿を見かけた。
あれは、金海五段。大きなバッグを持っているな。
前夜祭は山水園亭に泊まらないのか。
吉川はレクサス車内で美都留を待っている間、山口県警の鈴木から着信があった。
「吉川さん、川田が神戸の三宮に不動産のお客に連れてもらった飲み屋の店と不動産のお客の名前がわかりました。兵庫県警に何か関係するか調べてもらえないでしょうか」
「わかった。至急手配する」
兵庫県警に確認の電話をしてみた。
スマホをスピーカフォンにしていないにもかかわらず、課長の大きな声がスマホから聞こえた。
「別荘内の調理用品には特段問題はなかったが、先ほど急遽所轄署に夜確認してもらったら、明日朝収集予定の大内の別荘近くにあるビルのゴミ収集箱から、既定のゴミ袋ではない袋に包まれたペッパーミルの容器が見つかった。
その容器の底から夾竹桃の毒成分であるオレアンドリンが微量ながら検出された。
淡路島の別荘の事件は、何者かが人為的に夾竹桃の成分を付着させことが確実となった。
これで事故や自殺の意見は無くなったぞ」
「わかりました。私はもう少し、大内、川田、林田の過去をこちらで洗っていきます。
こちらから電話をした用件ですが、川田が昔、山口の不動産のお客から神戸の三宮の飲み屋に連れて行ってもらって同郷の女と知り合ったようです。何か今回の事件に関係するか調べてもらえませんか」
美都留がレクサスに乗り込んできた。
髪をツインテールにして、身体のラインがはっきりわかる上半身がタイトな紫のワンピースだ。
ワンピースのひざ上も短い。
「山水園亭で二日前から自家発電機の故障があったらしいわ。
明日代わりの機械がくるから女流名人戦本番は問題ないらしい。
日本女流名人戦の関係者も前夜祭で不安な人はこちらのホテルに宿を用意すると言っていたみたいね」
「だから、シングル一つすら空いていなかったのか。
先ほど金海五段をロビーで見かけたよ。」
「他の人も泊っているかもしれないわね。
さあ、ドライブデート出発よ。高嶺城へ出発」
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